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砂槍の用心棒  作者: 蓋
1章~砂と水
20/25

7.5 混線


酒場サンドルフィン

店主の振るう料理の腕が人気のそこそこな繁盛店

そこはかつてとても暖かい場所だった















メリエラは口全体で一種の幸せを享受しながら、調理などされていないバヒムの新鮮な言葉を次々と咀嚼し、飲み込んでいた。

自分がここを出てから帰ってくるまでの間にいったい何があったのか………

冷静なバヒムの言葉を最後まで聞き終える頃には、幸せも最後の一口となっていた。





「………大体…モグモグ…わかりまし…モグモグ」



話しきった様子のバヒムは、その一口が舌の上に転がされている様子を眺めながら、カウンターにある2つの杯のうち、自分に近い方の水に口をつけた。

メリエラも続いて杯に手を伸ばすが、もちろん彼女の口の中身よりも、バヒムの水が喉を通る方が早い。



「それはよかった……正直、俺にもわからないことだらけだったからな」



バヒムはおどけたように首を横に振って、いかにもわからないという身振りをほどほどに済ませて、すでに空となったメリエラの皿へ手を伸ばした。

メリエラはすかさず皿を差し出し、皿を介して二人の鼓動と視線が重なった。

バヒムには、ほっぺたを一杯に膨らまして、モゴモゴと口を動かすメリエラが滑稽に見えた。




「ゴクン……でも妙に落ち着いてますよね、バヒムさん」




「そうだよな………グリアスがカラスになっちまたってのに、俺は落ち着きすぎだな……。


このごろ色々起きすぎて麻痺してるのかもしれないな………」




「………そうですか…………


……ひとつだけ突っ込ませてください」




「え?」



皿からメリエラの指が外れた。




「そのグリアスさん?

が、カラスになってしまった訳ではないですよ?」





「どういうことだ?」





「なるほど………それでバヒムさんは冷静だったんですね?」





「………」





「恐らくこれはバヒムさんが思っているよりも重大な事件です」





………そしてメリエラは語りだした。


「まず最初に、このカラスですけど……

これは魔女ガラスといって、古くから魔女に使役されてきた賢い魔物です


彼らは姿を変える魔法を得意としていて、今回の出来事は魔女ガラスがそのグリアスさんに化けていたんでしょう」




「化けていた………なぜ?」




「なぜかはわかりません



ですがここで重要なのは、魔女ガラスが魔女に使役される魔物だということです………」




「どこかの魔女が仕組んだ?」





「はい……恐らく…


野生の魔女ガラスが悪戯でこんなことすることは滅多にありませんし、何より本物のグリアスさんが見当たらないので………」





「じゃあグリアスはそいつに!?」





「……さらわれたか……あるいは……


いずれにしてもすごく嫌な予感がします」




「そんな……まさか……」






「……バヒムさん……魔女の知り合いとかっていますか?」





「いや………心当たりは無いが……強いて言うならお前くらいか?」





「わ、わたしは魔道士であって魔女じゃないです!


いいですか、体系化された学問として魔道を修めたのが私たち魔道士です。

一方、魔女や魔法使いはより自然に近く感覚的に魔法を使うんです」






「つまり?」





「つまり魔女は、私なんかよりもっと恐ろしいです………



魔道の枠に収まってる魔法なんて全体のほんの一部なんです。

魔道で解明された魔法すら扱うのは簡単じゃないのに、魔女や魔法使いはそれぞれ独自に魔法を操るんです………」


少しだけ長い沈黙が訪れる。

ここではじめて、メリエラは突っ伏して眠るネイクルの寝息に気がついた。



ネイクルさんなら、きっと何かを知っている。

私をここに呼んだタイミングも、この事件に合わせてのことなのかも知れない。


いつか全部……

全部教えてくれる日は……来るのかな………



バヒムは皿をまとめ終えると、メリエラに背を向けて奥の部屋に一歩二歩と歩いて行くが、その途中で突然ピタリと止まった。



「グリアスが………居なくなったとなれば娘が………」




「娘………ですか?」




「メリエラは医者の心得があったりするか?」






メリエラはバヒムに案内されるまま二階に上がる。

その最も手前の部屋の中に入ると、一人の少女が静かにベッドの上に横たわっていた。

暗い部屋の中に一人ぼっちで……

部屋の隅の闇のなかに立ってそれ以上動く気配のないバヒムを気にせず、メリエラは近づいて行く。



一見するだけではわからなかったが、その少女に近づいて行くにつれて、メリエラは彼女の一切合切全てが停止していることに気がついた。



「これは………」



今にも起き上がってきそうな生き生きとした、生の力を宿したままに、少女は「()」していた。




「妙だろ?

死んでるにしてはなんというか………」





「はい……この子は死んではいません………



でも……生きてもいません………」




ネイクルさんはきっとこのために私を……







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