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美形悪役に生まれ変わった俺が、英雄になるまで  作者: 風嵐むげん
【第十四章】緊急事態なのに各国のクセが強い
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一話 国王はマトモなのかと思ったけど、そうでもなかった

 俺たちがアルッサム皇国に到着してから、二日が過ぎた。今日から五大国会議が始まるということで、城内は緊迫した空気に包まれている。

 各国の王や代表が集まっているのだ。特にアルッサムの騎士たちは皆、厳しい面持ちで城内を見回っている。

 そして今、俺は彼らの鋭い視線の集中攻撃を受けてしまっている。


「よいかヴァリシュ、会議は全ての国が平等に扱われなければならぬ。ゆえに、会議の進行を務める招致国以外は全て横並びじゃ。今回の席の配置は奥からデルフィリード王国、ルアミ共和国、オルディーネ王国、テンロウ国となる。今回はラスターたちも居るので、少々変則的じゃが」


 会議が始まる一時間以上も前に会場入りし、熱心に色々と教えてくれる陛下。完全に引き継ぎモードだ。


「ヴァリシュ、お主は日頃から冷たい性格だと誤解されやすい。いや、最近はだいぶマシになったが……とにかく、会議中はまだしも、今後は他国の要人と会う機会も増えるじゃろうから、常に愛想をよくしておくんじゃぞ。笑顔じゃ、笑顔」

「笑顔……俺には難題です、やはり俺が国王なんて無理です」

「これ、そんな理由で諦めようとするんじゃない!」


 駄目だ。結局、今日に至るまでに陛下の考えを覆すことが出来なかった。

 というか、すでに陛下だけではなく、文官や他の皆まで俺を後継者扱いし始めたのだから逃げ場がない。

 一体いつ用意したのか、それっぽいお仕着せも用意されていたが、騎士団長としての任を放棄するわけにはいかないと拒否した。


「あ、陛下。アレンスと話し合いたいことがあるので、一旦席を外します」

「むう、仕方ないのう……すぐ戻るのじゃぞ」


 強引に理由を作って逃げ出し、後方に控えていたアレンスの元に向かう。自分の名前が出たことに気がついているようだが、俺の内心を察したらしく、気が付かないフリをして自分から駆け付けることはしなかった。

 有能か! これでひとまず陛下から距離がとれた。無論、警備には問題ない程度の距離だ。


「はあぁ……アレンス、助けてくれ」

「無理です。ここまで来た以上、腹を括ってくださいとしか言えません」


 違った、冷酷だった。


「自分としては、なぜ陛下の後継者となることをそんなに嫌がるのかがわからないのですが。元々そういう話があったのではないのですか?」

「なかった。俺としては、それはラスターの役目である筈なんだが」

「ラスター様がですか? うーん……全然イメージ出来ませんね。ヴァリシュ様がなぜそう考えていらっしゃったのかはわかりませんが、我々はずっと前からあなたが王になるのだろうと思っていましたよ。そうであるからこそ、騎士の仕事を放棄していたのかと」


 きょとんとするアレンスに、何も言い返せない。不良騎士だった頃を見逃されていたのは、そういう理由もあったのか。


「う……そ、そんな昔のことを掘り返さないでくれ。ところで、皆の様子はどうだ?」

「特に問題はありません。緊張はしていますが、いい方向に働くかと」


 城内や周辺の警備はアルッサムの騎士が担うが、会場の中や近辺の警備は各国の騎士も受け持つ。今日は第一班に任せてある。

 本来なら、国王の背後を守るのは騎士団長の役目なのだが。俺は後継者として陛下の補佐をしなければならなくなってしまったので、各班長に頑張って貰うしかない。


「そういえば、フィアさんはどうしたんですか? 見当たらないようですが」

「会議なんて退屈だから、終わるまで惰眠を貪るそうだ」


 絶対に怠惰もしくは暴食の悪魔だと名乗った方がいい。俺の愚痴に、アレンスが苦笑する。

 そろそろ、背後からの視線が痛くなってきたので、戻るべきか。観念しかけた、その時だ。


「ぬああああ!! 一番乗り出来なかったああぁ!」


 会場内に雄叫びが響き渡る。咄嗟に剣を抜きかけるも、駆け込んできたその姿になんとか手を止めた。

 グルジアの民族衣装に似た、きらびやかな装いの大男。全力で走ってきたのか、膝に手を置いてぜえはあと呼吸を荒げている。

 それが誰か、紺色のマントを羽織っている以上、言われなくてもわかる。


「へ、陛下! ここはデルフィリード王国ではなく、アルッサム皇国ですぞ! 我が城のように全力疾走はおやめくださいませ!」

「何を言う。国外であるからこそ、わたしは一番であらねばならんのだ。なぜなら、愛すべきデルフィリードの国王だからな!」


 遅れて駆け込んできた紺色の騎士数名に『陛下』と呼ばれ、自らを国王だと声高に宣言する男。


「おお、これはウィルフレド殿。道中で魔物に襲われたと聞きましたが、ご無事なようです安心しました」

「やや、これはギデオン殿。お見苦しいところをお見せして申し訳ない、明日こそはわたしが一番になってみせましょうぞ」


 全く噛み合っていない会話をしながら、握手を交わす二人。

 ウィルフレド・グレンデス。デルフィリード王国の現国王である。三十代後半という年齢相応に、若さと威厳を兼ね備える男だ。アッシュブロンドの髪に、明るい緑色の目、彫りが深い顔立ちもあいまってアクション系のハリウッド俳優のように見える。

 やたらと『一番』にこだわるところを除けば、とても男らしく格好いい王だと思う。剣の腕も相当なものらしく、噂では騎士団長と並ぶとか。

 ちなみに、彼らがこの国に到着したのは昨夜の夕方だったのだが、全然疲れている様子がない。タフだな。


「奥方様やお子様たちはお元気ですか?」

「ええ、こちらは問題ありません。半年ほど前に双子が生まれましてな、こうして離れていると恋しさでどうにかなりそうです」

「なんと、双子でしたか! それはそれは、可愛らしくて仕方がないでしょう」

「そうなんです! どちらも可愛くて一番が決められません。いえ、上の兄弟もこれまた可愛いので、我が子だけには優劣をつけられませんな!」


 ウィルフレドは十年ほど前に結婚し、生まれたばかりの双子を含めて四人の子宝に恵まれているとか。

 そういう理由で今回、奥方様とお子様たちはデルフィリードでお留守番らしい。


「ところで、ギデオン殿。例の後継ぎの件ですが……ふむ、あなたがヴァリシュ殿のようですね。お会いできて光栄です」

「うえっ!? あ、はい!」


 アレンスに物理で背中を押され、こちらを見るウィルフレドの前に立ち握手を交わす。完全に気を抜いていた。

 そうだ、彼が俺を応援しているせいで後継ぎになってしまったのだった。


「ほう、なるほど。想像よりも麗しい方だ。デルフィリードでは、今でもあなたの話題で盛り上がっておりますよ。我が国の騎士に決闘を挑み、流麗な剣で勝利を収めたばかりか、彼の忠誠心まで射止めたと」

「そ、それは……その」

「ああ、いえいえ勘違いされないよう。責めているわけではないのですよ。むしろ、レジェスが心から仕えたい主を得られたこと、そして受け入れてくれたことに感謝しているくらいです」


 ううむ、余裕たっぷりだ。オルディーネならば、アレンスや隊長たちが引き抜かれるのと同じ損害なのに。さすがは大国。


「それに、結果的にこうして貴国と友好を深められた。ヴァリシュ殿、今度はデルフィリードまで遊びに来てください。わたしの妹の何人かが、あなたとお話をしたいと申しております。貴殿とは年齢が近い者もおりますので、退屈はさせませんよ」

「は、はあ」


 マズい、なんか巧みに誘導されている気がする。

 さすがはデルフィリードの国王、破天荒なところもあるが、王としての采配に隙がない。


「なにより、レジェスを打ち負かしたという貴殿の剣をこの目で見たくて仕方がない! なので、ぜひとも我がデルフィリードが誇る闘技場でわたしと決闘を! 妹たちと話したければ、わたしを倒してからにして頂きたい!」


 ……違った。やっぱり決闘オタクだ。

 妹君とお会いしたいなんて一言も言ってない、という反論をする気力も湧かない。

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