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砂槍の用心棒  作者: 蓋
序章~主無き用心棒
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1.5~イン・ザ・ストーム 編集中


爺さんが居なくなった日、ある話を聞かされた。


それは、爺さん…「イシュルム」の過去についての話だった。




酒場の2階、一番手前の部屋。

そこには鬱陶しいほど赤く染め上げられた夕日が差し込んでいた。

窓からは「爺さん」の捜索から帰って来た男どもがわらわらと集まってくるのが見えるが、やはりそこには見つかった「爺さん」が一緒にいる様子はない。



「………グリアス。」



開け放たれた扉からかけられる声。

その主は、中身の割に見た目の若いネイクルだった。

彼の瞳はまっすぐに部屋の中央に鎮座する大男に向いていた。

遅れてその巨体はゆっくりと立ち上がり、そしてまたゆっくりとネイクルの方へ体を向けた。

その表情は不安に支配されたように沈みきっており、それは豪快なグリアスの面影すらを感じさせないほどだった。

そのままグリアスは数歩こちらに寄ってくる。

そして夕日の赤がその顔色を飲み込んだタイミングで、バヒムはネイクルの背中越しに言った。


「……爺さんは見つからなかった。」



数秒の沈黙……そしてそれぞれに沸き上がる複雑な心境

赤く照らされたグリアスの顔には、迷いの色が加わったように思えた。

その色にバヒムは打ちのめされた。


娘が助かったグリアスと爺さんが助からなかったバヒム………。

後者が前者に対して抱く感情の変遷を考えれば、グリアスが返す言葉に迷うことなど必然だった。

しかし、その迷いを受け取ったバヒムの内心はより路頭に迷っていたのだ。

彼はこの一大事に軽く冗談を言えるほど余裕ではないし、痛烈な皮肉を吐けるほどバカでは無かった。

グリアスにとっても爺さんが重要な人物だったということを彼は重々理解していたのだ。


怒りをぶつけたり悲痛を吐いたりできたのならどれだけわかりやすく、そして単純に言葉を選べただろう。

今はただ黙ることしか出来なかった。


グリアスの向こう側…そのベッドの上に彼女は眠っている。

音もたてず、この場の難しさを知ることもなく。

彼女が爺さんの代わりにローブの中に居たときには正直、落胆さえしかけたがそう思う自分を客観視すると恐ろしささえ感じる。




「………バヒム…なんと言えば……良いのか……」


グリアスが口を開く。

絞り出したようなつたない言葉………

その言葉に、俺の感情は規則の無い幾何学模様を描く。

息苦しい。


グリアスの娘…彼女だけでも助かって本当によかった。

どちらかだけしか生き残れなかった状況だったとしても、爺さんはもう歳だった上に、俺は所詮爺さんと血も繋がっていないのだ。

あるべき形……これでよかったんだろう。




「………爺さんのことは良いんだ。」


口にすると少しだけ、息がしやすくなったと思う。

それでもグリアスは赤く照らされた難しい顔のままだった。

気持ちの悪いむず痒さが体の関節を固めていくのがわかる。


「……なぁグリアス、話してやっていいんじゃないのか?」


口を開いたのはネイクルだった。



「話す?」


当然のことだろうが、なんの話なのかをバヒムには察することが出来なかった。

しかしグリアスは違った。

赤い光を反射するその瞳の色が変わった。




「拾った日記は読んだのか?」



「爺さんの日記なら読んでない。」



「そうか……。ネイクル、外のやつらの様子を見てきてくれないか?

いつまでも店の前に群がっていられても、なにかと勘違いされたら困るからな。」





「…わかった。」




ネイクルが下の階へ向かって階段をおりて行く。


程なくして俺とグリアスは部屋に二人きりになった。

いや、グリアスの娘を含めると三人だった。



「まず、バヒム。

先に謝らせてくれ。」


グリアスは深く頭を下げる。

その動作でやっと、グリアスの顔は赤い光の外側へとずれた。



「どういうことだ?」



「今回の件、俺がしっかりカタをつけておくべきだった。

イシュルムさんは俺にとっても大事な人だった。

本当に…不甲斐ない……」



「………。」



「かつての俺たちの国、永遠の祖国『砂漠のジェフリア』………

もう二十年前だ………


俺はかつて戦士として戦っていた。

王親ディーゼン直属の二対の戦士

ジェフリアの迅雷……そう呼ばれたりもした。

そして二対のもうひとり、友であり相棒でもあったのがジェフリアの疾風……ガルンドという男だった。


俺たちは共に戦い、最後は国と共に死ぬ覚悟だった。

それだけ当時のジェフリアは戦争でぼろぼろだった。


だがある時、アイツは国王の暗殺を企てた疑いで永久に追放された。

突然の出来事だった。

アイツを信じていた俺は、にわかにそれを受け入れることなど出来なかった。

普段の言動や態度からアイツは誰よりも祖国を愛していたと俺は思っていた。

だが俺は、それと同時にアイツの中の闇にも勘づいていた。

だからこそ、追放に異を唱えることが俺にはできなかった。


………アイツとはそれ以来だ。」




「まさかそのガルンドって男………」



ジェフリアの疾風……

そのフレーズにバヒムはピンと来ていた。

昨夜、フードの隙間から顔を垣間見たあの男。

軽やかに砂上をかけていったあの男。

爺さんが追いかけていったあの男。



「ああ。

昨日の騒動を起こして俺の娘をさらっていったのはガルンドだった………


アイツが追放され程なくジェフリアは失われ、戦争は終結した。

きっとどこか異国の地でジェフリアの……俺たちの祖国の最期を知ることとなったのだろう。

なのにアイツにとっちゃおかしな話だろ?

俺たちが生き残ってるんだからな。

そりゃ怒るだろうよ…………。

だから昨日のは、アイツを見棄てた俺への復讐なんじゃないかって俺は思うんだ。


いつかこうなるんじゃないかとは思っていたさ。

だからこそアイツを探して生きていることを伝える気にもなれなかったんだ。」




「でもどうして爺さんがそのガルンドとかってやつを………」




「いいか?心して聞け。

お前の言う爺さん………彼はジェフリアの王親ディーゼンその人なんだ。」




「は?

まさか、そんな話を信じろって言うのか?」




「本当のことなんだから信じるもなにもないさ。

確かめたいならその日記を見てみるといい。


そいつはお前の爺さんが昔から持ってた貴重な品だ。

きっと当時のこともかいてあるだろう。」




「なんだって今までそんなことを俺に隠して………」


グリアスが明かしたことが、俺には飲み込めなかった。

いままで爺さんと一緒にいて、自分がそんなことを知らされずにいたことが信じられなかった。

いやそれ以前に、自分がなにも知らずに生きていたことの方が信じられなかった。



「お前には明かしてもよかったのかもしれない。

だが、そう簡単な話でもなかったんだ。


何せジェフリアの王親ディーゼンは戦場で討ち取られたことになっているからな。」




「どういうことだ?」




「生き残るための選択肢………

敵の兵士と取引したんだ。

俺たちが歴史の表から姿を消し、ひっそりといきるのなら見逃して貰える。

そういう提案だった。

攻城の炎によって、ジェフリアの王城や戦士たちは失われ、誰もがジェフリアの敗北を…最期を悟っていた。

ならば、敢えて俺たちを殺す理由はないと、そいつは言っていた。


すごい話だよな………今やその取引を提案した兵士はジェフリアの王ならびに王親を討ち取ったという半分偽りの功績で将軍の位まで上り詰めたんだから。」




「…………」



バヒムは脳内に疑問すら浮かばないほど、圧倒されていた。

あまりにも壮大な話が、次々とグリアスの口から語られていくのに、情緒が追い付いていなかった。




「すまないなバヒム………一度にいろんなことを話しすぎたかもしれない。」



「いや、いいんだ。

ただ少し驚いてるだけだ。」



「無理もない………。

だが、この話はここだけにしてくれ。

あんまり広まると困るからな。


特にジェフリア王家直系の血が続いている点は控えておいてほしい。

ことが公になれば、将軍の立場が危うくなって俺達はその隠滅のために消される。」




「直系の血も何も爺さんはもういないんだ。

関係ないだろ……今さら」




「そうか、お前は知らなかったな。

俺の妻はディーゼン様の娘。つまり王様の妹だったんだよ。」



「は?」



「ジェフリアでは女に王位継承権はない。

だから王家に生まれた娘は腕のたつ戦士に貰われていくことが専らだった。

俺もその一人って訳さ。」


バヒムには今さらグリアスを疑おうなんて気は起きなかった。



「ただなぁ………

やっぱり心配なのがガルンドなんだ。

いったいアイツはどこで俺たちが生きていることを知ったのか………。


言い方を変えれば、どこからジェフリア王家の血が続いていることが漏れたのか………だな。


なぁ、バヒム。お前はこれまで『爺さん』の用心棒としてやって来ただろう?

イシュルムさんがいなくなって、これからどうする気なんだ?

変わりに行商を続けるのか?」



「そうだな。それも考えないといけないな。」



「なぁ、俺に雇われる気はないか?」




「グリアス………この店の用心棒ならお前で十分だろ?俺のことを心配してくれるのは嬉しいが、別に気を使ってほしい訳じゃない。」




「そうか。なら安心した。」



「俺は明日も少し、爺さんを探してみるよ。

不思議とまだ生きているような気がするんだ。」


俺はそう言い残して、その場を後にした。




「…………ああ、俺もそう思ってたさ。


だろ?ガルンド………」



グリアスの声は夕日の赤が射し込む部屋に染みていった。




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