49.お嬢様と勇者様
封印されたカゲトを"永久の町"に残し、私達は一度、春町へと戻ることにした。その後、一時的に都市へと行く予定でもある。
「カゲトさんの代わりに俺が執事をやるっすよ!」
「ありがと!」
カゲトに代わり、ハロミトがカゲトの代理として執事をすると宣言する。私はそれを承諾した。
私、ハロミト、カナリン、パルパルで町を後にし、ダンジョンに踏み入れた。
やはり、カゲトがいないと安心感はなくなるな……。それでも、私はもう戦えない存在じゃない。だから、大丈夫。それに、仲間達もいるから。
迷いの森――。
壊された看板に代わり、急ピッチで作られた札。それを見て進めば迷わずに春町へとたどり着くことができる。
がるるるるるる!
魔族だ!
狼の魔族が一匹現れた。
ここは戦うしかなさそうだ。
【自分自身】【重火器】
私は重火器を召喚した。
ハロミトは剣に手をかけた。
【踊れ!】
狼の技だ。突如、ハロミトが踊り出した。まるでそれは盆踊りのよう。
「か、体が勝手に動くっすぅ~。」
その踊り方がちょっとツボに入りそう。「やばい。なんか面白いんだけど!」
「いや、笑い事じゃないっすよ。」
「ごめん。けど、ちょっと面白くて……。」ダメだ、笑いが抑えきれない。
【踊れ!】
私も体が勝手に動き始めてしまった。ハロミトよりも断然、綺麗な踊りを見せる。
ガルルル。グルァッ!
狼が噛み付いてきた。ヤバイ、噛みつかれる。
【回避!】
危なかった。カナリンが技を使ってくれなかったら、喰われる所だった。
「ねぇ、二人とも真面目にやりなさいよ……。」
カナリンは少し呆れているようだ。
まぁ、カゲトもいないし余裕ぶって戦うことなんてできないもんね……。こっから本気出す!
【多くなる!】
狼が分身し始めた。
圧倒的数の優位を取られてしまう。
私達は未だに踊ってる。
「ねぇ、カナリン。あいつの本体はどれ?」
「ちょっと待ってね。」
【観察!】
カナリンは本体の狼の頭上へと来て「この子よ」と言い放った。
「もう昔の私じゃないからさ。負けはしないんだよ。」
【磁力!】
重火器が飛んでいく。そして、本体の狼を潰した。狼は分身諸共その場に消滅した。
「何時まで踊ってんの?」横を向いて話した。
「あっ……。恥ずかしいっす。」
彼はちょっと顔を赤くした。
「まぁ、気を取り直して一件落着っすね!」
「いや、あんたは何もしてなくない?」
一難退けて、森を抜ける。
桜が吹雪く常春の町――春町。
懐かしい匂いさえ感じられる。
屋敷に戻った。
相変わらずの景色が広がっている。
そこに広がる匂いがどこか少しだけ弱った心を慰めてくれような気がする。
「じゃあ、カゲトさんの分まで頑張るっす! 執事生活の始まりっすよ。」
「私にも半分やらせて。カゲトがやってた分を手分けすれば楽じゃん。」
「……と言っても、掃除、洗濯、料理、買い物、その他全般の"家事"は能力でカナリンがやるから、そこまで張り切ってやる必要もないわよ。」
本当にカナリン様々だ。と言うよりも、"家事"の技が万能過ぎる――。
私はよく使っていた椅子に座った。
◆
コンコンコン。
自室をノックする音。
ドアを開く。
「お嬢様っ! 飲み物を用意しましたっすぅ!」
大きな声で響かせる。
「うるさっ――。」
元気なのは良いが、もう少し声量を落として欲しい……。
「あ――。」
彼が何も無い床に躓いた。
「あっ――。」
パリン!
床に飛び散るガラス片と液体。
「ねぇ、何事――?」
急いでカナリンが飛び込んできた。
彼女はすぐにこの状況を察したようだ。
「ねぇ、あんたら余計な仕事を増やさないでくれないかしら?」
何故私まで……。
絶対おかしい――。
――――――。
「今日のご飯だよ!」
私は餌を食べるパルパルを近くで眺めていた。
「パルゥ!」
癒しの時間だ。これは私がやりたい。
「お嬢様、お筝のお時間です。」
「パルパル。行ってくるねっ!」
和室畳に置かれたお筝。
「俺が手本を見せるっす。」
素手で弦に触ろうとした。
「ツメ付けないの? 爪が割れるよ。」
「ツメって……なんすか?」
「あ……そっからなのね。」
ツメをつけて、早速行うことにした。何とかなくの勘で、ひとまず初級の曲から行うことにした。
七、七、八。
七、七、八。
七、八、九、八。
七。八七六。
ひとまず軽く弾いてみた。
先生のハロミトは途中までゆっくり弾くが、途中で弾けずにリタイアした。
勘が当たった。やっぱりハロミトは全くできない。
仕方ないので教えることにした。
「ここを二回弾くでしょ――。」
私が教える側に立ってハロミトを教えて上げた。
「なんであなたが教えられる側になってるのよ……!」
通りすがりのカナリンに突っ込まれていた。
それもそうだ。だけど、教わってる時よりも教えてる方が芸や内容が身についている気がする。だからこそ、このままでもいいと思っている。
――――――。
ゴン、ゴン、ゴン。
「おはようございます!!」
朝からうるさい……。なんかもう目が覚めた。ここまで無理やり起こされたら、二度寝する気にもなれない。
それから暫く時間が経ち……
私の部屋。外の景色を見ながら優雅に紅茶を飲んでいく。
「やっぱり、桜の景色を見ながら飲む紅茶は美味しいね。」
「そうっすね~。」
「ねぇ、ハロミト。姿勢崩しすぎ。執事なら、もっとシャキッと座らないと。」
スッ!
ハロミトは崩れた姿勢を正した。
今気づいた事がある。
あれ……?
「なんでここでハロミトがお茶を楽しんでるの? いや、まぁ全然いいけど……。」
「……。なんでなんすかね。」
「飲み終わったコップ。片付けに持ってくよ。」
「マジっすか。けど、俺も一緒に行くっす。」
二人でコップを料理室へと持っていく。私はコップを丁寧に運んでいた。
そんな時、カナリンとすれ違う。
「あんたら、どっちが執事でどっちが令嬢なのよ……。」
そんな一言にハッと気づく。
「あ……。」
執事なのに、執事らしからぬ行動を取るハロミトは、確実に執事失格。けれども、私はそれを許せていた。
まさに日常と呼ぶべき時間を堪能する。
カゲトといた頃は滅多に出かけなかったが、今は違う。私も戦えるようになり、町外――ダンジョン外出中の主導権を得た今は、下級地域なら自由に移動できる。
「じゃあ、今日は都市に行こうか。」
ハロミトは剣を装着した。カナリンは近くで羽ばたいている。
「パルパルはちょっとお留守番よろしくね。」
「ぱるぱるぅ!」
私達は都市へと出掛けた――。
◆
人混みに紛れて進んでいく。
都市の壁際にある一区画――そこの紫色の垂れ幕で囲まれたスペースへとやって来た。その中には水晶を持った中年女性が座っている。
彼女は占い師――。
どこに行けばいいのか、何をすればいいのか迷った時はここで神の思し召しを受けられる。正直、半ば疑いの目でそこを見ている自分がいる。
けど、カゲト不在。復活するまでは、石像を倒す旅は無謀。では、その間、何をすればいいのか。――私にも分からなかった。
だからこそ、ここで少しでもヒントを得ようという魂胆だ。
その女性がニヤッと笑っていた。
「代表のあなた。おっちょこちょいで頼りない感じで、髪も色めいてて少しチャラそうな男の人。妖精。ここにあなた達が来るのは昔から分かっていたわ――それが運命だから。もちろん、あなたが以前、一度活用した時よりも前からねぇ。」
「……。俺だけヤケに具体的じゃないっすか?」
「気のせいよ。」
「気のせい……っすか?」
ハロミトは困っていた。
「気を取り直して、あたしは占い師。次、どこに行けば分からなくなった時に神の思し召しのまま、行くべき所を示してあげる場所。あなたはそれを求めてここに来たのでしょう?」
「ええ。この後、どうすればいいか少し迷っていて……。」
「お金は取るわよ。いいわよね?」
「はい」と答えて、それ相応の料金を前払いで払った。
「では、行うわ――。」
【占い――】
水晶が水色や紫色の光を放っていく。暗闇の中で光るサイリウムのような輝きだ。
「伝えるわ。」
ゴクリ。
息を飲んだ。
「二月待てば良い。そうすれば、運命の歯車は勝手に回りだし、あなた達は旅立つ羽目になる。」
つまり、屋敷で二ヶ月過ごしてたら勝手に運命の方から旅立せてくれるのか……。
その事実だけで、焦る気持ちはひいていく。
「そして、旅は"四人一組"に、補助役職の三人を加えたパーティとなるであろう。追加料金プランでそのメンバーを教えて上げましょう。」
「え、金取るのっ!?」
「はい。料金発生しますよ。」
金はたんまりあるから問題ないはず。しかし、なんか解せない気持ちがある。……まぁ、気になるので仕方なく払った。
「教えるわね――。」
ゴクリ。
唾を飲んだ。
「まずは補助役職からね。全員人ではないみたいね。一つ――戦いにおける能力を強化し、傷を癒し、時に敵の攻撃を回避させる。万能のサポーター。秘密基地を作ったり家事したり、戦い以外にも万能みたいだわ。」
「あたしのことね。」カナリンが頭を上下に動かしていた。
「二つ――癒し系マスコット枠。」
「それはきっと、パルパルね……。」
「三つ――敵を偵察し、情報を提供する工作員。基本的にパーティーから抜けているものの、重要な時、強力な助っ人として颯爽と現れる助っ人。そして、近中遠全て万能な攻撃手。まさに最強の切り札。人なんだろうけど、人ではないし……人と呼んでもいいのか分からない……人?」
確実に、それはボーニーのことだ。彼は常に棒人間に変身して過ごしているため、その姿が彼女に見えたんだろう。
まぁ、棒人間の姿を見て、人と判断してしまえば良いのかしない方がいいのか、分からないのは理解できる。
そうなると、残りの四人は私とハロミトと……後二人、誰だ?
「続いて、四人一組は――」
ゴクリ。
唾液を飲み込み胃の中へと押しやった。
「一人――この方に能力によってパーティは《攻撃特化》と《バランス重視》の戦い方に分かれるわ。《攻撃特化》の時は"後方"から高威力の技を無下限に放つ『魔法砲台』となるわ。《バランス重視》の時は"前方"に立って、敵のヘイトを集め、最強の『タンク役』となるわ。敵によって先にこの二つのどちらかを選ぶみたいだわ。」
私でもハロミトでもない。しかし、この戦い方ができる人を私は一人知っている――。
「二人――《攻撃特化》も《バランス重視》もどちらとも"前方"で遊撃を行うわね。時にヘイトを集め、時に強敵キラーとして風穴を空ける。敵を翻弄する攻撃手のようね。」
これはきっとハロミトのことね……。パーティの前衛攻撃手として重要なポジションになるっていう予知だ。
「三人――《攻撃特化》では"前方"から"中堅"にかけて立ち回り、大砲を振り回して戦線維持。《バランス重視》では"中堅"で大砲を放ちまくる。野蛮ねぇ。こんな野蛮人がこの世にいるなんてねぇ。」
それは私のことに違いない。
今すぐ"自分自身"から"重火器"出して"重力"使って、重火器振り回してやろうか!?
何が野蛮人だ! 今すぐ水晶ごと吹き飛ばしてもいいんだよ。
その怒りはハロミトに抑えられ、自然に落ち着いた。
イライラが溜まる。
「四人――強力な狂戦士ね。《攻撃特化》の時は"近中"対処可能のパワーアタッカーとしての戦線維持。大量の人形でパーティが崩れるのを防ぐ制御役。《バランス重視》では、"中堅"にて敵を迎撃、戦線を維持しつつ、最後には"後方"に下がり、一撃必殺の技を溜めて放つ最終兵器となるみたい。」
なるほど……。それで、――誰だ?
今まで会ってきた人の中でそんなことが出来そうな人は……いたっけ? いないような気がする。
つまり、新しい仲間ってこと……かな?
「これがあなた達の未来。何に巻き込まれるか分からないけど、あなた達四人と三……体? ならきっと、運命に抗うことができると思うわ。」
肝心の何が待ち受けるのか分からなかった。お金を返して欲しい……。
「結構お金を使ってくれたわ。お礼にいい事に遭遇する確率が高まる飴ちゃんをあげるわねぇ~。」
私は飴を貰った。袋の中は、占い師の顔が描かれた飴だ。
「いらないよっ!」
私達はそこを後にした。
◆
バグ世界――。
都市から離れた所にある、年中桜が咲く町――春町。
その町の外れには巨大な屋敷が建てられてある。町の人も知らない不思議な屋敷だ。
そこで優雅に暮らす三人とペット。
「パルゥ!」
ペットのパルパルは楽しそうに跳ね回っている。
「はぁ、どうしたらこんなに散らかるのよ……。まったく……【家事】。」
家事全てを担ってくれる、まるで完璧な侍女的存在――カナリン。
そして、悠々自適に過ごす令嬢の私――ジュリネ。
それと、私に仕える――勇者で新執事の……
「失礼しますっす!」
――ハロミト。
二月、暫しの日常。いずれ封印から解かれるカゲトに褒めて貰うため。いずれ来る運命の歯車、その旅に向けて。――今はそれまで、この猶予期間を満喫していく。
◆
バグ世界でお嬢様生活してたら、帰れなくなったので魔王倒しますが、少しの間だけゆっくりします。~お嬢様、『詩忍にくちなし』のお時間です!~
◆
桜を眺める。
ふと、どこからか黒い人影が見えたような気がした。その人影は私を見ていたような気がした。いや……気のせいか。
コンコンコン。
ドアが強めに叩かれる。
扉の向こうから現れたのはハロミトだった。
「お嬢様『――。』のお時間です!」
元気いっぱいの声が私の部屋に広がっていった。
これにて『詩忍にくちなし』第一幕は終了です。
ご愛読ありがとうございました。
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言葉で戦う世界で、「は」しか使えない執事と、お嬢様の成り上がり~『詩忍にくちなし』~
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