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砂槍の用心棒  作者: 蓋
1章~砂と水
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7.眠れる小人~後編


いっこうに進まない時計の針が、音もたてずに揺れている。


「…………」


いくら待てども正しい言葉は出てこない。

外装ばかりのやり取りが、異国の音楽のように虚しく流れて行った。








「そういえばお前、どこ行ってたんだよ?

あの女はどうした?」



カウンターに体を預けたグリアスが、ひとつ空虚の音色を重ねた。

ネイクルはそれに呼応すると、一瞬考えるようなそぶりを見せ、淡々と答えた。



「メリエラのことだろ?

バルラザの所に用があったんだ。」




「バルラザ?」




「あぁ……あのバルラザだ。」



ネイクルの言い方はすこし意地悪な雰囲気を出していたが、今のバヒムにはそれを指摘する余裕はなかった。

ただ、彼の停滞した思考にとって鮮烈で些細な違和感だけは、何と無しに見過ごすことができなかった。


「サークのことだろ?」





「………ああ、そうだなバヒム。

サーク・バルラザ………この店の常連でもあったなぁ……

お前やグリアスはいつもサークって呼んでたよな?」



ネイクルはゆっくりと立ち上がり、言葉を更に続ける。



「なあ、最近おかしなことが多いよな?


何て言うか……俺とお前は食い違ってる……

そんな気がするんだ……


まるでそう……別人みたいに……

もちろんお前がだが………


この前の誕生祝いの話だってそうだろ?


今のお前はおかしいんだよ…………」


ネイクルが延々と続けていく最中、グリアスは終始無言だった。

いつの間にか時計の針は音を取り戻す。


「つまりどういうことなんだ?ネイクル?」





「つまり?

それはなバヒム……お前を待って」



ネイクルがバヒムへ目線を移した瞬間であった。

無言のままのグリアスがあり得ない挙動と速度で動きだし………


……ガタッ……


その巨大な体躯はネイクルに覆い被さるように無造作に宙に投げ出されたのだ。



「ネイクル!」



「くっ………」



ネイクルは反射的にに身構える。

しかし、その巨体が彼に重くのし掛かる寸前に、それは光の粉へと姿を変えていた。


ふわりと暖かい感触ばかりがネイクルの肌に降りかかり、それは煙幕のように広がって彼を覆い隠した。



「ネイクル!大丈夫か!」


バヒムはあわててネイクルの方に近寄っていくが、ネイクルはいたって冷静だった。



「バヒム、そこから動くな。」



バヒムがピクリとして立ち止まると、煙幕の中からなにやら物音がした。

すると今まで宙を舞い、ネイクルを覆っていた煙幕は、突然に重力を思い出したようにドサッと地面に落ち、ネイクルの周りに煌めく粉の山を築いた。



「よし、バヒム!

そいつを捕まえろ!」



ネイクルがそういった瞬間、山の一部がモゾモゾと動き出した。

バヒムがすかさず身構えると、それは真っ黒な力無い姿を表した。



「……こいつはカラスか?」



「そうみたいだな………

……しかしまだ動けるとは驚いた。」














メリエラは既にバルラザと別れて、酒場サンドルフィンにあと一歩の場所まで来ていた。

既に日は沈んで、空ではその余韻が消えかかろうとしている。


メリエラは乾いた空気を肌で感じつつ、足を早めた。




彼女が酒場に入り、まず目に入ったのは部屋の中央で山をなしている大量のきらびやかな粉だった。



「どうしたんですかこれ?」



メリエラはカウンターにぐったりと突っ伏したネイクルに聞いたが、返答が飛んできたのはさらに奥の部屋からだった。




「ちょっと色々あってな……」



バヒムが奥の部屋から出てくる。




「バヒムさん……いったい何があったんで……」



ボンッ………



メリエラが言葉を終える前にバヒムはカウンターまで来て、その上に縄で縛った黒い塊をやや乱暴に置いた。



「コイツだよ………


ネイクルは久々に魔法でやりあって疲れたんだとさ………

まったく訳がわからないな……」





「いやいやいや、訳がわからないのはこっちですよ!」




「まぁ………取り敢えず座ったらどうだ?」




バヒムは簡単な食事を二人分用意して、メリエラに起こったことをありのまま見た通りに話す。

それがひとしきり終わるとメリエラは言った。



「これ美味しいですね。」




「ま、まぁな」








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