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めいど・いん・みっしょん  作者: 阿月 結希


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25/26

♥25 みっしょん・いん・ちょこれ~と~complete~

 ――どうして、こうなった?


 ――どこで僕は間違えた?


 ――裏切るような傭兵なんかと手を組んだ時か?


 ――阿良々木《あららぎ》 愛彩《めい》を攫った時か?


 ――父上を見返そうと、野心を抱いたときか?


 ――分からない分からない分からない。


 「あ、來夢《らいむ》ちゃん、エイザちゃん。遅かったわねぇ」


 「――気、――緩んでない?」


 ――なんだ? 遠くで声が聞こえてくる。


 「待たせてすまない」


 「でも、大遅刻ってわけでもないし、大目に見てほしいデス」


 ――さっきよりも声が近い。


 ――いや、自分の意識がはっきりしてきているのか。


 ――夢見心地より、その方がいい。


 ――必ず、阿良々木《あららぎ》の財と権力をこの手に……。


 首から下を拘束され、地面に転がされた姿勢で酒々井《しすい》 幸一《こういち》はゆっくりと目を開ける。


 最初に見たのは絶世の美女が四人。


 クラシックなメイド服で統一されているものの、各々が持つ個性は一切損なわれていない。


 まだ夢の中にいるのか、と酒々井は未だぼやける意識の中で考える。


 「あら。目を覚ましたみたい」


 「まさにグッドタイミング、デス!」


 鈴が鳴るような快活な声。


 まるで、これから始まる楽しい何かを予感させるようだ。


 いいなぁ、僕も混ぜてほしい、と酒々井はモヤついた思考の一端で思う。


 ――ん?


 聞き覚えがある声だと、酒々井は気づく。


 創設祭で愛彩の隣にいた、あの子。


 愛彩を助けに来て、自分の腹を思いっきり蹴り上げた女の子。


 酒々井の思考は、この時完全に覚醒した。


 「う、うわぁ! お、おま、お前ら! なんでここに!? ってか、これはどういう」

 

 酒々井の顔面すぐわきの地面に、エイザの拳が突き刺さった。


 パラパラ、とコンクリートの破片が拳から滴るように落ちる。


 「静かにするデス。騒ぐとお嬢様に見つかる、デス」


 怒りを隠さない眼光に、酒々井は出かかった言葉たちを全てのみ込んだ。


 「今回、あなたはしてはいけないことをしました」


 戦場《いくさば》 來夢《らいむ》は冷ややかな口調で語り掛ける。


 「我々が最もお慕いし、敬愛し、信奉するお嬢様に危害を加え、あまつさえ、生命を脅かす言動――到底看過できません」


 「うふふ。だから、これからあなたにオシオキ、します」


 「――二度と、――私欲にまみれた手で、――お嬢様に触れさせない」


 「もし生きて帰れたら、神様に感謝する、デス」


 ――あぁ。夢の世界に戻りたい。


 酒々井の切実な願いは、しかし神様に届かない。


 ♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥


 潮騒の音だけが空気を震わせる。


 今日一日、いろいろなことがあった。


 何があったっけ。


 あぁ、創設祭をしたんだっけ。


 後片付けをして、後夜祭でクレープを食べた。


 その時はメイサーーじゃなくて、エイザと一緒に歩いてて。


 菖蒲《あやめ》と獅子堂《ししどう》先輩に呼ばれて、それから――。


 「終わったんだな。全部」


 放心で海を見つめていた阿良々木 愛彩は、隣に座る獅子堂の言葉で我に返る。


 「マジで、こんなこと二度と御免だわ」


 「……私もです」


 再び、空間は緩やかな静寂に包まれる。


 「なぁ――」「あの――」


 二人の声が重なった。


 「あ、いや……」


 「先輩から、どうぞ」

 

 じゃあ遠慮なく、と獅子堂が話し始める。


 「お前、大丈夫なのかよ、ケガとかもそうだけど……メンタル? 的な方」


 「あはは。それが、不思議と大丈夫そうなんですよね。確かに怖かったはずなんですけど……」


 ――先輩がずっと守ってくれてたから。


 最後の言葉を、愛彩はそっと仕舞い込んだ。


 それよりも、言わないといけないことがあるのだ。


 「私からも、いいですか?」


 愛彩は先ほどまで水平線に向けていた視線を、獅子堂へ向ける。


 二人の視線が、交錯する。


 獅子堂が、いつから自分を見ていたのかは知らない。


 自分の横顔をずっと見ていたのかもしれないし、偶然タイミングが重なっただけかもしれない。


 どちらでもいい。


 こうして、隣り合って、見つめあえているこの瞬間さえあれば、それでいい。


 「先輩は……」


 愛彩の声が、震える。

 

 それは、漠然とした不安であり、恐怖。


 自分の想いが一方通行だったことを突きつけられる可能性が、愛彩の頭をよぎる。


 それでも、愛彩は言葉を紡ぐことから逃げない。


 「先輩は……私のことを『大切な人』って、言ってくれましたよね? 好きだって。それ、本当ですか?」


 「あ、あれ聞こえてたのかよ……」


 獅子堂は照れくさそうに頬を掻く。


 「もし本当なら――」


 言いたいことが、口の中で立ち止まる。


 あと一歩の勇気を、愛彩は絞り出そうともがく。


 ポトリ、と愛彩の足元に何かが落ちてきた。


 赤いリボンが結ばれた透明な小袋。


 中には、『特別』と言って、來夢と唯優と一緒に作ったピンク色のハート形チョコレート。


 愛彩はそれを拾い上げ、括られた小さな落下傘を取り外す。


 迷いは、不安は、恐怖は、消えていた。


 両手で包むように持つその袋を、愛彩はそっと獅子堂へ差し出す。


 「先輩。私、先輩のこと、――好きです」


 獅子堂は一瞬驚いた顔をするも、すぐに照れくさそうに微笑む。


 「――あぁ。俺もお前のこと、好きだよ」


 獅子堂は愛彩の手を両手で包む。


 二人は、時が止まったように、いつまでも見つめあっていた。


 「――おめでとうございます。お嬢様」


 遠く、コンテナの上で、四人のメイドが二人の様子を眺めている。


 小袋を打ち出したスナイパーライフルを抱えながら、來夢が小さく呟いた。

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