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桜サク夏  作者: 綾瀬タカ
27/52

27 伝わらない想い

桜が大爆発!!の回です。

ベラベラ早口で言う感じを書いたので、少し読みづらいかも……?


 私の中の狂気が、火事場の煙のように、もくもく、むくむくと、現れた。

「夏は、本当に友達想いだよね。そういうところ、いいと思うよ。みんなが夏を好きで、夏の側にいるの、よく分かる」

 夏が「え」と声を上げるその前に、私は、言った。

「でも、それって無責任、身勝手。友達のためなら何してもいいの? 2人のためなら、あたしに何だって言えるの?」

「椿?」

 そのとき私は、妙な使命感を抱いていて、夏が何か言う前にすべて話し終えなければいけないと、思っていた。そんな必要はまったくなかったと、気づくのは、私がそこを去ったあと。夏の発言への憤りもプラスして、私は、手のつけようがない、壊れた玩具のように、ただひとつのことだけを思って、動いていた。


 ――夏は私のことなんてちっとも考えてくれていないし、私を見つけてくれていない。


「あたしは、喬に告白されたとき、『付き合えない』って、言ったの。これ以上『はっきり言う』って、どういうこと? 『喬なんか好きじゃない』って、言えばいいの? ねぇ、そう言えばいい? 夏がそうだっていうなら、今すぐ言ってくるけど」

「椿。俺は、そんなつもりじゃ、」

「そんなつもりじゃない、って? じゃあ何なの。涼平にも『あんな賭けは卑怯だ。勝手すぎる』って言えばいいの? 言えるよあたしは。だって心の中で、あたしは本当にそう思ってたもん」

 自分を繕うことなんて、もう、できない。

 夏は、あまりに軽率にそんなことを言う。鈍感、という言葉では済まされないほど私の心に鋭い刃を突き刺して、それでもまだ、何も分かっていない。分かって、くれない。

「椿。どうしたんだよ、お前」

 夏は、困った顔をして、私を見た。

「夏、は、あたしのことは何も考えてくれないんだね……」

 そう言った私を見て、夏が「え」と呟いたのをきっかけに、今までのことすべてが、どうでもよくなった。

「もういい。夏、もう、いいよ」

「え、椿……?」

 夏の横を通り過ぎ、私は歩き出す。

「おい、椿!! お前、どうしたんだよ」

「椿なんて呼ばないで!!」

 

 その愛しい声で、私を、「椿」と呼ばないで。


「お前なんて、呼ばないで。あたしは……」


 私は桜。椿じゃない。お前、なんて呼ばれるほど、夏は私のことを知らない。


「ばいばい。夏」





 一度だけでいいから、「桜」と、呼ばれたかった。

 

 それが叶わずに夏の元から離れることを、どうかこの先、後悔しませんように。







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