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美形悪役に生まれ変わった俺が、英雄になるまで  作者: 風嵐むげん
【第十三章】 旅先では多くの出会いがあるものだ
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四話 勇者の仲間たちが現れた!

 アルッサム城にはサッカーが出来るのでは、と考えてしまうほどに広々としたエントランスホールがある。

 壁際には見事な絵画、ところどころに銅像や彫像。天井には人間と悪魔の戦いが色鮮やかに描かれている。美術館のような景観は、他国の者ならば思わず見入ってしまうだろう。

 しかし、俺たちにのんびり眺めている暇はなかった。


「おーい、ヴァリシュちゃーん!」

「む、あれは……」


 聞き覚えのある声に、反射的に足を止めてしまう。駆け寄ってきたのは、なんとも凸凹な二人組みだった。

 一人は大男、もう一人は小柄な女性。シズナがびゃっと飛び跳ねるようにして、俺の背後に隠れた。


「いやー、久しぶりだなぁ! オジサン達、これからお前さんに会いに行こうと思ってたんだよ」

「お久しぶりです、ヴァリシュ殿。お元気そうで何よりです」

「ゲオル殿、カガリ殿、お久しぶりです」


 再会を喜んでくれる二人に戸惑いつつ、挨拶を返す。フィアたちも、そして通りかかった人たちも、彼らを見て驚いていた。彼らはラスターの仲間、つまりパーティメンバーである。

 大男は戦士ゲオル。年齢は三十代後半。ラスターよりも体格がよく、赤茶色の髪を雑に束ねている。動きやすさを重視した軽鎧だが、鍛えられた筋肉は弓矢くらいならビクともしない。

 軽薄な性格に見えるが、恋人を怠惰の大悪魔デシレアに殺された過去があり、黄緑色の瞳には常に仄暗い光が宿っていたのだが。復讐を果たした今、その目はとても穏やかだ。

 女性は忍者カガリ。年齢は二十代前半。東の島国『テンロウ』の出身で、黒髪に黒い瞳、藍色の忍装束という、いかにもといった格好。この中では一番浮いているものの、本人は気にしていない。

 ラスターと出会ったばかりの頃は、冷酷で無機質な機械のような性格だったが、旅をする内にずいぶん柔和な人になった。

 ちなみに、くノ一ではなく忍者である。


「ちょっと、ヴァリシュにしか挨拶しないわけ? アタシとも久しぶりでしょーが」

「ゲオル様とカガリ様にお会い出来るなんて光栄ですわ。わたくし、医者の見習いであるユスティーナと申します」

「おっと、これは失礼。それにしても、ヴァリシュちゃん……綺麗な女性たちに囲まれてるっていうのに、少しも見劣りしないとは」


 リネットとユスティーナを見比べながら、ゲオルが口角を引きつらせる。羨ましい、と言いたいのを堪えているのだろう。

 余談だが、彼は俺が前世の記憶を取り戻す前、女性だと勘違いしてお茶に誘ってきたことがある。ちゃん付けで呼ばれているのは、その名残だ。


「な、なんで勇者の仲間がこんな場所に居るの……ロン毛騎士、早く追い払ってよ」

「あー、ええっと、二人はラスターを探しているんですか? あいつなら、リアーヌのところに行きましたよ」


 完全に怯えてしまったシズナを庇いつつ、ラスターの居場所を伝える。

 でも、二人は揃って首を横に振った。


「違う違う、ラスターに用事なんてないんだ。オジサンたちは、ヴァリシュちゃんに用があるの」

「は? 俺に?」

「はい。今まで、ヴァリシュ殿とお話出来る機会がなかなか持てなかったので。大悪魔アスファのことなど、一度お話できればと」


 そう言う二人の視線が、俺の左目に注がれる。どうやら、彼らは俺の目のことを知っているらしい。きっとラスターが話したのだろう。

 ならば、彼らとは確かに話をした方がいいか。でも、今はフィアとシズナが居る。


「お誘いいただき光栄なのですが、これから彼女たちと一緒に出かけるので。今日は夕食の後ならば、時間がとれるかと」

「出かけるって……え!? ヴァリシュちゃん、両手に花どころか一面お花畑状態でどこに――ふぉああ!!」

「失礼、ゲオル殿。たまにはヘビたちにも日光浴をさせようかと」


 ゲオルのにやけ顔が一瞬で青ざめ、そのまま一秒で十メートルくらい後ずさる。理由は、カガリの忍装束から二匹のヘビが顔を出してきたからだ。

 白と灰色のヘビはカガリの相棒である。彼女が変わっている、というわけではなく、テンロウの人たちの多くがトカゲやカエルと言った小動物と暮らすという習慣があるのだ。

 ヘビたちはとても賢いので、ダンジョンの攻略でギミックを解除してくれるなど、旅の途中で大活躍してくれた。試しに手を伸ばしてみると、挨拶するかのように擦り寄ってくれた。とても可愛い。

 対して、ゲオルはヘビが苦手だ。魔物だろうと悪魔だろうと、どんな強敵でも腕力でねじ伏せる男のくせに、手のひらサイズのヘビに逃げ出すのだから格好つかない。


「むむ、やはりこの国に居る間は鳩よりもヘビの方がいいんですかね?」

「頼むからやめてくれ」

「話を戻しましょう、ヴァリシュ殿。リネット殿とユスティーナ殿が空のカゴを携えている様子を見るに、採取へ行くのではありませんか? でしたら、我々がお供いたします」

「そ、そうそう。この辺りの魔物は強いからなぁ、護衛はいくら居ても困らないと思いマス、ハイ」


 ヘビがカガリの装束の中に戻っていったのを見て、戻ってきたゲオルも頷く。デカい図体をビクつかせている姿は、護衛にしてはとても頼りないのだが。

 なんて、流石に正論を突きつけられるほど、彼らとの親交は深くない。


「いえ、今日の採取は民間人だけでも行ける範囲内で済ませるつもりなので。悪魔という驚異がなくなった以上、私用であなた方の手を煩わせるわけにはいきません」


 意図せず昔の俺のような嫌味ったらしい言い方になってしまったが、言いたいことは伝わったと思う。

 二人は顔を見合わせ、それから俺の背後に居るシズナと、フィアを見る。


「いやー……確かに悪魔王はもう居ないし、大悪魔もここには居ないんだけどさぁ。オジサンたちマジでヒマだから、遠慮すんなって!」

「そ、そうです。ここに悪魔が一体も居ないのは言うまでもなく明らかですが、暇なんです我々! やることがなさすぎて溶けそうなんです! 採取でも荷物持ちでもなんでもやります! やらせてください!!」


 だめだ……このまま二人をスルーしても、無理矢理ついてきそうだ。ていうか、フィアたちが悪魔だっていうことも完全にバレているじゃないか。

 これはもう、諦めた方が良さそうだ。頷いた俺に、二人がハイタッチする傍ら、背後から細い悲鳴が聞こえてきた。



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