3 入れ替わり大作戦
「入れ替わるって、どういうこと?」
椿はいつも突拍子もなく思いつきで話すことがあるけれど、そのだいたいは、私にだけは伝わっていた。両親が分からないと言ったことも私にだけは分かって、私から説明することもあった。
だけど今回だけは、まったく、椿のことが分からない。
「だからぁ、あたしが桜で、桜があたしになるのよ」
そうやって椿が説明を加えても、分からなかった。
「分からないよ、椿。あたしが椿で椿があたしって、どうなるの?」
手早く野菜を刻んでいた手は包丁を持ったまま、さっきから中に浮いて、止まっている。
「だからぁ、」
椿は言った。お互いを装ってお互いの学校に通うのよ、と。
「何でそんなことするの?」
「だって、面白そうじゃない」
「気づかれたらどうするの。今までは一瞬の出来事だったから平気だったけど、学校に1日いるとなると、クラスの人とか友達とか、覚えなきゃいけないし。あたしと椿は性格だって違うんだから、何時間も一緒にいたらばれるよ」
「大丈夫だって!! あたしたち記憶力いいし、顔が同じなのに別人だなんて誰も思わないよ。みんなただの高校生なんだから」
あたしたちだってただの高校生じゃない、と言おうとしたけれど、椿はそれを聞く前に、ひとり、楽しそうに入れ替わりを想像した。そのうち妙に自信を持って、「うっわぁ、楽しそう!!」と、私の肩をバシバシ叩いた。中学時代、バレー部のエースとして鍛えたアタックが私の肩を押し潰していって、包丁を持つ手は耐え切れず、カチャン、と、床に突き刺さった。
「あっ、ぶないなぁ〜」
「椿、力入れすぎ!! 肩痛い!!」
「あぁ〜、ごめんごめんっ」
椿は顔の前に両手を合わせると、ウィンクをして、「で、どう?」と言った。
「椿、何考えてるの? 別の高校に通おうって、椿が言い出したことじゃない」
「確かにあたしたちは、双子だって、人に知られたくないけど。だけど、あたしたちは双子なんだもん。それを生かして楽しみたいじゃない」
双子っていうのを嫌うんじゃなくて、双子でよかったと思いたいの、と、椿は言っているような気がした。
それには賛成だった。私だって椿と双子だってことを、もっと喜びたいと、思っていたから。
「分かった。椿の提案に乗ってあげる」
「本当?!」
「あたしも、自分の学校には飽きてきたところだし。椿の言うとおり、楽しくなるんなら1日くらい替わってもいい」
もしかしたら自分の学校にはない楽しさが、見つかるかもしれない。たった1日だけど、お気に入りの場所ができるかもしれないし。
「よし!! じゃあ早速部屋から学校の見取り図取って来るね!!」
「え?!」
「明日はクラス写真をこっそり持ってくるから。入れ替わり大作戦、あさって決行!!」
「え、あさって?! うそ!!」
床に包丁が突き刺さった。




