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砂槍の用心棒  作者: 蓋
1章~砂と水
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11.鉱山街〜前編

リアネキードの街の北には重要な魔石鉱山がある。

この鉱山で取れる魔石の最高濃度は高品質の紫色であり、この魔石を買い付けて王都や南の同盟領ヘ売りにゆく行商人で鉱山街はいつも賑わっていた。

街としての正式な名称や行政があるわけではないが、鉱夫や行商人を相手にする宿や酒場が集まるなどして一つの街のような活気と営みがあり、それはいつしかこの場所を鉱山街と呼ばせるほどに発展させた。


そんな鉱山街にバヒムとメリエラ、そしてサラはやって来ていた。

ネイクルとは別行動であった。



酒場での「一件」としてかたずけるにはやや複雑にも思える一件の後、四人にはもう一度作戦を練り直す必要があった。

ネイクルの見立てによると魔女の狙いはサラであったという。

根拠は勘だとは言うがグリアスのメモから考えてもそのように思えないことはない。

しかし魔女の最後に残した言葉…メリエラにはあれが引っかかっていた。

勘以上の何かをネイクルさんはおそらく知っている。

これまでもネイクルさんはそうだった。

大事なことは教えてくれない…

しかし彼女自身これ以上この件に首を突っ込んでいる余裕はなかった。

それはもちろん彼女の用心棒となることを決めたバヒムにも同じことが言える。

そう、彼女らは槍を届けなければならないのだ。

託された偽物の槍を…

しかし、人が一人消えて、その娘が取り残されているような状況を彼女が見過ごすことが出来ないのもまた事実である。

今や酒場を切り盛りするグリアスがおらず、身寄りのない彼女をどうするか…

少なくともグリアスをこの一日、もしくは数日で発見できる見込みはないような気がした。


「もしも…もしもだよ?このままお父さんが見つからなかったら…私はどうなるの?」


不安げなサラの問いかけに真っ先に声を上げたのは、他でもないバヒムだった。


「グリアスが…爺さんが今まで俺を拾って護ってくれていたことに俺は感謝してる。だからサラ、今度は俺がお前を護ってやる。」


「だがバヒムお前は、メリエラと共に槍を届けるんだろう?」


「確かにそうだが…二人とも…メリエラもサラもきっと護って見せる。」


「そうじゃない…。サラを同盟まで連れて行くのか?旅にサラを巻き込むのか?」


「もちろんサラが嫌だっていうなら俺にはどうしようもないが…。でも…ふふ、そうだな…サラ、お前には奇跡を起こす力があるんだ。一度は体が止してもまた動けるようになって、しかも一度はあの灼熱の吹雪から生還してる。同じなんだあの時と…。

本当に魔女に狙われているとしたら、きっと俺たちの旅は簡単な道のりじゃないだろう。でもだからこそ、その奇跡の力、俺に分けてくれないか?」


それは昔、バヒムが直接受けた言葉に酷似していた。

穏やかな声色と優しげな顔。

ネイクルでさえ、バヒムのこんな表情は見たことがない気がした。


誰かが教えてくれた温かさ、いつか忘れていたような懐かしい感覚。

サラの両眼にはかすかな雫が滲んでいるように見えた。


「まぁもしもの話だけどな。きっと俺たちでグリアスを見つけよう」


しかし、カラスから得られたグリアスの手掛かりは、カラスがカラスではなかったことによって信憑性を失ってしまった。

どこまでが嘘でどこまでが本当なのか、はたまたすべて嘘なのか…

あの魔女は推察の材料を一片も残さずに消えてしまった。

彼女の正体が何で目的が何であるのか、それすら勘以外に推測の余地は多くない。

しかし、あの魔女がグリアスに扮していたということは、確実に魔女がグリアスの行方を知っている必要があるし、変身の魔法の都合上一度以上は詳しくグリアスを観察しているはずだ。

つまり、グリアスはあの魔女によって何かしらされた可能性が高い。

加えて、その目的もグリアスと関連していることは言わずもがなである。

もしかすれば既にグリアスは…

全員最悪の結末については簡単に想像できていたが、あえてその場で口にするほど愚かな者はなかった。


できることは限られているが今回、4人はひとまずカラスの残した証言を頼りにグリアスを捜索することにしたのだった。

しかし、ネイクルはここであの魔女がサラを狙ってくる可能性を考慮していた。

サラを一人で酒場に置いておくのは危険だし、何より本人が待ってはいられない様子だ。

ネイクルならある程度、魔法戦には対応できるが魔女相手では力不足の可能性も否めないし、バヒムでは知識不足、メリエラでは実戦不足だった。

そこでネイクルはこう提案した。


「バヒム、メリエラ、サラは3人で鉱山の方へ行ってグリアスの仲間たちに事態を伝えてきてくれないか?グリアスを探すならきっとあいつらも協力してくれる。」


「ネイクルはどうするんだ?」


「一人で『近道』の方を探してみる」


「確かにあそこも岩場で洞窟みたいになってたな…でも一人で行くのか?」


「俺なら一人で大丈夫だ。何より奴の目的がサラだとすれば、このタイミングでまた接触を図ってくるかもしれない。だからサラの周りには人が多いほうがいい。鉱山街まで行けば人目は多いし、軍の治安部門が滞在している。奴も簡単に手出しできないだろう。」


これにはバヒムもメリエラもそうするのがよかろうと思った。

こうして、3人は鉱山街を目指すことになるのだが、メリエラには出立の前に一つ疑問があった。

それはサラにも母親がいるはずであるということである。

メリエラが酒場で最後の最後にこの質問をしたところ、案の定サラの顔には複雑な感情が表面化したように見えた。

メリエラはそこで、聞くべきことではなかったかもしれないと後悔するが、回答はメリエラの予想とは違った。


「お母さんは島に行ったんだ…、病気を治すためにね」


病気?

メリエラは島に行かないと治せない病に等心当たりはなかったし、普通のことではないと思った。

それにこの回答ではどこの島に行ったのかまで知ることはできなかった。

ただ、サラの複雑な表情を見てこれ以上詮索しようとはとても思えなかった。

しかしネイクルやバヒムも詳しいことは知らないような反応だったのが意外なことではあった。


バヒムによると数年前からサラの母親を見なくなり、グリアスに聞いたところ言いにくそうに病だとだけ答えたという。

ネイクルもそれ以上の情報は持っていないらしく、サラの様子を見るに母親のもとに向かうのは現実的ではないらしかった。


これ以上考慮すべきことを増やしても状況の解決にはつながらないと思ったメリエラは大人しくネイクルの指示に従うことにした。

鉱山街まではリアネキードから道が続いており、知り合いの商人を見つけたバヒムの活躍もあって、鉱山街には少し早めに到着した。


馬車に乗せてくれた商人にお礼を言うと、3人は馬車を降りる。

踏みしめた大地は砂の地面より硬い砂と岩石のまじりあったようなものに変わっていた。


「ここが鉱山街だ。」


メリエラとサラの方に向かってそう言ったバヒムの背後には途方もなく高くそびえる岩山とそれに向かう道に連なった街があった。

サラはこの場所に来るのが初めてではなかったが詳しい記憶はない。

一方のメリエラは来たことこそないがある程度の情報は持っていた。

そのため天をも貫かんと迫る巨大な岩山を前にした時のメリエラの様子は、リアネキードに到着したときのメリエラの感動っぷりを考えるとややそっけないようにも思えた。


「それで…

これからグリアスさんの知り合いの方々に協力を仰ぎに向かうんですよね」


「ああ。この時間ならまだ鉱山にいるだろうからひとまずは鉱山に向かおう。」


バヒムは二人を先導するように鉱山へ向かって歩き出す。

一行はいくつもの建物を両脇に通り抜けて行き、岩山直前まで迫ったところで大きな開けた広場の様になっている場所に入った。

一帯は広く簡易的な柵で囲われており、所々に大量の鉱石を乗せた荷車がいくつも固めて置いてある。

荷車の周りは休憩をしている様子の人だったり、何やら商人と交渉をしている様子の人だったりが固まっていて、そのほかの人は岩山に開けられたいくつかの穴の中と外を行き来して忙しそうにしている。


こうして3人は鉱山街から鉱山に入った。

メリエラとサラは立ち止まってこの景色を少しの間珍しそうにきょろきょろと見ていたが、バヒムは違うものを探してきょろきょろと見まわしていた。


するとそのとき、二人並んでいるメリエラの左肩とサラの右肩にポンと手が置かれた。

二人は驚きのあまりびくりとして、後ろを振り返る。


「おっと悪い悪い、驚かせちまったかな…」


そのセリフに反して顔がにやけている男は軽く謝るような仕草をする。

ここでバヒムが遅れて気が付き、ここにいたのかと言って挨拶をした。

この男こそ、バヒムの探していた人物なのであった。


「ふふ、お前も隅に置けないなぁバヒム?それでいったいこの二人のお嬢さんはお前とどういう関係なんだ?」


調子のいい男だとメリエラは思った。


「すまんが、あんまりお前とじゃれあってる暇はないんだ。

頼むから黙って聞いてくれガルザ。」


そう言うとバヒムは続けてメリエラとサラに、このガルザという男がこの鉱山のこの区画の鉱夫を取り仕切っている男だと紹介した。

加えてガルザにも同じようにメリエラとサラを紹介した。

しかしサラの紹介に関してはそう簡単にいかなかった。

それも当然のことである。

このガルザという男はジェフリア人であり、グリアスのことは当然知っている。

ともなればバヒムは極力わかりやすくサラに何が起こったのか詳細を語らなければならないことになり、ガルザはそのあまりに信じ難い内容ににやけた表情をこわばらせることになった。


「なるほどなぁ、にわかには信じられないが…

本当にその子がグリアスさんの娘なんだな?」


「そうだよ」


バヒムが答える前に本人が答えた。


「だったらサラちゃん、おじさんのこと覚えてるか?」


「あ、え、えっと」


サラは言葉に詰まってしまう。

なぜなら彼女の記憶にはこの男は登場しないからである。

覚えている限りのどの記憶をさかのぼってもわからない。

むしろこの男があたかも知っていて当然のような質問を投げかけてくることの方が、サラにはおかしく思えた。


「覚えてるわけないだろ。お前が最後に酒場に来たのいつだよ。」


「うーん何年前だったかなぁ?でも仲間からグリアスさんの様子とかはちゃんと聞いてたぞ?」


バヒムはやれやれといった手ぶりをすると、今度はそのグリアスについて話した。

いつの間にか魔女と入れ替わってしまっていたことをネイクルが話していたことも含めて知っている限り詳しく。

そして協力を求めた。

グリアスの行方についての情報や捜索の協力を。


これも改めて口にしてみれば非常に信じがたい出来事だったとバヒムは思った。

こんな突拍子もないことを言ったところでガルザが信用してくれるのか、疑わしくさえ思えた。

しかしそんな心配は無用だった。

これを聞いたガルザはすぐさま周りの鉱夫を数人集めて何やら指示を出した。

指示を聞いた鉱夫が穴の中に走っていくのを見届けるとガルザは3人を広場のすぐ外にある建物へ案内した。


「なぁバヒム、本当にグリアスさんは鉱山に来たのか?」


「わからない…

だか今はそれしか手掛かりはない。」


「まぁそうだよな。」


「とりあえずこの一週間、俺はグリアスさんを見ちゃいないし見たって話も聞いてない。

さっき鉱夫に言ったからもうじき昔の仲間がここに集まってくると思うが、その前にもう一度確認したいことがある。


その魔女、目的は本当にサラちゃんなのか?」


「どういうことだ?」


「俺たちは国に監視されているんだよ。

下手な動きができないように…いや、軍にとって都合の悪い情報が広げられないようにな。」


「ディーゼン・ファルケルの話だな。」


「グリアスさんから聞いていたのか?

そうさ。消えちまったお前の爺さんの話だよ。

ジェフリア王家の血は絶えていなかったのさ。」


「相手の兵士が見逃してくれたんだろ?」


「ん?俺の知ってる話と違うな。

グリアスさんが相手の兵士を見逃したのさ。

大きな剣を突きつけて脅したんだよ。

死にたくなければ見逃せってさ。

そうしてグリアスさんと俺たちのような一部の戦士は皆殺しにされずに済んだのさ。

ところがだ。

ジェフリアを失った俺たちが鉱山で隠れているうちに、いつの間にかその兵士は王親の直属の英雄であったジェフリアの迅雷と王親本人を討ち取ったってことになっていたんだ。

戦争もないもんだから経験と実績を評価されて将軍にまで出世したあいつは、ある時から俺たちに見張りをつけるようになった。

どこで居場所をかぎつけられたのかは知らないが、鉱山街に治安部門が設置されたのがそれだ。

ただこの時すでにディーゼン様とグリアスさんは鉱山にはいなかったから、奴は見つけられなかったんだ。

二つある問題の種をな。


ところが、立て続けにこの二人がいなくなったとなると…

俺たちはどう考えても危うい立場になった。

もしもこの二つの事件が同じ首謀者、もっと言うと将軍の手引きによっておこったものなのなら、将軍の弱みそのものがいなくなった今、次に狙われるのは俺たちだ。」


『ドドーン!!』


それは突き破るような勢いで開かれた扉の音だった。


「おい!ガルザ!大変なことになった!すぐ来てくれ!」



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