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時を超えた八房の力

 少し震え気味で、涙を浮かべている村雨くん。

 きっと、村雨丸から解放されたに違いない。


 私の中にあった妖力が突然消え去った事と、血が失われ続けているからか、体中の力が抜けていく。

 体を支えきれず、膝をついてしまった。

 

 でも、ここからが勝負。


「八房! 願いを叶えるためにも、力を」


 私の中にある八房の力に心の中で訴えて、村雨丸の柄を両手で握りしめた。


 一度奪われた妖力。

 八房の力を使って、もう一度この体の中に取り戻す。


 流れ出る血が私の意識をさらに薄めていく。

 でも、村雨丸の中にある妖力を吸い尽くまでは、倒れられない。



「さっさと、村雨丸を持ってこぬか!」



 耳に届いたのは足利成氏の声。

 微かに人が近づいてくる気配も感じる。

 きっと、足利成氏の近習たちが村雨丸を回収しようと近づいてきているに違いない。


 足利成氏の近習たちが私たちに刀を構えた時、足元を凍らせた。

 でも、刀を向けていなかった者たちは見逃した。

 甘かったかと反省しても、もう遅い。


 近習たちが私のお腹から村雨丸を引き抜く前に、全ての妖力を吸い尽くさなければ。

 でも、血を失い弱った体ではなかなか捗らない。


 私を取り囲む人の気配を感じた。

 それは足利成氏の近習たちだった。


 失敗?


 そう思った時、その近習たちの鳩尾に刀の鞘がねじ込まれる光景を見た。


 村雨くんだ。



「ありすに手を出すなぁぁ」



 刀の鞘で近習たちと戦う村雨くん。

 やっぱ、村雨丸は無くても、剣の腕は確からしい。


 信乃ちゃんたちも加わった。


 みんなも頑張っている。

 私も頑張らないと。


 最後の気合を込めて、八房の力を振り絞る。


 薄れる意識とは別に、力が体にあふれて行く感じ。

 村雨丸を握る両手に伝わっていた怪しげな気も消え失せた。


 全てを村雨丸から奪い去った?


 村雨丸を体から抜き去った。

 それが私の最後の仕事だった。

 意識は闇の中に沈んで行く。



「ありす。ごめんなさい。ごめんなさい」



 最後に聞いたのは村雨くんのその言葉だった。





 はっ!


 突然意識を取り戻した私の目の前には段ボール箱が一つあった。

 何だか長い眠りから目覚めた感じ。


 辺りを見渡すと、私が通学に使う道。

 空の感じから言って、午後。


 やっぱ、戻って来たんだ。

 そう思った時、私は声をかけられた。



「ありすさんでしょうか?」



 振り返ると、見知らぬ若い人が立っていた。



「えぇーっと、そうですけど。

 もしかして、犬塚さんでしょうか?」

「はい。犬塚信乃の血を引く者です。

 本当にこんな事が起きるなんて、これはどう言う事なんでしょうか?」

「さあ、それは私にも分からないです。

 言われたまま、ここに来ただけなので」

「そうでしたか」



 頷いて見せた。

 本当は私は何が起きたのか知っている。

 でも、それを話すと話が長くなりすぎるし、頭が変と思われるかも知れない。



「で、手紙を預かってきているんですよね?」

「あ、は、はい。

 これです」



 そう言って、男の人はカバンの中から、古びてちょっとくたびれた紙を取り出した。

 そこには「ありす殿」と、あて名が記されていた。


 信乃ちゃんは私が最後に頼んだ事をきっちりと果たしてくれた。

 そして、信乃ちゃんの子孫の皆さん方も。


 その手紙を胸に抱くと、目の前の男の人に頭を下げた。


 この手紙にはあの後の事が書かれているはず。

 居ても立っても居られず、その封を破いた。


 あれから、村雨くんは村雨丸からちゃんと解放されたらしい。

 彼の剣士の腕はやっぱ本物で、女の子に興味津々な普通の男の子だったらしい。


 一方の妖刀 村雨丸は元々持っていた幻術の力だけが残り、八房の力は残していなかった。

 とは言え、危険な刀だけあって、信乃ちゃんたちの手で葬られたらしかった。


 それからわずかに生き残っていた物の怪たちは八犬士たちの手で葬られた。

 それはそれで、ちょっとかわいそうな気もしないでもないけど。


 ただ、九尾の狐だけは探し出せなかったらしい。


 はっ!

 村雨くんの幻術の力の強さを試すために、私が作りだした幻だと信乃ちゃんたちに言い忘れてた!


 ごめんなさい。


 心残りにしていたかも知れないので、信乃ちゃんたちに心の中で謝った。

 遅すぎかも知れないけど。



 とにかく、人間にとってと言う条件付きだけど、平和な世を築くことができたらしい。


 昔の人々が頑張ったからこそ、今の平和で幸せな世があるんだ。


 そう思って、思いっきり両腕を伸ばしながら、空を見上げた。


 青い空。

 流れる白い雲。

 さわやかな風。


 平凡な生活だけど、それだけでも幸せ。


 妖力なんてものも要らない。

 特別な力も要らない。


 いいえ、村雨くんじゃないけど、力はいざって時だけ使えばいいんだ。

 だから、私はこのまま八房の力を封印する。


 こんな特になんて言うこともない日々が続き、決していざって時が来ない事を祈りながら。

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

 そして、 評価にお気に入り入れてくださった方々、ありがとうございました。

 完結できましたのも、皆様のおかげです。


 村雨くん、いかがでしたでしょうか。

 私的には、本物の村雨くんは嫌いじゃありません。


 感想などいただければうれしいです。

 どうも、最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

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