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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第16章:零下饗宴
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第254話 悪霊(2)

 山の麓を拠点として、早数日。

 河原には高さ5メートルほどの防壁で囲われた、石壁の豆腐ハウス、大浴場付き、が建設されている。ヤマタノオロチ攻略戦のために培った土魔法技術がフルに生かされた贅沢な拠点である。

 お陰で、妖精広場ではなくとも、僕らはそれなり以上の安全が保たれる建物で寝泊まりできるのだ。

 そんな環境で、山登りのための準備は順調に進めている。

 順調なので、今日はお休みにした。

「そーら、取ってこーい!」

 と、葉山君の手から放たれるのは、真っ白いフリスビー。

 程よい速度、程よい高さ、程よい飛距離、と絶妙な調子で飛ばすフリスビーを追いかけるのは、一人と一匹。白い髪をなびかせるレムと、赤い尻尾をぶん回すベニヲである。

「キャンキャン!」

「とった」

 10メートルほど先の地点でフリスビーをキャッチしたのは、レムだった。

「上手にとれたな。偉いぞー」

 そしてベニヲと一緒に駆け戻り、フリスビーを葉山君に渡すと、笑顔でレムを撫でた。

 うーん、こうして見ると、葉山君はなかなかの好青年ぶりである。喋るとガッカリされる三枚目タイプだけど、黙っているとなんだかんだで普通にイケメンだよね。蒼真君と天道君が飛びぬけているだけで。あと、桜井君もかなりのハイレベルだったし、二年七組という環境だからこそ埋もれてしまうのも仕方のないことか。

「おい葉山ぁー、次はウチにも投げさせろよ」

「いいけど、あんま力一杯にぶん投げるんじゃねーぞ? こういうのは、絶妙な投げ加減ってのがあるんだからな」

「分かってるってー」

 ヘラヘラ笑いながら、蘭堂さんはフリスビーを受け取り、

「とりゃぁーっ!」

 かなり全力っぽい感じで、明後日の方向に飛ばしていった。

「ワンワン!」

「まてー」

 それでもレムとベニヲは、喜んでフリスビーを追いかけて走り出していった。

「いやぁ、平和だねぇ」

「プググ」

 僕はしみじみとつぶやきながら、キナコのフッカフカの毛並みを撫でる。

 うつ伏せに寝転がったキナコの背中の上に、僕も転がってくつろぎながら、この平和な光景をぼんやりと眺めていた。

 まるで、普通にハイキングかキャンプにでも来たかのような長閑さである。

 次の瞬間には、またロイロプスが森から飛び出し突撃してくるような危険な場所に変わりはないので、罠やら屍人形の監視やらで、最低限の警戒態勢を維持してはいるが。

 サバイバルで気を抜くなんてとんでもないと怒られそうなほどゆるみきった空気が流れているが、僕らは過酷な環境で生き抜いてきた生粋のサバイバリストではない。人には休息が、心の安らぎというものが必要なのだ。

 そして、のんびり休むには今がちょうどいい。登山に挑む直前の今が。

「みんなの仲が良くて、僕も心が安らかだよ」

 僕が余った骨から作った雑な完成度のフリスビー一枚で、あの盛り上がりようである。葉山君も杏子も、何が楽しいのかケラケラ笑っているし、ベニヲは千切れるんじゃないかってくらい尻尾を振って喜んでいる。

 レムは無表情なので楽しそうな気配は一切ないが、それでも、人の心、感情というのは伝わっているのではないかと思う。だから、素直に笑って遊んであげられる、葉山君と杏子の存在というのは、とてもありがたい。

 術者という絶対服従が前提となる、僕ではダメなのだ。そういう枷のない、他の人間と接するからこそ、レムの成長に意味があると思う。

 僕はレムに、冷酷無比な殺人マシーンになって欲しいわけではないからね。

「だから、僕らも仲良くしようよ、キナコくーん」

「プゥ、プググ……」

 ウサ耳に向かって囁くと、何とも言えないうめき声を上げるキナコである。

 どうにも、キナコは僕のことが苦手なようだ。やはり、ロイロプスを屍人形に仕立て上げた呪術の力が恐ろしいらしい。

 そんなものより、もっと直接的な攻撃力を持つ蘭堂さんの方が危険を感じるべきなんじゃないかと思うのだけれど。何か、本能的に恐ろしさを感じてしまう部分があるのかもしれない。

「まぁ、その内に慣れてよね。僕ら、もう仲間じゃん?」

「プガガ、プグゥ」

 そんな風に、とってもダラダラしながら、休日は過ぎていくのだった。




 そして翌日。

「うーん、やっぱり、これはもう限界かな」

「あ、小太郎、おかえり」

 パッチリ目を覚まして起き上がると、だらしなく寝ころびながら鉄鉱錬成陣で精製中の杏子が声をかけてくれた。

「どうだった?」

「またダメだった」

「やられた」

 と言って、僕と一緒に寝ころんでいたレムも起き上がり、猫みたいに膝の上に乗ってくる。サラサラの銀髪オカッパ頭をナデナデすると、幼女レムは無表情で嬉しさの欠片もない様子……だけど、表情に現れないだけで、喜んでいると自分勝手に解釈している。

「分身の偵察じゃ限界あるね」

 神の意志と魔法のコンパスによって進む道が保証されているダンジョンと違い、ここは単なる自然の山脈だ。ルート選択を誤れば遭難一直線である。

 また、自然のフィールドということは、ダンジョンでの難易度調整機能も働かない。あのサラマンダーの他にも、僕らじゃ太刀打ちできない超危険な魔物が潜んでいる可能性は大いにある。

 というわけで、登山ルートの確認と、山に住む魔物の調査も兼ねて、僕は初日からせっせと『双影ふたつかげ』の分身を送り込み、山登りを開始していた。

 最初は僕の分身単独で。

 次は分身と、護衛として適当に作った黒スケルトンのレムを連れて。

 そして三度目は、馬代わりに屍人形にした鹿のようなアルパカのような草食獣ジャージャに乗って。

 三度の先行偵察は、三度とも山の中腹に差し掛かろうとする辺りで、全滅の憂き目にあっている。

「ちくしょう、あのハゲタカ共め……」

 山の中腹を縄張りにしているのは、鷹の魔物の群れだ。あの辺からは切り立った岸壁も目立つようになり、そこが巣を構えるのに良し、麓で獲物を狩りに行くのも良し、というヤツらにとっての好立地となっているようだ。

 サビついたような赤褐色の色合いの羽毛を持ち、大きなクチバシはギザギザとした鋸刃状で、積極的に人である僕を襲う鷹型の魔物を『アカハゲタカ』と名付けている。

 サイズこそ普通の鷹と同じ程度、だがそれは地球基準では十分に大型の猛禽類である。そんなのが群れを成して襲い掛かって来れば、僕じゃひとたまりもない。

「でも、みんなで行けばなんとなるんじゃね?」

「うん、なんとかなる、というか戦闘にもならないと思う」

 僕を見かければ獰猛に襲い掛かってくるアカハゲタカだが、奴らは生来、慎重で臆病な生態であることが、ここ数日の観察で判明している。

 奴らは、ターゲットがある程度の群れになると、狙わないのだ。自分達の方が多くても。

 必ず、一体か二体、はぐれた個体だけを狙う。それ以外は、屍肉を積極的に漁っている。

 つまり、僕ら全員で出向けば、奴らは見向きもせずにスルーしてくれるだろう。

 でも偵察で僕だけが行くと「ヒャッハー、カモが来たぜぇ!」となるわけだ。

「偵察だけ妨害されるとかウザいことこの上ないよ」

 ゲームだと確実に嫌われるタイプの雑魚モンスである。

「じゃあ、もうぶっつけ本番で行くしかなくね? あんまノンビリしてるわけにもいかないっしょ」

 杏子の言う通りではある。焦って先を進むことはしなくても、かといって無限に準備時間をかけることもできない。どこかで区切りをつけなければ。

「じゃあ、葉山君が戻ったら、意見を聞いてみるよ」

 このパーティは僕の専制じゃないからね。ちゃんと全員の意見を聞いて行動方針を決めるよ。

 というワケで、夕暮れに釣りから戻った葉山君に聞くと、

「よっしゃあ、行こうぜ、山登り!」




 賛成多数で山越え実行が可決されたので、僕らはいよいよ目の前に聳え立つ山に挑む。

 アカハゲタカのせいで偵察こそ失敗に終わっているが、準備の方は万端だ。

「うーん、この積載量、素晴らしいね。僕、車買うなら絶対大きいのにするよ」

 満足げに、僕は不気味な赤ラインが浮かぶロイロプスの首元をバシバシ叩く。

 このロイロプスは戦闘用というよりは、大量の物資を乗せるための荷駄獣としての役割に期待して、屍人形としたのだ。

 こんな大きな山、とても一日で乗り切れるワケがない。数日かけての登山となる、ということは、その日数分だけの物資が必要だ。今までは平地だから、拠点を構えて周辺に狩猟採取へ、ということもできた。

 でもここは、サラマンダーをはじめ危険なモンスターがいる可能性が高い上に、あちこちに崖のある地形は、動き回るだけで危ない。一度登り始めれば、これまでのような現地での補給は望めないのだ。

 さらに、山の頂上付近では、どう見ても雪が薄っすらとだが降り積もっており、その寒さは想像するに難くない。全員分の防寒着と、凍死せずに眠れる温かい寝具も必要だ。

 地球の登山者達の姿は、ドキュメンタリードラマやら何やらで見たことくらいはある。彼らの姿は、大量の荷物を背負っており、なんとか歩き続けられる、といった様子。

 地球で登山するだけならそれでも十分だが、モンスターとの戦闘も想定される異世界登山では、全員あんな大荷物抱えているワケにはいかない。

 ただでさえ嵩張る荷物に加え、予備も含めた数日分の必要物資を持ち運ぶためには、自分一人の体ではとても足りない。そこで、ロイロプスのような大型車の出番である。

「こんなに持たせて大丈夫かぁ?」

「屍人形は魔力で動いてるから、肉体的な疲労はないから大丈夫だよ。それにロイロプスはこの山岳部でも棲んでるような魔物だから、かなりの登攀性もある」

 ちゃんとスペックは把握しているから。

 そしてそれは、ロイロプスだけに限らない。

「ジャージャの乗り心地はどう?」

「流石に乗馬の真似事は、まだちょっと慣れねーな」

「アルファの方が良かったかなー」

「まぁ、贅沢言わないでよ」

 乗って歩けるだけ十分マシだということで。

 草食獣ジャージャは、きっと馬よりも臆病で騎獣に向いてはいないだろうけど、屍人形にかければその辺の問題はなくなる。あまり背中を揺らさないよう、気を使って歩かせることだってできるのだから。

 登山といっても、ずっと急勾配を登り続けるワケじゃない。麓から進んでいくだけでもかなりの距離を歩かされる。ならば、乗り物に乗ってもいいじゃない。

 特にこの山越えは危険が高い。素早く進むことは重要だし、本人の疲労を軽減するのも大きな意味がある。キツい山道を歩き続けてゼーゼー言ってる時に襲われるなんて、冗談じゃないよ。

 なので、捕獲するのに危険はないジャージャを騎獣として、人数分用意した。

 流石にロイロプスとジャージャ三騎分もの鞍と鐙、荷物を載せるための装備を作るのは、結構な量となった。周辺で狩った魔物の皮と、ラージスケルトンの大剣から精製した鉄を、ほとんど全部つぎ込んだからね。

 でも、いざこうして登山隊が並んで歩き始めるのを見ると、頑張って作った甲斐もあるってものだ。

「なんか、静かだな。フツーにハイキングでもしてるみてぇだ」

 河原の拠点を出発して小一時間。特に魔物の襲撃もなく、順調に進めている。

 森というほどの密度はなくなり、林となった周囲を見渡せば、視界には鳥や小動物の影が素早く横切っていくだけ。

 葉山君の言うように、長閑な雰囲気でハイキングって気分にもなってくる。

「でも、こういう時ほど、って感じするよね」

「わかるぅー」

 あまりいい予感はしないな、と杏子と通じ合う。

 そして、案の定、とでも言うべきか。

 ソレは、林を抜けて、大きな岩がゴロゴロと転がる急な坂となる地形へ差し掛かった時であった。


 ゴォオオアアアアアアアアアアアアッ!


 腹の底から震えるような獰猛な雄たけびを上げて、正面から大きな影が迫ってくる。それも、二つ。

「まずい、グリムゴアだっ!」

 サンダーティラノより二回りは小さいが、それでもラプターよりは圧倒的にデカい二足歩行の肉食恐竜のシルエット。周囲の岩場に溶け込む様な、灰色の岩石質な甲殻を身に纏い、角ばった頭は大きなアギトを開き、咆哮を発している。

 グリムゴアはダンジョンでも何度か見かけたモンスターだ。

 中型のサイズ、獰猛で俊敏、そして何より、群れている。かなり危険度の高い奴である。討伐するリスクに見合わないので、いつもスルーして倒したことは一度もない。

 しかし、今回は戦闘を避けられないな。

 この岩場が、グリムゴアの甲殻が保護色として働いたせいか、僕らの発見が遅れ、先に向こうがこちらに気づいてしまった。移動速度も、奴らの方が速い。真っ直ぐ逃げるだけでは余裕で追いつかれる。

 戦うしかない……と、誰もが思い、真正面から迫り来る二体のグリムゴアに覚悟を決めて釘付けになる。

「後ろからも来るぞ!」

 それに気づけた、とはいえ一瞬早いだけのこと。

 グリムゴアは群れだ。基本的に三体構成。二体だけっていうのはおかしい。

 僕が叫びながら咄嗟に振り向けば、後方からバキバキと細い木を蹴り倒しながら、姿を現す三体目がいた。


 グゥオオオオオオオオオオオオオ!


「や、やべぇ、挟み撃ちってヤツかよこれ!?」

「小太郎、前と後ろどっちから狙う!」

 悩む猶予はない。

 彼我の距離、グリムゴアの突進速度。杏子が初手の一撃で止められるのは、どれか一体だけ。

 前衛は、すでに黒騎士へと変身を終えたレムと、ちょっとビビり気味のキナコ。二人で二体のグリムゴアを止められるとは思えない。よくて一体が限界。

 だが、後ろの奴がそのまま突っ込んで来れば、ロイロイプスを盾にするしかない。

 グリムゴアに食らいつかれれば、流石にロイロプスもあっという間に倒れるだろう。だが、所詮は屍人形。また作ればいい。

 一方、キナコは倒れればそれまでだ。影人形の本体たる幼女レムも、傷つくとどうなるか不明。

 脅威度と安全度、総合的に考えて、まずは正面の二体の内の片方を削り、後ろの一体はロイロプスを犠牲にして耐える。これが最善の対応————

「杏子、後ろの奴を撃って!」

「行くぞぉ、『破岩長槍テラ・フォルティスサギタ』!」

 ドォン、という後方への発射音を耳に届けながら、僕は右手を向けて、唱える。

「声なき声をかき集め、闇夜に透ける姿を映す。狂気の沙汰、悲劇の果て、虚無の末路。暗き底なし沼に淀む者達よ。悔い、改めることなかれ————」

 僕の決断を後押ししたのは、この間にルインヒルデ様から授かった新呪術。

 想定していた使い時とは異なるが、こういう時でも効果を発揮するはずだ。

 伸ばして右手にはいたカースドヘキサが、刻まれた六芒星の眼を輝かせながら、呪術の効果を増幅させる。ターゲット、ロックオン。

 喰らえ、これが僕の新呪術、

「————『悪霊憑き』」


『悪霊憑き』:どこにでもいる、ありふれた存在。意思というには薄弱で、憎悪と狂気はほど遠く。されど彼らはそこにいる。重なり、漂い、今もまだ器を求め。


 開いた手のひらを、グっと閉じる。

 何もない空を掴むだけの手のひらだけれど、僕には確かな感触を覚えた。

 よし、成功だ。悪霊は、確かに『入った』。


 ギャヴォオオオオオオオオオオッ!


 獲物を前にした叫びとは異なる、苦しみに満ちた甲高い声がグリムゴアから上がる。

 僕が狙ったのは、向かって右側の奴。牙を剥き出しにして大口を開く様子は何の変りもないが、その頭部には薄っすらと黒い靄がかかって見える。

 これ、葉山君だともっとハッキリ見えたりするんだろうか。

 ともかく、悪霊に憑かれたグリムゴアの変化は、すぐに現れる。

「うおおっ! なんだよ、仲間割れかぁ!?」

 けたたましい雄たけびを上げて、突如として右側のグリムゴアは、すぐ隣を併走する相方の首筋へと噛み付いたのだ。

 あと十メートルもしない内に、レムとキナコの前衛に襲い掛かる、といったところで。

 葉山君が叫んだように、いきなり仲間割れしたようにしか見えないだろう。

「葉山君、僕と一緒に後ろの奴を集中攻撃だ!」

「お、おうよ!」

 突然の展開についていけない、といった様子の葉山君だが、僕の呼びかけにはすぐに応えて、『レッドランス』を握りしめて反転。

「よっしゃあ、当たったぞ小太郎!」

 流石は杏子。きっちりと後ろから迫るグリムゴアに『破岩長槍テラ・フォルティスサギタ』を命中させていた。

 急所こそ外れているが、大きく腹を抉られるように当たったようで、岩の甲殻も砕け、かなりの出血を強いている。

 喰らった衝撃と傷によって、その場で倒れ込んでしまったのだろう。

 すぐにでも起き上がってきそうなほどの気迫は感じられるものの、そこですかさずロイロプスが足で踏み付け、行動を阻止していた。この素早いアシストはオートじゃない、レムの判断だろう。

「一気にトドメを刺すぞっ————『ポワゾン』」

「行くぜ、ファイアーッ!」

「えーと、とりあえず『石矢テラ・サギタ』で」

 僕の毒と葉山君の炎、さらに杏子の弾丸は、大きく抉れた傷口へと殺到し、もがくグリムゴアに致命傷を与える。

 しかし、流石の生命力。グゥウウ、とうめき声を上げながら蠢いているが……もう立ち上がるほどの力はない。そのままロイロプスに踏ませておけば、すぐに息絶えるだろう。

「あと一体だ!」

「小太郎、どっち狙えばいいのよ!」

「噛み付かれてる方で!」

『悪霊憑き』は、名前の通りに悪霊を対象に憑依させる呪術だ。

 お馴染みのフレーバーテキストを頑張って解釈すると、ここで言う悪霊は「うらめしや、死ね!」と生きた人間をいきなり呪い殺せるほど強力な奴ではなく、恐らく精霊のようにその辺を常に漂っている存在なのだと思われる。悪霊だが、存在感は非常に薄く何の力もない、といったところか。

 で、そういうのを一気に集めて、相手の頭の中に叩き込む。僕が発動させた感覚では、そんな感じの効果だ。

 そして、本来なら感じることもできない薄い悪霊を凝縮することで、強烈な意思と化し、とり憑いた相手を狂わせる。

 そう、悪霊にとり憑かれると、敵味方の区別なく暴れ回るのだ。

 だから、僕の『悪霊憑き』を喰らったグリムゴアは、目の前の僕らよりも、隣にいる仲間の方が、近いし、デカいし、目立つから、とりあえず攻撃し始めた。

 この呪術のポイントは、上手く使えば敵の一体を狂わせることで、同士討ちさせられるってとこだ。

「そこだぁ————『破岩長槍テラ・フォルティスサギタ』!」

 杏子の放った上級攻撃魔法は、運よくグリムゴアにクリーンヒット。胴体を貫き、心臓まで上手く砕けたのだろうか。すぐにぐったりと動かなくなった。


 ゴガァアアアアアアアアアアアアアアッ!


「お、おい桃川、まだあと一体残ってるぞ! っていうかアイツ、めっちゃヤバい気配感じるんだが!?」

「ああ、それが悪霊の気配ってヤツかな?」

「呑気に言ってる場合かぁーっ!」

 襲っていた仲間が死んだことで、悪霊に憑かれた方のグリムゴアは、次なる獲物として僕らへと狙いを定める。

『悪霊憑き』の残念なところは、別に僕が自由自在に操れるワケではないってところだ。あくまで、敵も味方も分からず暴れ回るほど狂わせられるというだけ。

 放っておいたら、こっちも普通に襲われる。

「みんな、下がって」

 僕は『ポワゾン』ぶっ放した『愚者の杖』をしまい込み、ジャージャの鞍にかけておいた、カンテラを取り出す。

 魔力を流し、真昼間だけど、確かな白い輝きをカンテラは放つ。

「食らえ、聖女様の輝き、悪霊退散!」


 ギョォオオアアアアアアアアアアアッ!



 と、絶叫しながら、グリムゴアは慌てて踵を返し、岩場の向こうへと全力疾走で逃げだしていった。

「このカンテラ作ってくれたことだけは、感謝しといてあげるよ、桜ちゃん」

 悪霊は光属性が大層、苦手なようだ。肉体になんのダメージも与えない単なる光でも、必死こいて逃げ出す。

 なので、この光精霊ルクス・エレメンタルによって光るカンテラを照らすだけで、効果は抜群というワケだ。

 逃げ去ったあのグリムゴアは、その内に悪霊が散って野生に帰るだろう。

 さて、全く予期せぬ襲撃だったが……グリムゴアの新鮮な死体が二つ、こちらの損耗ナシで手に入ったときたもんだ。収支的には、大きなプラス。ツイてるぞ、コレは。

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― 新着の感想 ―
呪術師らしくていいじゃないですか。
[一言] ベニヲちゃんとレムちゃんでフリスビーは楽しそうだなぁ~なんか絵になりそうな感じ~葉山君 やっぱ動物は敏感なんだね~コタ君ガンバです よし、前衛ゲットだぜぃ
[良い点]  『悪霊憑き』――ひとつ前の話でチラッと話題に上りましたが、こんな呪術でしたか。  術者自身も悪霊に憑かれた魔物に攻撃される可能性があり、光属性に極端に弱い。  ルインヒルデ様が授けてく…
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