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美形悪役に生まれ変わった俺が、英雄になるまで  作者: 風嵐むげん
【第十四章】緊急事態なのに各国のクセが強い
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三話 読める、(展開が)読めるぞ!

 キャンディスが会場内を見回し、凛とした声で宣言する。


「本来であれば有意義な会議を行うために、各国の国王並びに代表者の皆さまとご歓談の時間を設けさせて頂くところですが……もうすでに皆さまの和やかにご歓談していたようなので、このまま五大国会議の方を始めさせていただきます」

「え、もう!?」

「ええ。勇者殿はご存知ないのかもしれませんが、時間は有限なのですよ」

「し、知ってるし、それくらい」


 相変わらず仲が悪いな、この二人。国王たちは異論がないのか、各々一礼して自分の席へと戻って行った。


「待ってくれ、キャンディス。せめてあと五分だけ」

「仕方ありませんね。では、三分後に会議を始めますので、準備をお願いします」


 呆れの感情を隠そうともしないキャンディスに、口をごにょごにょさせるラスター。しかし三分という時間を確保出来たのは大きい。

 ラスターが仲間たちを残して、こちらに走ってくる。ラスターたちの席はデルフィリード王国とルアミ共和国の間にあるため、会議が始まってしまえば俺たちと内々に言葉を交わすことは不可能になる。

 勇者という利権をオルディーネが過度に独占しないための配置だと思われるが、どうしてもキャンディスの嫌がらせなのではと考えてしまう。


「ヴァリシュ、陛下、すみません遅れてしまって」

「全く、俺でも今日は頑張って早起きしたというのに。流石は勇者殿、随分肝が座っているんだな」

「わ、悪かったって! これでもめちゃくちゃ反省してるんだから、お前まで意地悪しないでくれよ」

「そうじゃぞ、ヴァリシュ。あまりラスターをいじめてやるな」


 もっと詰ってやろうと思ったのに、陛下に止められてしまう。確かにそうなのだが、見事な重役出勤をしやがったラスターの気を引き締めてやるのも親友の勤めだ。

 ……まあ、時間もないから続きは後にしよう。


「ラスター、もう一度確認するぞ。今回の会議では、悪魔の残党をどうするかが最大の議題だ。しかし、今は悪魔を相手にしている余裕はない」

「わかってる、最優先は堕天使の討伐だろ?」

「そうだ。だが、勇者であるお前が手も足も出せなかった様子を見るに、堕天使には何か秘密があるはずだ。それを解き明かさない限り、あいつを倒すことは出来ない」

「だから情報を集めるために、各国の代表が集まっているこの場で協力を要請する、だろ」

「忘れるなよ。俺だけが動けたことは、今は伏せるんだ。お前が負けたと聞けば、皆に無用な不安を与えるだけだからな」

「うぅ……ぜ、善処する」


 不安でしょうがないと言わんばかりに顔面に、肩を叩いて活を入れる。何か文句を言いたそうだったが、キャンディスに睨まれたため、俺たちはそのまま席に戻った。

 悲しいことに、俺とラスターの発言力には雲泥の差がある。ディベートだけで言うなら勝つ自信しかないのだが、この場では立場がものを言う。

 いや、次期オルディーネ国王としての立場ならばある程度はいけるだろうが……陛下が居る場で出しゃばるのは反感を集めるだけなので、俺は大人しくしているしかない。


「それではこれより、五大国会議を始めさせていただきます。司会はわたくし、キャンディス・ジェイド・アルッサムが務めさせていただきます」


 参加者の全員が席に着いたところを見計らい、キャンディスが会議の開始を宣言した。

 俺の席は陛下の隣、つまり一番前になってしまっているのだが、ここだと王たちの顔がよく見えてしまう。

 俺の顔もよく見えるということだ。うーん、居心地が悪い。

 そういえば、アルッサムの席にカスティーラの姿がない。まだ成人前だから、お留守番のようだ。


「皆さま、遠路遥々我がアルッサム皇国までお越しいただきありがとうございます。今年も皆さまお変わりないようで何よりです。それから、悪魔王を打ち倒してくださった勇者ラスター殿、リアーヌ殿、ゲオル殿、カガリ殿には言葉では尽くせないほどの感謝を」


 キャンディスの拍手に合わせて、皆がラスターに称賛の拍手を贈る。恥ずかしいのか、誇らしいのか。色々な感情が入り混じったラスターの顔は笑えるくらいに真っ赤だ。

 しばらく拍手したあと、完全に鳴り止むよりも先にウィルフレドが口を開いた。


「ぜひともお礼をしたいところですな。どうでしょう皆さま、我が国に来ていただいて決闘でも――」

「いいえ、ウィルフレド殿。わたくしは悪魔王を打ち倒したと申しただけです。勇者殿にお礼をするのは、人間にとっての懸念事項を全て解決した後にしてくださいませ」


 ウィルフレドの言葉を遮断したのは、キャンディスだ。無礼とも言える行為だが、彼はやれやれと肩をすくめるだけで特に言及することはなかった。


「け、懸念事項ってなんですか?」


 声を震わせたのは、ホタルだ。


「それはもちろん、悪魔の残党です。レンノ殿、確かルアミ共和国で悪魔の襲撃があったとか」

「襲撃、と言えるほどご立派なものじゃないがな。悪魔が一匹、畑を荒らしていただけだ」

「しかし、悪魔の残党が人里を狙っているという事実は変わりません。このままではいつ、新たな悪魔王が即位し、やつらが力を取り戻すかどうかわかりません」


 よって。キャンディスが正面を向いて、宣言する。


「アルッサム皇国は可能な限り早急に……そうですね、一ヶ月以内には敵国に乗り込み殲滅作戦を開始する予定です」

「い、一ヶ月以内にですかぁ!?」

 

 ひええ! とホタルが悲鳴を上げ、陛下はぽかんと口を開けてしまっている。

 ウィルフレドとレンノは動じた様子を見せないが、恐らくは全員同じことを考えているだろう。

 流石に無謀すぎないか、飴ちゃん姫。


「待ってくれ! キャンディスお前、何を言ってるんだ!?」


 ラスターが真っ先に立ち上がり、机を叩く。

 殲滅作戦を提示してくるであろうことは予想していたが、一ヶ月以内に開始するだなんて無茶なことを言い出すとは思わなかった。

 しかし、リモーンがキャンディスの発言を訂正しない様子を見るに、これはアルッサムの総意であることは間違いない。


「ご心配なく、勇者殿。すでに我々は悪魔の領土へ侵攻するための準備を進めております。あと一ヶ月……いえ、二週間もあれば十分です」

「そういう話じゃない! そもそも、そんな話は聞いていないぞ!」

「当たり前です、言っていませんもの。これ以上、勇者殿に借りを作るわけには参りません。悪魔王、そして大悪魔を屠ってくださった。貴殿は役割を十分に果たしました。ですから、ここからは我々にお任せを」

「ということは、キャンディスちゃん。オジサンたちは用済みってこと?」

「ちゃん……ええ、ゲオル殿のおっしゃる通りです」


 眉をピクピクさせながら、キャンディスが頷く。

 あの人、誰にでも『ちゃん』を付けるんだな。


「主要戦力が消滅した以上、悪魔など恐れるに足らず。アルッサム皇国の精鋭たちだけでも十分だと自負しておりますが、どうでしょう? 他国の皆々様のご意思を拝聴させていただきたく存じます」

「それは、我々が貴国に賛同し戦力を預けられるか否かと言うことですかな」

「二択の返答を要求しているわけではありません。どうぞ、ご自由にお言葉を述べてくだされば」


 ウィルフレドの問いかけに、キャンディスは挑発的な微笑を向けた。ラスターたちのことは完全に切り捨てたのか、ラスターが何を喚いても見向きもしない。

 ……ここでウィルフレドが、不可能だとばっさり切り捨ててくれれば良いのだが。


「面白い! デルフィリード王国はアルッサム皇国に協力します。すぐに早馬を飛ばし、我が国の精鋭を集めなければ。なにせ悪魔との決闘ともなれば、一世一代の大勝負ですからなぁ!」

「ありがとうございます、ウィルフレド国王。しかし早馬を飛ばすのは仔細を決めてからにして頂きたく思います」


 すごい、『期待を裏切らない』という言い回しをこれ以上見事に表した場面はないくらいに完璧な返答だった。

 思わずもう一回拍手をしたくなるくらいにな!



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