第 6 話 三の曲輪 寮
グリューンは中身も緑色だった……。
味はサツマイモそのもので、少し微妙な気持ちで完食した。
食べ終わって手持ち無沙汰に成りかけた時、パルメが三の曲輪の通行票である鑑札を持って来てくれた。ステータスカードと同じ大きさで首から提げて使うらしい。
今日の仕事も他の人に任せて俺に付き合ってくれるとのことだ。
三の曲輪の本部にあたるこの建物はただ『館』と呼ばれているらしい、木造の一階建てで三の曲輪には木造の一階建ての建物しか無いらしい。理由は有事の際すぐ取り壊して兵隊を集める広場として使用する為だとか……。
『館』からこれから暮らすことになる寮に移動する間にパルメが教えてくれた。
兎に角三の曲輪は広いので、隣の建物に移動するのも結構大変である。転移魔法は限られた場所でしか使用出来ないものであるし、そもそも平民は魔力量も少ないので早々魔法は使わない。貴族なら馬など使うところも庶民は自分の足を使うのみだ。
ただ、三の曲輪の館や寮から城下までは流石に距離があるので、朝夕の決まった時間内は循環する乗合馬車が有るらしい。
寮の管理もパルメがしているらしく、三棟並んでいる建物の一番奥若干小さめの木造家屋に連れて行かれた。
建物の中央に両開きの扉が見える。ガタピシと立て付けの良くない音を立てるその扉を開けると土間が見える。驚いたことにこの建物は日本の物のように靴を脱いで上がる物のようで、土間の両脇の壁に下足箱があり部屋のナンバーを付けられたそこに靴が置いてある者は在室中である印にもなっている。
玄関の正面、左右に伸びる廊下の向こう、集会場なのか事務所なのか食堂なのか、大きめの部屋があり幾人かの人の気配がする。
スタスタとその部屋に入ってったパルメが、後ろを振り返り手招きをする。後ろに付いて部屋に入ると、七、八人年齢の異なる男達が思い思いに過ごしている様子が見える。
いきなりの管理者の登場と見知らぬガキの姿に、皆動きを止めてこちらを見ている。
「ネルケ!」
そう大きい声ではなかったが静まり返っている部屋の中ではその呼び声は良く通った。
オレですか?とも言いたげな表情で、自分の顔を指差したこの中で一番年が若く見える少年が、散らばった椅子を避けながら近付いて来る。
「確かあんたの部屋の隣か向かいが空室だったよね」
近付いてきた少年を待つでもなく、部屋の中にあったドアを開け隣の部屋に入りながらパルメは少年に問いかける。
近付いてきた少年は俺のことを意識しながらパルメの後について隣室に入っていった。
二人の姿が見えなくなって俺は途方に暮れた。部屋の中の男達は誰一人動くことなく俺に注視したままで、俺も入り口近くに突っ立ったまま動くことが出来ない。
一秒が一分にも感じられる中、実際は五分もする事なく、色々な物を抱えた二人が隣室から出てきた。どうも隣は日用品の倉庫のようだ。二人の腕の中にはシーツや枕カバーのようなリネン類や、木桶や木でできたコップや水差しなど、日頃使いそうな物一式が見て取れた。
誰も動いていない部屋の様子に気が付いたパルメは大きく一つ息を吐くと、
「……みんなも気になっているようだから一応紹介しておくよ……この子はワタル。今日からこの寮に住む。仕事はまあオイオイ決めるよ。ネルケは年も近いし面倒を見てやっておくれ。今日も休みの所悪いけどこれから付き合って欲しい。正式な紹介は朝みんなが集まった時にしてもらうとして……ワタル、一応ここに居る連中に自己紹介して」
大荷物を抱えたまま顎で指図するパルメに面喰らいながらもここは従っておくべきだ。
でも、何を言えばいいんだ?
「ワタルです。今日からよろしくお願いします!」
勢いのみで頭を下げた、腰を90度曲げた最敬礼。アレ?でもこれ日本式の挨拶か?こっちではどうするんだろ?
頭を下げたまま、床を見つめて動きを止めた俺の姿はやはり可笑しかったのだろう。
「あはは〜!何だよおまえそれ!」
荷物を持たされたままの少年、ネルケだったか、が大笑いして体を揺らした結果、抱えていた木桶の中に入っていた木のコップを落とした。
その様子も見てか、今まで物音を立てることなくこちらを窺っていた男達も笑い声を上げて、各々の日常に戻ったようだ。
俺も曲げていた腰を戻すと、まだ笑っているネルケの落としたカップを拾ってパルメに近付いた。そしてパルメの手から持っていた荷物を受け取る。
「気がきくのは良い事さ。ネルケいつまでも笑ってないであんたの隣に運んで」
ネルケは笑い上戸らしい。俺はそんなネルケを振り返り解析を使ってみた。
【ネルケ 17才 シュターゼン孤児院 王城下働き スキル 加治Lv.1 解錠 ……】
……称号って誰がつけているんだ?ステータスの表示も解析のレベルが上がったからか一瞬で頭に入ってくる情報が増えてるし、必要と思う順番をチョイスしているのか?孤児院って、本人の知られたくない物まで見えるのか……
笑っているネルケの顔を正面から見る事ができない……。人に向かって勝手に解析使うのやめようかな……特にこれから付き合って行く人のは……。
俺はパルメとネルケに続いて暗い廊下を進んだ。廊下の両側に幾つものドアが等間隔で並んでいる。廊下の行き止まりから三つ目のドアを開ける。正面に曇りガラスの窓。窓の右下にベッド、左下に小さめの書き物机と椅子。その手前にチェストがあるのが見えた。部屋はそれに大人が三人入ればほぼいっぱいの広さ。でも個室である、十分だ。
ネルケはベッドの上に持ってきた荷物をぶちまけた。それでパルメに怒られている。
俺もその横に荷物を置いた。
「これは、こちらから貸し出す個人用の備品。最低限の物はあると思うけど、服や下着は個人差や好みがあるから自分で購入する事。これから城下の古着屋に連れて行くから今着てるそれを売って普段着を買いな、一文無しなんだろ?」
確かにその通りだし、この服一式をもらったぐらいあいつらには屁でもないだろう。一応服に解析を掛けてみると、履いている靴だけは一種の魔道具で、自動サイズ調整や自動修復の魔法が掛けられている事が分かったのでこれは手元に置いておく事にして、ネルケから普段着を借り寮の前の広場から出る乗合馬車に乗る事になった。
風邪をひきました。肺炎になりました……。




