28 恋心、消失
「えぇっ?! どういうこと?!」
「今言った通りよ」
「何でそんなこと言うの?!」
「だから、今言ったでしょ」
「『もう二度と入れ替わらない』なんて、それだけじゃ分からないでしょ〜」
夜、午後10時ごろに家に着いて、その足で椿の部屋に向かった。ノックをせずに部屋に入って、驚いた椿に、言った。「明日から、もう二度と入れ替わらないから」と。
「ねぇ、どういうこと? 何かあったの?」
椿は私の前に立って、私の肩をぐっと掴んだ。
「……別に。ところで椿は、見つかったの?」
「え?」
「会いたい人に、会えた?」
そもそも入れ替わりの始まりは、椿が私の学校で会いたい人がいて、その人を見つけること。初めから、私は望んで入れ替わりをしたのではない。椿の願いが叶えば、入れ替わりは終わる。
「実は、今日会えたの」
「今日?」
「そう。今日初めてあの日以来再会して、少しだけ、話すことができたの。『明日も会える?』って聞いたら、『さぁね』って、笑ったの。明日も来てくれるかもしれない」
椿は今日のことを思い出し、嬉しそうに顔を綻ばせた。正直、椿のこんな可愛い表情は初めて見たので、ドキリとする。もしかして私も夏のことを想うときは、椿と同じ顔をしているのだろうか。
ま、もともと同じ顔だけど。
「ねぇ桜。あたしの恋は始まったばかりなの。だからお願い。入れ替わりやめるなんて言わないで」
恋心の始まり。ドキドキが募って、心が支配される嬉しさと、そばにいられることの喜び。
私も、それを知っている。椿の気持ちは、私が経験したものと同じ気持ち。
だけど、ごめんね。私はもう、そのあとの、恋の辛さを知ってしまった。痛くて、哀しくて、今のところ立ち上がり不可能。
「できないよ、椿。すべてなかったことにして、お互いの、前の生活に戻ろう」
「桜……」
すべて、なかったことに。
夏と過ごした時間。夏を好きだった私の恋心。すべて、私の中からなくなればいい。
そうすれば、今はまだ流れない涙も、夏への想いとともに、ぼろぼろと零れ落ちてくれるだろう。




