8話 国民の負託
8月17日0000 演習場宿営地
「約3万人の強襲上陸って…」
状況は最悪だった。
目を覆うような惨事だ。
「制海権を取られているんだ。
仕方ないだろう」
「台湾有事での
混乱の隙を突かれて
大規模な強襲上陸を
しかも四国に仕掛けてくるとは
思わなかった」
紀伊3尉の落胆が
伝わってくるようだった。
「それなのに我々は
捜索を続行するんですか?」
私は疑問を投げかける。
一刻も早く四国に
部隊を派遣すべきだと
考えられた。
明らかに陽動である
部隊を探し続ける事に
意味があるのだろうか?
紀伊3尉は静かに
首を横に振ると
スマホが格納された鞄から
スマホを取り出し
小隊に映像を見せる。
「これを見て欲しい」
そこには爆破された
瀬戸大橋が映し出されていた
しかも、そのニュースでは
橋の破壊は自衛隊の仕業だと
騒がれていた。
「そんなバカな
話があるか!!!!!」
横で見ていた
霞2曹が怒鳴った。
「もちろん、
自衛隊が橋を破壊するなんて
事はあり得ない」
「メディアに対して
介入があったと考えるのが
妥当だろう」
紀伊3尉はキッパリと
断言した。
「その証拠に
四国に向かおうとした
戦車師団が今も橋の上に
取り残されている。」
「奴らは橋の出入り口を
破壊した。」
「対戦車運用のセオリー
………」
対戦車運用の基本は
先頭の戦車と後方の戦車を
動けなくする事だ。
舗装した道路しか
移動できない戦車の
弱点を狙ったものだ。
「橋を壊された以上、
我々は救援に向かう
事が出来ない」
「船はどうなんです?」
私が紀伊三尉に尋ねる。
「制海権を取られている以上は
無理だろう」
「米軍の派遣を待つしかない」
「見事すぎる……」
中国の軍事行動は明らかに
こちらの手段を封じに
来ていた。
そしてその思惑は
完全に成功していた。
小隊を沈黙が完全に
支配していた。
8月17日0000 演習場宿営地
静まり返る小隊の中
紀伊3尉が静かに
告げる。
「ミーティングは終わりです。
各自明日は0600起床
0645、車両前に集合で」
たまらず私が叫んだ。
「待ってください!
四国には私達の妻子もいます!
このままこの作戦を続ける気ですか!」
「そうです」
紀伊3尉がこちらを見据え、
はっきりとそう言った。
私は妻子の顔を思い浮かべた。
自衛官という職業に
ついていながら
身内に危機が迫っているのに
何も出来ないとは
思ってもみなかった。
紀伊3尉がため息を
ついた。
「長門3曹、あなたにとって
自衛隊の使命とは何ですか?」
「それは……」
私にとって自衛隊は
国を守ると同時に自分達の
家族を守る事だった。
しかし、この状況で
それを言っても仕方がない事を悟り
言葉に詰まる。
見かねて紀伊3尉が口を開く。
「私は国民の負託に答える事だと
思っていますし、明言もされています」
「我が国の平和と独立を守る事が
使命です」
紀伊3尉がはっきりとした目で私を見つめた。
その目には覚悟の色が見えた。
「その為には自分の家族を切り捨てても
いいと?」
「そうです」
グッと拳を握る。
爪が手のひらに食い込むのが
わかった。
正論と情がごちゃ混ぜになり
自分が冷静でない事を自覚する。
「もし、あなたの家族に
何かあれば全て私の責任で
構いません」
「一生恨んでくれて構いません」
「ですが、今この状況で
規律だけは失うわけにはいきません」
「もう、部下を失いたく
ないからです」
紀伊3尉の充血した目には
はっきり
その言葉を聞いて
私はグッと感情を
抑え込む。
言葉から紀伊3尉が
言っている事が
本心からだと知ったからだ。
「もう休みましょう
今日は色々ありすぎました」
私は黙って
床に入った。
悪夢のような現実から
意識が離れていく。
泥の中に沈んでいく
気分だった。
読んでいただいてありがとうございます!
リアクション、レビュー、感想、5☆評価、ブックマークよろしくお願いします!




