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5回目のプロポーズ  作者: 龍二
10/10

最終章 罪滅 亜紀編

■最終章 罪滅 亜紀編■


~社会人3年・結婚式当日~


私は深夜の今、あの橋に来ている。

美しい夕日の見える橋に。


智史からもらった

中学の卒業式にもらった手紙と

高校の卒業式にもらったカバンと


最後にもらった・・・

手紙を持って。


12時をまわった。

今日智史は結婚する。


きっと今から半日後ぐらいには

人生で最高の舞台で


人生で最高の笑顔を

智史は見せてる。


私はもう

その笑顔は見ないことにした。


私は

橋の手すりに登った。


今までお世話になった人、ごめん。


お母さん、ごめん。


智史・・・ごめん。


ホンマごめん。


死ぬのは怖いけど


智史となら


智史がくれた物と一緒なら

怖くない。


智史結婚おめでとう。


そしてさようなら。


本当に・・・


さようなら。


目を閉じた私は身を投げた。




・・・きっとこの橋は高い。


それぐらい時間が経ったら

落ちるんやろ。



でも

もう怖くない。



私には

失うものは


もう何もない。



生きる理由は

何もない。


もう何も・・・





「・・・・・・」





声がする。


どこか遠くから。





「・・・紀・・・」





きっと天国の

お母さんが呼んでる。



無事に死ねたみたい。





「・・・亜紀・・・」





でも


お母さんの声じゃない。


男の人の声・・・




その声は

どことなく暖かくて



安心できて

優しい声。



もしかして・・・

智史?



この声は・・・

智史なん?



そんなわけないか。



でもさ


もう一回だけ



もう一回だけでいいから・・・


智史に会いたかった。





智史・・・





智史・・・





智史・・・!!





亜紀「智史ぃぃぃぃぃ!!!!」





何や



涙が止まらん・・・




風が当たって


涙に当たって痛い。


痛い・・・?




私は


私は何を・・・?





智史「亜紀ぃぃぃぃぃ!!」





足元から


聞こえる




どことなく暖かくて



安心できて



優しい


声。



智史の・・・


声!!





亜紀「さと・・・し・・・?」


智史「亜紀!!何やってんねん」




智史は


私の


私の足を押さえている。




これは夢?




それとも・・・

現実??




亜紀「これは・・・現実?」


智史「現実や!現実やからはよ降りろ!」



・・・そうか。


現実か。



亜紀「・・・離してよ」


智史「イヤや、絶対離さへ・・・」


亜紀「離せよ!!」


智史「イヤや!死んでも離すかボケぇ!!」



何で


何で離さへんのよ・・・



亜紀「離せって・・・きゃぁっ」



痛った・・・

マジ何なん?


ていうか・・・

橋の内側に引き戻されてるし!


それでも智史は私を離さない。


頼むから・・・


頼むから!

私を離してよ!!


亜紀「離してって!」


智史「離さん、絶対離さん」


亜紀「離してや!」


智史「それは聞かれへん」


智史は私の体を離さない。


ていうか・・・

私より何で智史のほうが力強いん!?



亜紀「離して・・・や・・・もう・・・」




涙が


涙がこぼれ落ちる。



力が


抜けた・・・



それでも智史は


私を離さない。



離さないどころか


私を強く


強く抱き寄せた。



智史「落ち着け」



そんな一言で落ち着けるはずがない。


だって私・・・

死のうとしてんねんで?



落ち着けるはずない。


落ち着けるはず・・・



亜紀「・・・」



智史の体


暖かい。



決して大きくはないけど


暖かい。


不思議や。



智史にこんなに


こんなに抱き寄せられたことないのに・・・


安心する。



震えが止まっていく。



私の体も


暖かく包み込んで



涙も止まる。



ホンマに


不思議や。


智史「ちょっとは落ち着いたか?」

亜紀「うん・・・」


智史「死のうなんて・・・するな」

亜紀「だって・・・だって・・・」


また涙が出そうになる。


智史「泣くな。泣いたら橋から放り出すぞ」

亜紀「・・・イヤや」


・・・イヤ?


さっきまで自分で

自ら命を絶とうと

橋から飛び降りようとしてたのに


今は死ぬのがイヤや。


智史に抱かれたら

命の大切さを


生きてるって実感を


生きる勇気を分け与えられた。


智史「ここじゃ危ないからあの公園まで行こか」

亜紀「・・・」


私に拒否権はなかった。

なぜなら・・・


もう私の左手を

智史の右手が痛いってぐらい


それぐらい強く

握り締められていたから。




智史「はいよ、いるか?」

亜紀「うん、ありがとう・・・ってか水かいな」


私に買ってくれる飲み物はいつも水。

智史の結婚報告を初めて聞いた時も水やった。


智史「安心した」


亜紀「・・・何がよ?」

智史「いつもの亜紀に戻ったから」


亜紀「いつもの・・・私?」

智史「水かいな!ってツッコミ。いつもの亜紀やん」


いつもの私に戻してくれたのは智史。


そんなこと恥ずかしくて・・・

言えるわけないやん。


亜紀「・・・ごめん」

智史「何が?」


亜紀「さっき死のうとした時・・・橋の下に落としてしもた」

智史「何を?」


亜紀「智史からもらった手紙とか・・・カバン」

智史「そりゃ良かったな!」


亜紀「良かったって何よ?」

智史「だって・・・それがきっと亜紀の命を救ってくれてんて」


亜紀「そんなこと言・・・」


智史の顔泣きそう。

どうしたん?


智史「僕・・・僕亜紀を失ったら・・・」


亜紀「泣くなよ・・・橋から放り出すで」

智史「・・・ごめん」


亜紀「よろしい」


智史の涙は見たくない。

泣いて苦しむのは私だけで十分。


亜紀「ていうか智史には私がおらんようになっても・・・綾香さんがおるやん」


そう智史には今日結婚式を挙げる。


綾香さんって素晴らしい女性がいる。


智史「亜紀は・・・亜紀しかおらんやん」


そうか。

そんな風に考えたことなかった。


私は学生の頃色んなことを比較してきた。


見た目

年収


頭の良さ

身体能力・・・


だから

人の代わりなんていくらでもいるって


前の人よりも優れた人と一緒にいたり


結婚したりしたいって

そう考えてた。


だから


だから智史は智史なんやって

考えられんかった。


もっと上を


上を見たせいで

理想が高くなったんやろか。


智史「だから・・・だからもう・・・死ぬな」

亜紀「うん・・・ごめん・・・」


ごめん智史。

私間違ってた。


私が死ぬのって

自己満足やったんやな。


智史っていう

私が昔から知ってて


ずっと大切やって


それでも好きの形が違うって思い込んで

意地張って


それでも私のこと好きって

ずっと言ってくれた


智史っていう


私が死んだら

きっと泣いてくれる存在がいたのを

忘れかけてた。


智史

ホンマありがとう。


智史・・・


亜紀「智史!」

智史「な、何よ」


亜紀「私に手紙くれたやんな、今まで三回も」

智史「うん」


亜紀「あそこに書かれてたことは・・・ホンマ?」

智史「ホンマや。噓であんなこと書くかいな」


亜紀「私が一昨日書いた手紙もホンマやで!」

智史「分かってる」


「分かってる」


その一言は

何気ない一言かもしれない。


でもそれが

いかに安心できるか

いかに"分かる"ということが難しいか・・・


それは私が智史から離れて初めて

実感したことやった。


亜紀「私、身を投げ出した後、もう一度智史に会いたいって心で思ったんやで」

智史「聞いてたで、ちゃんと」


亜紀「いや、心の中やって」

智史「心の中やろ?聞こえてたって、ちゃんと」


そうか。

私の心の叫びが聞こえとったんか。


それぐらい聞こえてないと・・・

この橋まで来るはずないもんな。


きっと意味がないことは分かってる。


でも心の中じゃ


手紙の中じゃ


伝えきれないこと

いっぱいあるから。


無理なことも分かってる。


けど・・・

私は伝える。


言葉でしっかり

智史に伝える。


悪いけど・・・

ちゃんと聞いてな!





亜紀「私・・・智史が世界で一番好き」





言えた。


智史が

ずっと私に

言ってきてくれたことが


私から初めて言えた。


智史「僕も、亜紀が世界で一番好き」

亜紀「だから・・・私と付き合ってください」


何言うてるん?


私婚約者相手に・・・

ホンマアホ。


亜紀「ごめん、つい・・・」

智史「無理やな」


・・・そりゃそうや。


でも・・・

好きやって言って

断られる辛さ分かった。


智史はずっと


それでも折れずに

私を好きって言って


想っててくれて

ありがとう。


これでまた私

生きていける。


智史「付き合うとか無理や」

亜紀「冗談やって・・・」


智史「僕と・・・結婚してください」





・・・え?






智史何て言ったん・・・?




亜紀「今・・・何て?」


智史「僕と・・・結婚しろ!!」





智史は私を再び抱き寄せた。




何?これは・・・



夢??



夢やんな。




だって


だって智史には

婚約者がいる。


しかも今日挙式。


だから

こんなん夢やって・・・



私・・・


疲れて寝てしもたんかな・・・



でも夢じゃなかったら・・・


いいな。




亜紀「夢・・・やんな」


智史「夢・・・ちゃうよ」



亜紀「その証拠は?」


智史「これが証拠や!」



そう言って智史は

もっと強く


強く私を抱きしめる。


苦しい・・・


苦しいよ智史・・・



次第に呼吸が

しにくくなる。


ってことは

これはホンマなんや。



智史が言ってくれた

結婚してくださいって


その言葉

ホンマなんや・・・



ホンマ・・・


そう分かった瞬間


目の前が真っ暗になるぐらい


大量に


ほんとうに大量の涙が流れた。



それでも


それでも智史


綾香さんの


綾香さんとの結婚は

どうするんよ・・・


それを聞きたいけど

涙が


涙が止まらない。



智史が結婚してくださいって


そう


そう言ってくれた

うれしさに対する涙と



私たちが結婚することは

きっと難しい


綾香さんっていう

婚約者がいるから


その


その不安に対する涙が。



二倍になって止まらない。



智史「綾香との婚約は破棄する」

亜紀「何・・・」


智史「何にも言うな、僕がそうしたいねんから」



私も・・・

ずっとそうしたかった。


でもそんなことしたら

皆が悲しむ。


私と智史以外の

綾香さんとか


その両親とか

智史の両親とか


結婚式に呼ばれた人が

悲しむ・・・


智史「僕は覚悟を決めた。亜紀と生きていくって」

亜紀「・・・うん」


智史「だから・・・もう泣かんといて」

亜紀「・・・分かった」


智史「その代わり、結婚してもらう。絶対これから亜紀を離さん。いいな?」

亜紀「うん・・・いい」


私が求めていたもの・・・

智史。


その智史が今


今・・・


私のものになった。



智史「断っておきたいことがいくつかある」

亜紀「・・・何?」


智史「僕、見た目悪い」

亜紀「・・・知ってる」


智史「年収安い」

亜紀「・・・うん」


智史「とりえなんてない・・・一つを除いて」

亜紀「一つって・・・何?」


智史「亜紀を好きな気持ち。それだけは・・・誰にも負けへん」

亜紀「・・・ベタやな」


智史「それ以上の言葉が見つからんかった」

亜紀「・・・でも、ありがとう」


智史「おう」



亜紀「私も断っておきたいことある」

智史「断りなんていらん、亜紀のことなんて何でも受け止める」


亜紀「でも聞いてほしい」

智史「・・・分かった」


亜紀「智史と一緒におってドキドキなんかせん」

智史「構わん、今さらもうそんな関係ちゃう」


亜紀「だから智史とキスしたり・・・できひんかもしれん」

智史「そんなんいらん、一生せんでいい」


亜紀「・・・ごめん」

智史「謝ることなんていらん、全部受け止めるって言ったやろ」


亜紀「・・・ありがとう」

智史「とにかく亜紀が近くにいてくれる、それだけで・・・何も・・・いらん」



お互いの好きの形は違った。


でも私が何が大切か


何を失いたくないかを

少し考えた。


それだけやのに

私の想いは届いた。


智史の想いを

受け取ることができた。


智史「ただ僕らは・・・まだやり残したことがある」

亜紀「何よ」


智史「僕は・・・婚約破棄をどうするか・・・」

亜紀「あ・・・そうやな・・・ごめん」


智史「亜紀も、謝ってる場合ちゃうで」

亜紀「何よ?」


智史「僕を4回もフった罪、償ってもらわんとなぁ」

亜紀「うっ」


智史「覚悟しときや?」

亜紀「覚悟って・・・何や・・・」


智史「さあな?まぁでも犯した罪は重い」

亜紀「うん・・・せやな」


智史「お互い罪滅ぼしが必要やな。どんな形になるか分からんけど」

亜紀「大変そうやな・・・」


智史「・・・不安か?」

亜紀「ううん、智史と一緒やから・・・不安じゃない」


智史「僕もや」


そう、不安なんてない。


智史がそばにいてくれるだけで

それだけやのに


この先不安になることなんてない。


その確信はどこからくるのか

分からんけど。


智史「夜も遅いし、そろそろ帰ろか」

亜紀「・・・せやな」


亜紀「ていうかお腹すいた~」

智史「こんな時間どこも開いてないぞ・・・」


亜紀「コンビニでええよ~」

智史「安っぽいのぉ」


亜紀「智史と生きていくなら安モンに慣れとかんとなぁ」

智史「おいそれ、どういう意味やねん!」


やっぱり後悔はなかった。


私にこれ以上

欲しいものなんてない。


智史は


智史は私の全てやった。


それを気づいたのは最近やけど


でもこれから

ずっとこの先も


智史は

私の全てやから。


今度は噓ついたら

針一億本でも


一兆本でも飲んだるわ!




私は今日の


智史からの5回目の告白を


5回目のプロポーズを

一生忘れへん。


死んでもきっと・・・

忘れへん。


つながれた私の手と

智史の手


その手は友情を超えた


大きく超えた

強い愛情で


固く結ばれていた。



~Fin~

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