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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第8章:王の力
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第99話 地底湖塔の攻防(1)

 ジーラ軍団が湖を渡り切って上陸してくるには、まだ幾ばくかの猶予はある。だが、僕らの唯一の脱出路でもある橋の辺りにも、ワラワラと大量に現れているので、強行突破で逃げるのは無理だ。勿論、この島に上陸するのを水際で食い止めるだけの戦力もない。レムを入れても僅か五人。こんな広さの水辺をカバーできるはずがない。

 やはり、ここは塔に逃げ込み籠城するしかない。

「早く閉めてよ!」

「扉ないんだけどっ!?」

 一足先に駆け込んだジュリマリが、開けっ放しの塔の入り口でうろたえている。

「うわ、マジでない、どうすんのよぉ、桃川ぁー」

 少し遅れて駆け込んだ僕と蘭堂さんも、扉がないのを確認。扉ごと外された、というより、シャッターのようになっているのだろうか。壊れた蝶番などは見当たらない。

 どっちにしろ、ガラガラと引っ張って閉じられそうなシャッターの取っ手もないようだし、ここは完全に開けっ放しの入り口ってことだ。

「蘭堂さん、ここに土壁を張って」

「あっ、そっか!」

 こういう時こそ、土壁と永続のコンボが役に立つ。

「ここと、ここに二枚。上の方は少しだけ開けておいて。ここで撃って、奴らの数を削っておこう」

「う、うん」

「野々宮さんと芳崎さんは、塔の中を見てきて。立て籠もれそうな部屋とか、使えそうな武器とか設備とか。あと、階段も屋上までちゃんと壊れずあるかどうかも確認して欲しい」

「分かった!」

「行ってくる!」

 焦って逃げて、階段が崩れていましたー、じゃあシャレにならない。せめて、少しでも塔の中を確認しておかなければ。

「桃川、こんな感じ?」

「うん」

 入り口を塞ぐ土壁がそそり立つと、早くもジーラの先頭集団が見えてきた。

「撃って」

「『石矢テラ・サギタ』!」

 ドヒュン、という大きな風切音と共に、石のライフル弾が放たれる。眼の前を埋め尽くすほどのジーラの大群が迫りつつあるのだから、どこに撃っても当たる。

「ギョアっ!」

 胸元に大穴をあけて倒れるジーラが見えたが、すぐに突撃する仲間に飲み込まれて見えなくなる。何体か倒したところで、止められる勢いじゃあない。

「とちかく撃ち続けて」

「うん!」

 発射音が響く度に、ジーラが悲鳴を上げて倒れる。しかし、あまりにも多勢に無勢。蘭堂さんの『石矢テラ・サギタ』の発射間隔は五秒に一発。幸い、水棲魔物のジーラはあまり足が速くない。それでも、僕より少し遅い程度。十秒あれば五十メートルを駆け抜ける。

 何発も撃たない内に、ジーラ軍団はこの入り口へと押し寄せてきた。

「今だ!」

「――『石砲テラ・ブラスト』」

 瞬間、一際大きな炸裂音が轟く。同時に、無数の石礫がメキメキとジーラの鱗を砕き、肉を裂く生々しい音が重なる。

 蘭堂さんが『石矢テラ・サギタ』の訓練中で習得した次なる土魔法が、この『石砲テラ・ブラスト』である。いわゆる一つの範囲攻撃。委員長の『氷結放射アイズ・ブラスト』の土属性バージョンみたいなものだろう。

 だが、冷気を放出する氷とは違い、こちらは石という物理的なモノを発射する。弾は『石矢テラ・サギタ』よりも小粒で、射程距離も短いが、一瞬にして前方方向を圧倒する無数の石弾は、ショットガンも同然。

 遠距離は威力と弾道と射程が安定するライフルのような『石矢テラ・サギタ』で、近距離は一発で広範囲に弾をバラまけるショットガンな『石砲テラ・ブラスト』。異なる二丁の銃を装備したも同然な蘭堂さんの火力は、確実に上昇している。

 この入り口に向かって殺到してくる暴徒のようなジーラ軍団など、一網打尽にしてくださいと言っているようなもの。放たれた小粒の石弾は、ほとんど無駄なくジーラの体に炸裂したことだろう。

 しかし、『石砲テラ・ブラスト』がフルヒットしたところで、奴らの勢いを止めることなど到底できない。この魔法もまた、マシンガンのように連射はきかない。クールタイムは約七秒と、『石矢テラ・サギタ』よりも長い。

 瞬く間に、倒れた仲間を踏み越えて、今度こそジーラが入り口の土壁にまで押し寄せる。

 よし、この距離なら、ようやく僕の出番だ。

「朽ち果てる、穢れし赤の水底へ――『腐り沼』」

 隙間から手を伸ばして、僕は呪印から血を飛ばす。土壁のすぐ向こうに落ちた鮮血の雫は、瞬く間に『腐り沼』として広がった。

「ギョオっ!?」

「ァアアアアアアアアアアアアアっ!」

 突撃の勢いに任せて、明らかにヤバい色の毒沼へとジーラ共は突っ込んできた。そして、その赤い強酸性の湖面に触れて、初めて絶叫を上げるのだ。

 馬鹿め。お前らの鱗程度で防げるほど、ルインヒルデ様の毒沼は甘くない!

「うわぁーっ、なに、なにこれ桃川ぁ!」

「僕の呪術、酸の沼だから絶対に触らないように」

 今まで紹介する機会はなかったからね。蘭堂さんが初見なのもしょうがない。でも、そんなにビビらなくてもいいじゃない。

「いいから撃って、すぐにここも溢れてくるから!」

「う、うぅー、もうヤダぁーっ!」

 早くも泣き言を叫び始めた蘭堂さんは、もう土壁を挟んですぐ目の前まで溢れてきたジーラに向かって、ヤケクソ気味に『石砲テラ・ブラスト』をぶち込んだ。

「穢れし赤の水面から、血肉を侵す髪を編め――『赤髪括り』」

 僕も負けてられないと、展開した『腐り沼』と、両腕の呪印から『赤髪括り』を放出。殺すには時間がかかるが、負傷させるだけでも十分。どうせ倒れた時点で、後ろから押し寄せるお仲間に踏みつぶされて勝手に死ぬのだ。

 僕は目につく限りのジーラに酸の触手をぶつけ、少しでもこの入り口に突入してくるタイミングを遅らせる。

 蘭堂さんの容赦ない近距離射撃と僕の酸攻撃によって、結構な数が屍となっていくが――その死骸が完全に『腐り沼』を覆い尽くした辺りで、限界が訪れる。

 仲間の死体を足場に、ジーラは体ごとぶつかってくる。

「退こう、蘭堂さん!」

「うぃーっ!」

 あまりの激戦にあって、蘭堂さんもかなりテンパってる。でも、変な返事をあげながらも、僕の指示はちゃんと耳に届いているらしい。

「入り口に向かって槍を立てて。短くていいから」

 どうせ奴らの勢いなら、土壁を破ったらそのまま雪崩れ込んでくる。堂々と岩の槍が立てられていても、先頭の奴は後ろに押されて突き刺さるに決まってる。

「野々宮さん、芳崎さん、そっちはどう!」

 吹き抜けになっている塔を見上げて叫ぶ。すると、壁面に沿って続く螺旋階段の中ほどから、ひょっこりと二人が顔を覗かせる。

「階段は上まで大丈夫―っ!」

「でも部屋は何もない! 屋上まで続いてるだけだから!」

 外観からして予想はしてたけど、塔の天辺まで何もなしか。都合よく、侵入者撃退用のトラップとか、脱出用の転移魔法陣とか、あるわけないか。

「もう外の奴らが雪崩れ込んでくる。これから、階段に壁を張って第二ラウンドだ!」

「私らはどうすればいいのさー?」

「蘭堂さんについて、守って。奴らが武器を投げつけてくるかもしれない」

「オッケー、杏子、アタシらがついてっから、頑張れ!」

「ありがと、ジュリ、マリ!」

 蘭堂さんの土魔法は、籠城戦における生命線だ。土壁がなければ敵の足止めもままならない。うっかり事故死でもされたら、そのままジーラに飲み込まれてしまう。

「蘭堂さん、もう下がって。階段のここと、あの辺に、壁を作っておいて」

「桃川は?」

「もう一発呪術をかましたら、すぐに行くから」

 彼女の土魔法の最大の欠点は、壁を出すのに時間がかかること。一足先に作らせておかないと、建設が間に合わない可能性が高い。

 それを自分も心得ているのか、蘭堂さんはすぐに階段に向かって駆け出した。

「さぁ、見せてやるよ、僕が編み出した新呪術を!」

「ガガーっ!」

 僕のボディーガードみたいに、ぴったり寄り添っているレムも声をあげる。この呪術は、レムにも関わりがあるから、是非とも頑張ってもらいたい。

「酸毒の血肉を纏い、赤の水底より起き上がれ――」

 土壁の向こうで、ガリガリと破ろうとしている音が聞こえる。奴らは、足元の毒沼はすっかり仲間の死体で埋めつくされたお蔭で、安全な足場が築けていると思っていることだろう。

 けれど、お前らの足の下では、腐り沸き立つ猛毒の水面が、まだ残っているということを、思い知らせてやる。

「――『腐れる汚泥人形』」

 その瞬間、ザバリ、と激しい水音が響きわたった。土壁に取りついていたジーラ共が、勢いで吹っ飛んで行くのが隙間から見える。

 そして今、壁の前に立っているのは……赤黒い泥の肉を纏った、泥人形だけ。

 そう、僕はソロになって最初に遭遇したカマキリとの戦闘で、レムを『腐り沼』を利用して作ったのを、新たな呪術として完成させたのだ。


『腐れる汚泥人形』:腐り沼より出でる、酸と毒の泥人形。


 ルインヒルデ様も認めてくれたのか、そんな名前と説明文とをちょうだいした。『赤髪括り』に続く、第二弾となる僕のオリジナル呪術。いや、もしかしたら最初から派生技として設定されているだけかもしれないけど。

 ともかく、これのお蔭で、死体で埋まるとほぼ無効化される『腐り沼』を、さらに有効活用できるようになった。毒沼そのものが人型となって暴れることで、より多くの敵に、その強力な酸を喰らわせるのだ。

 天道君と合流してから、レムだけを作って二号を作らなかったのは、ただ素材がなかったからという理由だけではない。大事な護衛であるレムをそのままに、『腐れる汚泥人形』を行使するために、二号の操作を空けておいたのだ。

 出現する『腐れる汚泥人形』は、レムがコントロールする『汚濁の泥人形』と統一されている。だから、二号を普通に作っていると、『腐れる汚泥人形』を発動させることができないのだ。

 近い内に試したいと思ってはいたけれど……まさか、こんな土壇場でやることになるとは。

「よし、行こう、レム。二号は暴れるだけ、暴れさせておいて」

「ガガ!」

 心得た、とばかりに頷くレムを連れて、僕も蘭堂さんを追って階段を駆けがある。彼女が作る壁が完全に階段を塞ぎきる前に、ギリギリで滑り込んだ。

「桃川!」

「奴らが雪崩れ込んでくるまで、まだもうちょっとだけ時間がある。落ち着いて、今の内に階段の防備を固めよう」

 蘭堂さんに言い聞かせるというよりも、僕自身、落ち着いてどうバリケードを構築すべきか考えなければいけないからだ。

 彼女の土壁と岩槍は、何枚でも何本でも出せるが、時間がかかる。ジーラがここに突入してくるまで、あと五分もつかどうかも分からない。下手な作り方をすれば、あっという間に突破されてしまうだろう。

 どうする、どういう形が一番、奴らの侵攻を食い止めて時間稼ぎができる? 何も考えず、ただひたすらに土壁を重ね続けた方がいいのか。槍と組みわせて殺せる罠も作るとか、斜めに壁を張ってスロープみたいにして落とすとか……うん、そうだ、下手な工夫をするよりも、時間いっぱいに使って壁を厚くした方がいい。蘭堂さんも、その方が魔法の行使に集中できる。

「壁、できたけど! 次はどうすんの!?」

「あそこまで上がって、そこから連続して壁を立てよう。とにかく壁を厚くして、時間を稼ぐんだ」

「分かった!」

 ここの塔は四階建てくらいの高さで。階段もそれほど長いワケではない。何か所に分けて防衛線を構築するだけのスペースもない。

 階段は塔の内壁に沿って敷かれている螺旋階段だ。中央は吹き抜けになっていて、簡素な手すりがあるのみ。

「野々宮さん、芳崎さん、その辺の手すりって壊せる?」

「ちょっと待って――ウラぁっ!」

「オラぁっ!」

 女の子にあるまじき声をあげて、二人は思い切り細い金属製らしき柵を蹴飛ばす。細くしなやなか足から繰り出された豪快な蹴りは、見事にスカートが翻り、あっ、パンツ見えた。赤と黒だった。

「桃川、いけそう」

「斧も使えば、一発だわ」

「その辺の手すりを全部落としておいて!」

 オラオラ、ガンガン、とけたたましい音が響き、見る見るうちに手すりがひしゃげて、その機能を果たさなくなっていく。

 どうせ登って来るのはジーラだけ。安全性なんてくれてやるつもりはない。せいぜい、大勢のお仲間で押し合いへし合いしながら、勝手に落っこちればいい。

「グガ、ゴ、ガガ!」

「えっ、そろそろ二号が限界?」

「グガァーっ!」

 何となく、レムの素振りから『腐れる汚泥人形』もジーラの数に飲み込まれたことを悟る。

 いよいよ、来るか。

「ギョォオオアアアアアアアアアアアっ!」

 土壁を崩して、ジーラが雪崩れ込んでくる。案の定、入り口の前に突き立てた岩槍にブッスリと刺される間抜けな奴らが発生するが、それも、何体か刺されば死体が重なって無効化されてしまう。

 その様子を、土壁で階段を封鎖した最上階付近から、僕らは眺めていた。

「うわっ、来たぁ……」

「ここから先はもう、後がない。頑張ろう、蘭堂さん――行くよ」

「う、うん――『石矢テラ・サギタ』!」

「『腐り沼』っ!」

 ゾロゾロと突入を果たし、階段へ群がり始めたジーラに向かって、蘭堂さんが射撃を行う。僕もあらかじめ階段に点々とバラまいておいた血痕から、『腐り沼』を発動。再び、ジーラ達は石の弾丸と酸の水辺によって一方的に死にゆく。

 ここの階段は人二人が余裕を持ってすれ違える程度には幅がある。階段としては広めの作りだが、それでも地形的な制約は免れえない。自然とジーラは二列になって階段を進む。蘭堂さんはその先頭集団を狙い撃った。

「ギョアっ!」

「アァアアア……」

 一体が撃たれて倒れれば、真後ろを走る奴が死体に躓き転倒。さらにその後ろも、と、ドミノ倒しになっていくが、それでも奴らの異常なまでの戦意は衰えない。倒れたならば、這ってでも登って行くのみ。

 けれど、階段には僕が展開させた『腐り沼』もあるから、そう簡単に登って行くこともできない。

「黒髪縛り……くっ、流石にこの距離にこの数は、重い……」

 僕は『腐り沼』を最大限に生かすため、折り重なるように倒れ込む死体を、黒髪縛りで掴んで、階下へと放り落とす。ジュリマリコンビがほどほどに手すりを破壊してくれたお蔭で、死体除去も幾分か楽だ。

 けれど、多少の距離が離れている上、次々と倒れ込んでくるジーラに、触手の作業速度も追いつかない。

 くそ、地形的にも能力的にも、こっちの方が有利なはずなのに……やはり、圧倒的な数の前には押し切られてしまう。

「危ない、桃川っ!」

「うわっ!?」

 ガキン、と鋭い金属音が目の前で響く。

 よく見えなかったけど、どうやら野々宮さんが槍で、ジーラが投げた武器を弾いてくれたようだ。

「やっ! ちょっ、危なぁーっ!」

「いいから、杏子、撃って! アタシがちゃんとガードしてやっから!」

 ジーラ共も、上から一方的に攻撃を加える僕と蘭堂さんを、優先的に狙うようになってきた。手にする武器を、やたらめったらに投げつけてくる。ここまで届くのは一部だけれど、際どいコースに飛んでくるのもある。数撃ちゃ当たる理論。

「このっ、死ねよ魚ヤローっ!」

「いい加減、しつけーんだよ!」

 ガランガランと飛び込んでくるジーラの武器を拾い上げ、野々宮さんと芳崎さんがお返しとばかりに投擲攻撃を敢行。流石は戦闘天職の二人、ただ武器を投げつけるだけでも、かなりの威力だ。ジーラのノーコン投法とは異なり、矢のような勢いで飛んでいく武器は、見事に奴らの体に突き刺さる。

「レムは二人に武器を拾ってあげて」

「ガっ!」

 向こうから矢弾が飛び込んでくるお蔭で、こっちの手数も増えた。二人の投擲は、槍を投げれば二体同時に貫くほどの威力で、非常に強力だ。流石に今のレムでも、ここまでのパワーは出せないだろう。だから、二人の手数を稼ぐために、武器を拾っては渡してあげるサポート役に徹させた。

 僕ら四人の決死の応戦は、もう数えきれないほどジーラを屍に変えていく。それでもやはり、焼け石に水。

「ちいっ、魚のくせに、余計な知恵を回しやがって……」

 次第に塔の階段構造と、僕の『腐り沼』戦法を理解したのだろう。ジーラ共の中には、階段の毒沼を避けるように、肩車をして頭上を走る一段上の螺旋階段へ登ろうとしていた。他にも、階下から鉤爪のような刃のついたロープを投げて、それで登ろうとする者。原始的ではあるが、あの手この手で、塔を登ろうと試行錯誤している。

「ああぁー、クソ、来るなって、『石砲テラ・ブラスト』ぉーっ!」

 ついに、土壁を重ねた防御壁にジーラ共が辿り着きはじめた。蘭堂さんは遠くの奴を狙うのをやめて、とにかく土壁前の奴を薙ぎ払うために『石砲テラ・ブラスト』で応戦。

 僕も、もう他のところに呪術を撃ってる余地はないと判断して、『赤髪括り』をけしかけて邪魔をする。

「グギョオッ!」

「ギョアっ!」

 どんどん壁を前に倒れていくジーラ。その死体はあっという間に階段に溢れ、ゲーセンのお菓子を落とすゲームみたいに、後続の奴らにちょっとずつ押し出されては、下に落っこちていく。

 けれど、奴らの数は一向に減る気配を見せない。

「ああっ、ちくしょう……盾なんか使ってんじゃねーよ、魚野郎!」

 その小賢しさに、僕も思わずキレる。

 奴ら、土壁を削る作業の仲間を守るために、死体を担いで盾にしているのだ。いや、その死体の数を生かして、土嚢のようにズンズンと手すり側に積み重ねていっている。

「桃川っ! ブラストが通らないんだけど!」

「ちっ、こっちも槍じゃないと貫通しない!」

「斧とかナイフじゃ死体に弾かれるし!」

 全身が鱗に覆われているジーラは、人間よりもやや硬い。急造の肉壁だが、こっちの攻撃の幾つかを封じるには十分な効果をもたらしている。

 ちくしょう、天道君のドラゴンブレスみたいな大爆発を起こせる火力があれば、あんなジーラの集団なんて……ええい、ないものねだりをしても仕方がない。

「蘭堂さん、先に屋上に行って。そこが最終防衛線だから、入り口を槍で囲んでから、壁をたてて」

「わ、分かった、やってみる!」

 身を翻し、蘭堂さんは塔の屋上へと向かう。その短いスカートの後ろを隠すことなく、勢いよく階段を駆け上がっていったせいで、ムチムチのお尻を覆う豹柄のパンツが――いいだろう、こんな窮地なんだから、それくらいのラッキーがあったって!

「死ねよ、オラぁ!」

「キメぇんだよ、この魚面がぁ!」

 それから土壁が破られる寸前まで、僕と野々宮さんと芳崎さんは奮戦した。といっても、五分も時間が稼げたかどうかといったところだが。

「受け継ぐは意思ではなく試練。積み重ねるは高貴ではなく宿命。選ばれぬ運命ならば、自ら足跡を刻む――『黒の血脈』」

 最後に、屋上前の階段に血を落として『腐り沼』の仕込みをしてから、僕もついに最終防衛線となる屋上へと上がった。

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