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第 30 話 王弟殿下 4

「そして、これは……」


 殿下は先程見せられた書類とは見た目の感じも違う、魔法の掛かった紙の束をテーブルの上に滑らせた。


 ぱっと見、只の真っ白な紙束にしか見えないものだ。


「保護の魔法が掛かっているんだよ。一応許されたものしか閲覧できないように……しかし、君は見る事ができるだろう?」


 殿下の声を聞きながら紙束を手に取る。紙に指先が触れた時、ピリッと小さい痺れを感じたが、その途端何も書かれていなかった真っ白な表面に一瞬にしてこの世界の文字が浮き上がってきた。


「……流石だね、解呪の魔法も使わず文章をあぶり出すなんて……」


 余りにも呆気なく魔法を解いてしまった事に殿下も驚いているようだ。


(俺も驚いたけどな……)


 俺が意識するまでも無く、ケイが気を利かせて?書類を読む事に邪魔なものを外してしまったようだ。


 殿下も、口では簡単にできるだろうと言いながらも、ここまでとは想像していなかった事だろう。驚いた表情を浮かべたのは一瞬で直ぐに人の悪そうな笑みを口の端に浮かべていた。


 俺は何か言いたげな殿下を無視して、文章に意識を向ける。


「……」


 魔法を掛けるためには丈夫なものでないといけないのか、随分と厚みを感じる紙である。


 本当は手にして目にした途端、結構枚数のあるこの文章の解読は終わっているのだが(ケイが……)、一応のポーズもあるし内容を噛み砕く為にも自分の目で字を追ってみた。


 ごわついているその紙には、これから行われる『勇者達による第一皇女救出作戦』の内容が書かれていた。


 概要?……と言うのかな、一番はじめの大見出しには『コソっと行って、ササっつと攫って、見つかったらドバンっとやって、パーっと帰ってくる作戦』と書かれている。


 ここの公文書をきちんと見たことがないのでわからないが、こんな感じが普通なのか、それともこれを書いた人がよっぽどなのか……。


 次項からは一応それなりの体裁をとった文章が載っているので、はじめのページを書いたやつが◯◯なんだろうな……。


『隠密行動が基本であるので、作戦遂行人数は最低限のものとする。勇者様4名とそれの従者として騎士を各1名。上級魔法を行使できる魔法使いを1名。兵站の面からアイテムBOX持ちを最低1名。』


『敵国への移動についてはできるだけ速やかに行うこと。転移魔法を使うのが一番であるが現在勇者様も会得できていないので、王国近衛の所持している駿馬を用いて移動手段とする。勇者様達は乗馬技術を持っていらっしゃらないので馬車の形で移動する。』


『敵国内への侵入方法については自国民を使って侵入する。敵国王城内部への侵入についても前と同じ。現在条約締結の為我が国王族も滞在中の為それらを利用して第一皇女を奪取する事とする』


 云々云々……。


 知らないうちに俺も王弟殿下もこの計画書に登場していたね。


 確かにこれは、コソっといってササっと攫って〜ですね。


「……」


 一頻り目を通した後、顔を上げて殿下と目を合わせた。お互い小さく溜息を吐いた。


 内容も内容だけど、この書類をどのようにして手に入れたのかは聞くまい……。さっき御本人が言われていたように、そのような事がサラッとできなければこの魔窟で生き残る事すら難しいのだろう。今回はその恩恵を俺も受ける事が出来そうなのだから、まだ色々持っている力を隠しておきたい俺としてはありがたい事だ。


(敵の敵は味方ってか……)


 自惚れる訳ではないが、今直ぐこの城からもこの国からも飛び出す事も容易くできそうだ、ケイも否定しないし……。でも、まぁ一度だけはこの国の言われるままに使われてやろうと決めたから、今度の奪還作戦?には荷物持ちとして使われてやる。外からはわからない事も多々ある、それと勇者様(笑)達の今も知らないといけないしな。


「私もきっとこの作戦とやらに参加させられるだろう、どのような命令(いいわけ)を持ってくるか。まさか私に第一皇女が自らこの国への帰還を求めている、などと嘘は言えないだろう?」


 何を言ってくるか楽しみだな、と今まで見た中でも一番の黒い笑みを浮かべている。


(…怖っええぇ……)


 レベルとかの問題じゃなくて、鳥肌が立っちゃったよ!思わず腕をさすると、それを見た王弟殿下の片方の眉だけが上がった。


「具体的に俺はどうすればいいんだ?」


 王弟殿下への俺の身体的変化はまるっとなかった事にして、話を進める事にする。ここに招かれて?から結構な時間もたっているしな。


「そうだね、私と君が馴れ合っていると思われてもいい事はないし……。ここに君が来ている事は私の部下以外知らないしな。彼方の方々は悪巧みの準備で忙しいらしい。その中には私の扱いについても入っていると思われるな」


 殿下も俺の身体的防御反応(トリハダ)はなかった事として扱ってくれたようで、少し緩んだ空気を締め直しつつ、自分のペースを取り戻していた。


「いない事になっている私がこの国に既にいる事は、下の方から今頃上の者に伝えられていると思うが、君も未だに三の曲輪で飼い殺しのままの認識だろうから、今日はこのまま帰っても大丈夫だと思う……。しかし、このまますんなり使われるのも噴飯ものだ、と言って君の居場所がわからない事で君の周りの者に迷惑がかかる事も良しとしないだろう?」


 何をするのかわからない奴ら、というより、自分のしたい事をするのが当たり前の主に頭の沸いている巫女姫辺り、は、常識的な行動に期待ができないらしいので、ここは彼等の事を良く知っている王弟殿下に任せる事にして、ここに来るときに辿った道を帰る事になった。


 三の曲輪から案内してくれた、パルメの事が気になったが、パルメは巫女姫達の一派とは一線を画している皇太后様に仕えているから、逆に巫女姫達からの悪手が及ぶ事はない、との事で少し安心した。これから戻る時も二の曲輪からの送りはパルメがしてくれるらしい。今少し待たせ過ぎの感じがするが、パルメもこの時間は久しぶりの主君との再会に時を過ごしているらしい。


 彼方の陣営に存在の認識すらされていない状態にあるとは言え、長時間この敵の本拠地でもある一の曲輪内にいるのは余りよろしくないという事で、これからの詳しい取り決めは明日以降王弟殿下の呼び出しに俺が応じる形で行う事とした。


 早くとも五日前後は彼方が作戦を行うにしても時間がかかるだろうという事だ。特に、王弟殿下の扱いが頭痛の種になるだろうと、その本人が笑って言っていた。


「呼び出しの時にはこの魔道具で行う、魔力の使用量が多いので滅多な奴は使いこなせないが、君は大丈夫そうだ」


 そう言って、殿下は懐から丁度スマホに見えなくもない黒い物体を取り出した。渡されたそれは、大きさにしては随分と重さがある鉄の塊に見える物。勿論スマホのような便利グッズではなく、知っている物で言い換えればトランシーバーのような物で、決められた一対の箱以外通信ができない、そんな道具。俺にしてみれば使い勝手が悪い上に消費する魔力も多く、全く魅力を感じない道具であるが、これでもこの世界では破格の物らしく、それを俺に手渡そうとする殿下に戦闘侍女さんが目を剥いていた。


 何人もの人と連絡を取りたかったら、こんな物をその人数分持たないといけないのか……。非効率だし何より重たい。今はなんともし難いが、作戦とやらで殿下と共に連れ出された時には、もっとまともな魔道具を作って渡す事も考えておかないと。


 頭の中では随分な事を考えつつも、殿下の好意を無にする事なく恭しく通信具を受け取り扱い方のレクチャーを受ける。基本俺からは殿下に連絡を入れる事はしない、呼び出され専用だ。ただ、いつ連絡が来ても受け取れるように常に魔力の補填は十分にするようにと、戦闘侍女さんから口が酸っぱくなるほど言われた。それを見ている殿下さえ苦笑いを浮かべるほど。


「ただし、緊急事態においては連絡を入れる事を戸惑わないでくれ。これから私と君はある意味一蓮托生なのだから」


 そんな恐ろしい言葉を聞かされて、俺は帰路についた。


 終始無言のまま一の曲輪の転送部屋から二の曲輪に飛び、二の曲輪の暗い廊下を戦闘侍女さんと歩く。来た時は一の曲輪で顔を合わせた彼女だが、帰りは念のため二の曲輪で待つパルメの下まで届けてくれるらしい。


 パルメは、三の曲輪に一番近い扉の横にある部屋の中でニーナと二人で待っていてくれた。ニーナは戦闘侍女さんと知り合いらしく、アイコンタクトを交わしている。


「そう言えば、この服……」


 今着ている服はここで渡された物で、俺の物ではない。返さないといけないことに気付いたが、この場で脱ぎ出すわけにもいかない、どうしようかと一番信頼できるパルメに視線を送る。しかし今この場で立ち場の一番高い者は戦闘侍女さんなのだろう、俺の視線を受けたパルメが、その視線を戦闘侍女さんに向ける。


 流石スキルのレベルが高い王族に仕えるだけはある(言いすぎか?)侍女さんたち、直ぐに言いたいことがわかったのか、改めて問いかけることなく、服はそのまま持ち帰ってくれていいと言う。しかし、このままの格好で三の曲輪に帰るわけにもいかず、パルメたちが待っていた部屋で入れ替わりに着替えさせてもらった。


 ニーナと戦闘侍女さんとはその場で別れ、パルメと二人きりで三の曲輪まで戻った。明かりは手に持つカンテラ風の魔道具の薄明かりだけ。パルメも彼方で何か言われているのだろう。今までにない壁ができている感じもするし、何かを少し窺うような雰囲気も漂わせている。


 今までのパルメとの違いに、心の中に冷たい何かが吹き抜けていく感じがした。一方的なこちらの気持ちだけど……、パルメの方が俺よりより一層悲しい気持ちが満載かもしれない。


 今晩はもう遅いので館の中にある当直室のようなところに泊まるのだそうだ。二の曲輪でニーナが尋ねているのが聞こえてきていた。館と寮との分かれ道に差し掛かった時、初めてパルメが口を開いた。


「詳しいことは何も聞かされていないけど、あんたがあの場に呼ばれたということがどんな意味を持つか少しは私にもわかってるよ……。危ないことに巻き込まれているようだけど……。何も言わずに行くのかい?」


 パルメの目には薄っすらと膜が浮かび上がっているのが、カンテラの薄明かりの下光って見えた。


「丁度四日後が休日だしそこまでは、今までと変わらず過ごすことになると思います。その後のことは……。パルメさんには迷惑をかけると思いますが」


 パルメも元上級侍女。それ以上何も聞かず、館の方に歩いて行った。


 図らずも、また寮に戻ってこれたのだが、これから先のことは一切誰にも話すことはできない。王弟殿下は一応信頼することにしたが、それ以外はここ三の曲輪でよくしてもらった人以外誰も信じることはできない。そのよくしてもらった人に、これからの事を話す事でどんな災難が襲いかかるかわからない。寂しいが、何も言わず消えるしかないだろう。


「この世界自体を信じる事ができないからな……」


 寮の扉に手を掛けながら、そんな言葉が思わず口から溢れでていた。




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