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第 43 話 反撃の狼煙⁉︎ 5

 サイラス首領が一番気になっているであろう、細君と御子息についての情報、囚われている場所と、現在の状況について殿下の口を使って報告してもらった。


 こちらの情報の多さと正確さに疑問を持っているだろうが、今はそれら疑問に蓋をして殿下と状況の確認とこれからの行動指針を立てることに集中しているようだ。胆力の強さは流石一国の代表者と言えるのかもしれない。


 皇女殿下の近くに潜ませている黒猫もどきは、今もその目から見える状況と耳から拾う音をリアルタイムにこちらに送ってくれている。まだ二人とも目を覚ますことなく、動きもほとんどないが、アンリ君は結構頻繁に寝返りを打ったりしていることから、体に異常を起こす薬で眠らせていない事がわかって少し安心でもある。


 サーチで探っている限り、この屋敷の中に集まっている人数には増減はなく、あくまで彼方の当初の計画の通り、何んとか犯人役を押し付ける予定の殿下の確保が終わってから次の動きに移行するつもりのようだ。


「彼此、この部屋に攻撃が始まって一刻(2時間)近く過ぎたが、まだこのままでいくと思うか?」


 一通り首領に伝える事が終わったのか、王弟殿下は侍従が新しく入れ直したお茶で喉を湿らせていた。


 彼方もいい加減焦れてきているだろうが、はっきり言ってこの建物が破壊されてもこの結界の中は安全と言えるので、彼方が何をしたところでどうにもならないのだ、この場に関しては。


 と言って、このままでは時間が唯過ぎ去るだけなのはこちらとて同じこと。幾ら王弟殿下が知恵をつけても、首領の持つ手駒が余りにも少なすぎることで、有効な手段が取れない事も事実。


 この国(リューグナー)は商人の国であり共和国を標榜している立場上、王国や帝国にあるその国のトップを守るための軍隊、近衛部隊を持っていない。それどころか、警察の役目を担っている警務隊のような軽装の部隊は在るが、本格的な軍隊は持っていない。この国の成り立ちから言って、二大大国、グラオザームとムーティヒそれぞれに関係している者が殆どで、何処にも、誰にも、全く繋がっていない者は居ないと言っていい。


 今回のこの謀は、二つの国が絡んでいることからも、協力者は慎重に選ばないといけない上に、時間にも余裕がない。


 協力者を探す事を更に難しくしているのは、この国リューグナーで、親グラオザーム派の筆頭と目されていた、グラオザームの皇女を娶ったサイラスが、そのグラオザームに嵌められているということだ。サイラスの心情としては、そのきっかけが政略であっても、見合いをしたその日にお互いが恋に落ちた事を、奥目もなく吹聴している本人として、彼女の立場は既に二の次三の次。別にグラオザームを贔屓にしているつもりは全くないと言っている。


 しかし、現実問題として、妻はグラオザーム皇女であり、息子は王の孫であり、仲良く付き合っているのは王の弟なのだ。


 彼と親しい者は自然とグラオザーム贔屓の者が多く、また敵対する者はムーティヒ帝国の関係者が多くなる。


 今回はそのグラオザームが、ムーティヒの顔色を伺うために、子息(王の孫)の命すら危機にさらす事を厭わないのだから……。


 皇女達の攫われている貴族の屋敷に急行させる警務隊の人員にも、気を付けなければいけない。今、サイラス首領は頭の毛が抜けるどころか剥けそうになっている事だろう。


 俺は思わず自分の頭に手をやった。


 俺のサーチ能力をフルに使って、今この時に敵である者を除いた人員で、誘拐犯に捕らえられている下級貴族の使われていない屋敷に強行させた。


 それと、時を同じくして、裏切り者の集まっている商人の別邸にも警務隊を行かせることにする。いまのこの状況で集まっている事自体が状況証拠になると考えたからだ。


「これでも、きっと言い逃れする奴が居るだろうから、ちょっと行ってくるよ」


 俺はリューグナーの謀のトップであろうヴェスターの邸宅に、本人は勿論、彼の妻であるサイラスの姉やその息子もいない事を確認して、転移した。


 ちょくちょく使っていたからか、ケイの演算能力故か、精度も信じられない位上がったサーチと転移の正確性。ヴェスターの邸宅の書斎にピンポイントで降り立った。


 彼の性格を表しているのか、きっちりと整えられた机周り。この部屋自体が一つの金庫のような扱いなのだろう、入り口の扉にはしっかりと三つほど鍵がかけられている。


 が、室内の机の引き出しなどには一切鍵はつけられていない。


「泥棒の真似をするのは初めてだな……」


 何処から手をつけていいか途方にくれると、頭の中のマップに印が現れた。机の一番上の引き出し、下から二番目の引き出し、本棚にも数箇所の印。


「……なんかすげぇなぁ……ケイ…」


 自分自身の能力としても、思わず引いた。


 わかっているのにわざわざ無駄な時間を使う事もないので、教えられた所だけを見せていただく事にする。


 ヴェスターは本当にマメで几帳面な性格なのだろう、これまでの今回の謀における全ての記録がしっかりと残されていた。会議(悪巧み)の議事録は勿論の事、本棚に綺麗に並べられた日記にも、事細かにその日1日の出来事とその時の心情が書き込まれていた、1日も欠けずに。


「この日記って……、すっげ、40年分はあるんじゃね」


 ケイのチェックが入っていなかった、一番古そうな日記を手に取ってみると、まだたどたどしい文字で、本当に子どもらしい文章が綴られていた。


『きょう の おてんきは くもりです とおさま が あさから おうちに いらっしゃって ぼくは とても うれしいです 。こんど おうまに のせていただく おやくそく を しました』


 生まれてきたときは誰もが善人。


 性善説が頭の中をよぎった。それとともにこれからヴェスターが辿るであろう道筋も……。


 日記を持ち出す事に少し躊躇したが、その日に会った人物の事と、何を話したかも事細かに書き込まれていることから、引き出しの中の既に首領にでもなったかのごとくのグラオザームとの契約書とか、今回の誘拐劇のシナリオなどとともに、俺のアイテムBOXの中に入ってもらった。


「立つ鳥跡を濁さずってね」


 表向き誰も入室していないように本棚の隙間などをわからなようにして、王弟殿下の待つ部屋へ転移する。きっとこの部屋の主はこの部屋に戻ってくる事はないだろうし、この部屋にはきっと召使も入れていないだろうから部屋の中が少し変わっていようが誰もわからないだろうが。


 いきなり部屋に現れた俺の姿に、侍従と護衛騎士の二人は随分と驚いたようで、侍従は持っていたポットから紅茶をこぼし、護衛騎士は反射的に抜いた剣を構えていた。


 殿下は何に動じる事もなく悠然と紅茶を口に運んでいた。慣れたのか?


 そんな殿下の目の前にさっきアイテムBOXに突っ込んだ資料や日記を積み上げた。


 殿下はその紙の山を一枚一枚右から左に移すような速さで目を通すと、日記にも手を伸ばしサラサラとそのページをめくって行った。側から見れば流し読みしているみたいに見えて全部頭の中に入っているんだから、この方もチートだよね。客観的にみてあの姫巫女(ビッチ)の尻の下に敷かれているようにしか見えない王様より能力もその外見も何段も上なのに、年齢とか母親の身分とかで冷や飯ぐらいとか、何考えちゃってるんだろう……。


 そんなことを俺がぼんやり考えている間に書類等の分別作業も終わったようだ。


「うん、これであちら側がなにを言ってきても、サイラスの方は大丈夫だろう」


 気持ち的なものまでこちらでフォローできないから仕方がない。サイラス首領本人だけではなく姉やその子供にも辛い思いをさせるだろうが、幼い何の罪もない子どもの命には変えられない。ましてそれが自分の子どもであればなおさらのこと。


 こちら側としては、サイラス首領達が皇女殿下達を助け出したところで、王弟殿下達を目的の場所へ転移で運ぶだけだ。今回は一瞬でとは行かないが、今日中には目的のダンジョンタウンの入り口近くまで行ってしまうつもり。俺は戻って来るけど。


 王弟殿下が通信の魔道具で連絡を入れると、一呼吸おいてからサイラス首領の声が聞こえてきた。


 あちらの準備は秘密裏に行わなければならない上に、人員の選抜も慎重にならざるおえない状況であるから、後一刻は掛かると言われた。首領自体それほどの時間が掛かる事に、唇を噛み締めるほど悔しい思いをしているのがその声音から伺える。


 黒猫もどきの視線に意識を移すと、皇女殿下は既に気絶から目を覚まされている模様で、まだ意識の戻っていない子息をただ抱きしめている。見張りが覗きには来ていない。きっと嗅がせた麻酔薬は普通の人間であるならばもう少し目が醒めるまでに時間が掛かるのだろう。しかし皇女殿下はその身分が示す通りであるから、毒や麻酔薬に子どもの頃から耐性をつけるべき体験を負わされていたと思われる。それは今目の前で通信を受けている方も同じだろうが……。



2週間ぶりの投稿になってしまいました。『せめて週1回は!』も中々実行できません……。

毎日更新している方には本当脱帽です!

今回ので全くストックが無くなってしまったので頑張って執筆モードに入らないと‼︎


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