ハッピーエンドは譲れない
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いろいろあったけど楽しかったな。
『勉強』に『恋愛』『高収入』なバイトに励んで『懸賞金』をもらって。
三年間なんてあっという間だよね。冒険が過ぎて高校卒業資格が四年目にずれ込んだのはご愛嬌。
でも大学用の単位は有効だから私たちは22歳で大学卒業資格を取れる見込みだ。単位互換で私は国公立に行く。私たち三人は学費不要を勝ち取ったのだ。
なに。勉強時間が足りない場合異世界で一日勉強をやれるのだ。
私の時間は365*2日ある。負ける要素が無い。
蔦の絡まる学習センター。祝福するかのように古びた鐘が鳴っている。
グラウンドでは体育に励む雑多な人々。異世界人もちらほら。
私の脇をつつく市子。朝倉市子。
私の腕を掴んで離さないお嬢様。インヴィディア姫。
外では私の卒業を祝福しに茂宮と物部がホンダのバイクで待っている。
おっちゃんはヤクザが卒業式に出たら皆怖がるだろうと辞退。
後で花束を渡して先生が送辞を読み上げたら柄にもなく泣いていた。
カッコいいヤクザの組長らしい着物姿で、あの恰好なら若い子も惚れただろうに。
通信制高校の卒業式は任意参加だ。
参加しない子のほうが多い。そもそも卒業資格を取れる子が少ない。
最初の半年でごっそり減ると先生は言う。
でも私のクラスはあの事件以降欠席者が減っていき、やがて全員が卒業できた。
あの金色の竜は相変わらず高校卒業に苦戦している。賢いのに文字が汚すぎるしマークシートの位置を外すのだ。ぶきっちょなんだよね。
あっちのお貴族様と怪盗様はまたどこかの可愛い女の子をダシに相争って遊んでいる。
「八神博美! 卒業おめでとう!」
今は高峰博美だよ。お貴族様と怪盗の仲良し二人に手を振る。
外ではお父さんとお母さん。そして義兄が『オークション』で買った『自動車』で待ってくれている。『中古車』だけど結構いい車だ。
実の両親とはちょっとだけ和解した。一応卒業に来てもいいって言っておいた。
おばちゃんは家業が忙しいらしい。でも卒業式くらいは出席したいとガッチガチのセーラー服姿で現れて私たちにからかわれ、真っ赤な顔で照れていた。
この季節、桜が舞うことはない。
我が通信制高校は三月と九月に入学式がある。
少しでも学びたい人を支援するための配慮だ。
泣いているのは『敏感肌』だからだよ。
別に寂しいとか観劇しているからじゃないから。
「感激ですか」
「そうともいいます。姫」
「あらら」
私たちは受け取った証書を手に外に出る。
秋晴れでいい天気だ。私は証書を手に伸びをする。
ブルーコンタクトレンズ越しに広がる空はとても。とても青い。
その青い空に向けて私たちはいっせいに卒業証書の入った筒を投げた。
バイクに駆けよってその主である茂宮の背を物部から奪う。物部は苦笑いして引いてくれた。
義兄が不服そうに頬を膨らませるので笑ってあげる。
義兄曰く、『本当に博美は明るく笑う様になった』とのこと。
「次はどんな世界に行くの」
「そうねぇ」
私は空を眺めながら、ゆっくりとコンタクトレンズを外す。
「幸せがあふれる世界なら、どこにでも。
幸せが無い世界なら。なおよし」
空に吸い込まれていく使い捨てコンタクトレンズ。
ぼやけた視界越しにうつる新たな世界。
だけど。
どんな世界だって、微笑みは譲らない。
色々茶化しはするけれど、ハッピーエンドだけは譲れない。
中古車のエンジンが揺れ、茂宮のバイクが走り出す。
私たちの旅がまた始まった。
~ Happy End ~




