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めいど・いん・みっしょん  作者: 阿月 結希


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15/16

♥15 みっしょん・いん・ちょこれ~と

 これは、どこかにある王国のお姫様のお話。

 

 国外にまで知れ渡るその美しさを聞きつけて、ある日、一人の青年が王都を訪れる。


 フランソワーズと名乗るその青年と、お忍びで王都を散策していたお姫様――ミレアンヌは出会い、身分を隠した二人の交流は続く。


 しかし、その交流がやがて許嫁であるローレンスに露呈してしまい、ミレアンヌの弁解むなしく、フランソワーズは捕らえられてしまう。


 王家、公爵家の両方の家名に泥を塗った罰として自室での謹慎を言い渡され、涙にくれるミレアンヌ。


 数日後の夜。


 その窓を優しく叩いたのは、地下牢に囚われているはずのフランソワーズだった。


 ――一緒に行こう、ミレアンヌ。


 フランソワーズの言葉が優しくミレアンヌの髪を撫でていく。


 ――だめ、行けないわ。私は、お姫様だから。


 ――そんなことを言うなら、僕は隣国の王子様だ。


 実にあっさりと、フランソワーズは自分の正体を明かした。


 その暴露の衝撃にミレアンヌの思考は一瞬、停止する。


 気づけば、フランソワーズはミレアンヌの手を握っていた。


 ――僕と共に、来ていただけますか。一生を懸けて、あなたを幸せにします。


 ミレアンヌの口が、開く。


 それが奏でるのは、受容か、それとも拒絶か……。


 しかし、その音色が聞こえる前に、部屋の扉が乱暴に開かれた。


 ――フランソワーズ。地下牢を抜け出して、あまつさえ姫の寝室に……。今すぐ首を刎ねてやる。


 ――ふん。許嫁というだけで彼女を縛れると思うな。ミレアンヌは、俺が妻として幸せにする。


 ――狼藉者が、知ったような口を……。私のミレアンヌへの愛を疑うとは。覚悟しろ。


 公爵家の子息でありミレアンヌの許嫁、ローレンスと隣国の王子であるフランソワーズ。


 青白い月光に、二人が構えた剣の刀身が鋭く光る。


 ♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥


 「やめて! 私のために争わないでっ!」


 マーレリフデ学園の大講堂。


 全校生徒とその親族、そして何より、超VIPな彼らを護衛する膨大な人数の護衛らで、三万席の会場は立ち見まで出る超満員。


 その大観衆へ、阿良々あららぎ 愛彩めいの悲痛な叫びがこだまする。


 (よし、あとは、フランソワーズが負けて……)


 舞台上で激しい剣劇を繰り広げる両者の勢いは増していく。


 その一撃、その息遣い一つに至るまで、学生演劇の枠を超えた鬼気迫る闘志があった。


 緊張で静まり返る会場に、模造刀がぶつかり合う音だけが響く。


 (――ん? なんで終わらないの? そろそろ……)


 「なかなか腕が立つな、フランソワーズ。だがそろそろ負けを認めたらどうだ」


 ローレンスを演じる酒々しすい 幸一こういちが、台本にはないセリフを紡ぐ。


 「ふっ。この姫君の前で、無様な姿は見せられないんでなぁ!」


 フランソワーズとして舞台に立つ獅子堂ししどう あきらは、その攻撃の勢いをさらに強めた。


 力任せに剣を振るう獅子堂の猛攻を、酒々井は紙一重でいなす。


 返す刀で酒々井は上段から剣を振り下ろし、獅子堂はそれを全力で退くことで回避した。


 (ちょっと、ちょっと――! どうなってるの二人ともぉ~! さすがに止めての連呼も限界なんですけど!)


 『お嬢様。何も考えずにこれから聞こえるセリフを復唱してください』


 (へ? なに? 天音あまね!? どうして――)


 『いいですか? いきますよ? 「あぁ、どうして私のために血が流れるの?」』


 目の前の状況が飲み込めない中、愛彩は一縷の望みと共に再び口を開く。

 

 「あぁ、どうして私のために血が流れるの?」


 一拍を置いて、言葉は続く。

 

 「私が美しいから? そう……私の美貌はそれだけで罪なのね」


 自分が何を話しているのか、愛彩にはそれを熟考する余裕がない。

 

 「艶やかな栗色の髪。白く透き通る肌。細くたなびくように動く指に、さらりと伸びる両の脚……」


 会場が徐々にざわめきだす。


 遂に、お姫様の気が狂ったのか? という声も聞こえてくる。


 しかし、愛彩の耳には届かない。


 「私は、なんと罪深き女なのでしょう……。どうか、どうか、その刃の責めは私一人に――! 無用な血を流すのを止めてくださいませ!」


 『お嬢様! そこで倒れ込んで!』


 バタン、と会場中に響くほど鈍い音を立てて、愛彩は倒れ込んだ。


 会場も、舞台上で激しく争っていた獅子堂と酒々井も、皆が動きを止めて愛彩を凝視する。


 「……あ。はい」


 不意に我に返った酒々井が、獅子堂を手に持った模造刀で撫でた。


 「……え? あ、あぁ! うわぁぁぁ。や~ら~れ~た~」


 バタリ、と舞台上で獅子堂も倒れる。


 (――もう、どうーにでもなれっ!)


 今更ながら、自分のセリフを思い出した愛彩は、赤面した顔を上げられずに、舞台上で延々と突っ伏していた。


 ♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥


 「知りませんっ! わたし、もう知りませんっ! 先輩のバカ!」


 途中のハプニングはありつつも、創設祭の演劇は喝采を受けながら幕を閉じた。


 舞台上の愛彩を見た何人かが、何か痛々しそうな視線を向けていた。


 現在、演劇部の部室に戻った面々の前で、愛彩は盛大にキレ散らかしている。

 

 「本っ当にすまなかった! 反省している!」


 「あれはもう、反省じゃすまされないです! 危うく全部メチャクチャになるところだったんですよ!」


 「そうデス! おじょ――愛彩ちゃんの頑張りが水の泡になるところデス!」


 「さすがに焦ったね、あれは……」


 土下座する獅子堂の頭上に、愛彩だけじゃなく、メイサと酒々井の言葉も降ってくる。


 獅子堂の謝罪を聞いていると、不意に部室の扉がガラガラと開いた。


 「ちわーっす。って、あれ? タイミング悪かったかな」


 パタパタと何かで顔を仰ぎながら、大垣おおがき 菖蒲あやめが現れる。


 「あ、菖蒲ちゃん。聞いてよっ! 獅子堂先輩がさぁ~」


 「あー。獅子堂先輩と酒々井先輩の剣劇、すごかったねぇ~。今年の名シーンはあそこで決まりっしょ」


 それに――、とニヤニヤした顔で菖蒲は愛彩を見つめた。


 「お姫様の自分大好き名言集もしっかりいただきましたからね」


 菖蒲はポケットからレコーダーを取り出し、再生ボタンを押す。


 『私が美しいから? そう……私の美貌はそれだけで罪なのね』


 「ノォォォォォォォ!」


 愛彩は菖蒲のレコーダーを奪い取ろうと手を伸ばすが、菖蒲はひらりと身をかわした。


 菖蒲は背後に視線をやり、メイサを見る。


 「……買う?」


 「三百万までなら即決で」


 「そんな会話しないでぇ~」


 愛彩たちが戯れている様子を見ながら、酒々井はいつの間にか横に立っていた獅子堂に話しかける。


 「ねぇ。獅子堂君」

 

 「あん? なんだよ、酒々井」

 

 「――君、愛彩さんのこと、好きなの?」


 ぶっ! と獅子堂はむせ返りながら酒々井を見る。


 「な、おま、おま――」


 「いや、僕の視点で見れば誰だって勘づくよ。――で、どうなのさ」


 口をパクパクさせていた獅子堂は、やがて観念したように頭を掻く。


 「――あぁ。そうだよ。俺は愛彩のことが好きだ。文句あんのか?」


 「いや。特にないよ。――聞けて良かった、ってだけ」


 「は? お前、それはどういう――」


 獅子堂の疑問を無視して、酒々井は愛彩たちへと声をかける。


 「はいはい。それじゃあ、大講堂の片づけ、皆で手伝ってくれるかな。獅子堂君は絶対ね。罰ゲーム」


 「あ、じゃあ、私はこの写真置いて、退散しますね!」


 「ん? キミも手伝い――」


 酒々井が言うが早いか、菖蒲は大量の写真が入った封筒を机に置くと、瞬く間に廊下へと消えていった。


 「逃げたな、あいつ」


 みんな、ぞろぞろと大講堂へ向かう。

 

 「あ、愛彩さん」


 不意に酒々井に呼び止められ、愛彩は振り返った。


 いつの間にか、部室には二人だけ。


 「この後、校舎裏に来てほしいんだ。一人だと、嬉しいな」


 「――? いいですけど……」


 「それじゃあ、片付け終わったら、よろしくね」


 酒々井はそう言って、部室を出ていく。


 入れ替わるように、メイサが部室に飛び込んできた。


 「おじょ――愛彩ちゃん、どうしたの? 早く行こうよ」


 「あれ? メイサちゃん。獅子堂先輩に引っ張られて先に行ったんじゃ……」


 「愛彩ちゃんと一緒に行きたくって、振り払って戻ってきたデス」


 あの獅子堂先輩を……、と愛彩は引き攣ったような笑みをメイサへと向ける。


 そうして、二人並んで部室を出た。


 (あのゴリラ野郎。私を愛彩ちゃんを引き離すなんて……。許さねぇデス、絶対に)


 (酒々井先輩……。なんの話なんだろう?)


 演劇が終わり、心中は人それぞれであった。

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