01_プロローグ「二つの選択肢」
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■プロローグ■
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――魔王との戦いは、三百年に渡って続いていた。
その戦いに終止符を討つべく、魔王討伐を目指す冒険者は珍しくない。
俺もその一人だ。
なぜ魔王討伐を目指すのか?
多くの人は、金と名誉を求めてだろう。だが俺は――本気で世界平和を願っていた。
『悠久の調和』、それが俺が属しているチーム名だ。
20歳の頃に結成し、人数は俺を含めて5人。
仲間に恵まれ、とてもバランスの良いチームとあって、破竹の勢いで活躍していった。
いつしか俺たちは、『魔王を討伐せし者』――『勇者』に最も近いチームだと噂されるようになっていた。
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そして26歳の時、いよいよ本格的に魔王討伐に向かおうとしていた時――緊急の依頼が舞い込んできた。
『とある孤児院に大量のモンスターが接近している。至急モンスターの討伐を願う。難しければ、孤児たちだけでも救ってくれ』――と。
俺はためらうことなく、分かったと即答した。――しかし、リーダーはその即答を即取り消した。
「これから私たちは、魔王の本拠地に向かわなければならない。それがどれだけ大事なことか、分かるだろう?」
リーダーは困り果てた顔で続けた。
「全体の戦況、魔王軍の動き、そして魔王の懐刀と呼ばれる『黒騎士』の不在……。全てを考慮した上で今しかないと言ったのは、ルイン……お前自身じゃないか」
そう……リーダーの言うとおりだ。
魔王を討てるチャンスは、今なのだ。もしかしたら、これが最初で最後のチャンスかもしれない。
リーダーは正しい。他の仲間たちも、苦渋の顔で納得していた。
国家の勝利と、孤児院の救出。そんなの、天秤にかけるまでもない。
だけど、だけど俺は……俺は……!!
気がつくと俺は、孤児院に向かって走り出していた。
リーダーの怒鳴り声も、仲間たちの静止する声も無視して。
俺は、一人でも孤児院を救ってみせると決めていた。
※
現場近くに辿り着くと、おびただしい数のモンスターたちが周囲を包囲していた。
数十体のサイクロプスに、数百のリザードマンやコブリン……。
まるで国や要塞を攻め落としにかかっているかのようだ。
しかし、周囲には国も要塞もない。あるのは、寂れた街と孤児院だけ。
どうしてこんな辺境に、こんな戦力が集まっているんだ……?
だが俺は、浮かび上がった疑問をすぐに捨てた。
今やらなければならない事は、一つだけなのだから。
俺は息を殺し、索敵に見つからないように進んでいく。
たった一人で来たことが、逆に功をそうしたようだ。
俺はなんとか包囲網をかいくぐり、やっとの思いで孤児院の中に入り込んだ。
だが――ほんの少しだけ遅かった。
今まさに俺の目の前で、院長と思わしき初老の男性が……真っ二つに斬り殺されていた。
院長は、最後の最後まで子どもたちを守ろうとしたのだろう。背後には、泣きじゃくる5人の子どもたちが居た。
院長を襲った凶刃が、そのまま子どもたちに向けられた。
俺はありったけの魔力を込めて、閃光魔法を放った。
怯むモンスターたち。一瞬の隙を付き、俺は5人の子どもたちを担いで孤児院から脱出した。
ああ……なんてことだ。
俺は……魔王討伐か、子どもたちを救出するか、迷ってしまった。
その迷いが院長を――彼らの父親同然の存在を死においやってしまった。
おびただしい数のモンスターから逃げるために、そして罪悪感から逃げるように、俺は無我夢中で走った。
※
バックトラック(止め足)、ステッピング・ストーン(石を渡り歩いて足跡を残さない)、アラーム・トラップ(即席の鳴子で混乱)、フォールス・トレイル(偽物の痕跡)……。
俺はありとあらゆる手段を尽くし、追手を混乱させた。
そしてなんとか逃げ切った俺は、たまたま見つけた洞窟の中に潜むことにした。
一昼夜走った疲れが一気に押し寄せ、俺は倒れるように横になった。
洞窟の中は真っ暗だ。だけど見つかる危険性がある以上、焚き火をするワケにはいかない。
5人の子どもたちは、自分の手すら見えない暗闇だというのに、泣き声一つあげなかった。
今の状況を理解している……というよりは、何かに耐えることに慣れているように感じた。まだ5~6歳ぐらいの子どもだというのに。
一段落したからか、今更になって後悔の念がフツフツと湧いてきた。
ああ……やってしまった。全部台無しにしてしまった。
魔王討伐の――世界を平和にする絶好のチャンスを、自らの手で潰してしまった。
こんなチャンスが来るのは、あと何年後だろう? もしかしたら、もう二度と来ないかも知れない。
仲間たちも烈火のごとく怒っているだろう。
反省と後悔が心に押し寄せてくる。
重い。潰されそうだ。――いや、物理的に本当に重いし潰されそうなんだが。
5人の子どもたちが、俺の身体に伸し掛かっていた。まるで、寄辺を求めるように。
最初は恐怖で震えていたが、少しずつ収まっていき、やがて寝息を立てるほど落ち着いていった。
ああ……助けてよかった。心の底からそう思った。
俺が助けに行かなかったら、今頃もう――。
俺は孤児だ。だから、5人の子どもたちの気持ちが痛いほど分かる。
怖かっただろう。恐ろしかっただろう。それに……誰も助けてくれないという諦めもあっただろう。
この世界は、孤児に対して厳しい。
親に見捨てられ、国に見捨てられ、人に見捨てられる。そんなのが当たり前にまかり通る世界だ。
俺が世界平和を目指すのは、そんな孤児を無くしたいという気持ちもある。
孤児というだけで全てを否定されるなんて、おかしいに決まってる。
だから俺は、5人の子どもたちを助けたことに、もう何の反省も後悔もない。
この温もりを守れたことは、きっと魔王討伐に挑戦するよりも価値がある。
だから俺は、これからする選択に、何の後悔もない――。
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