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4話 殉職

8月16日1200 演習場 隊舎内



「山狩りですか!?」


小隊一同は驚愕する。


「そうだ、上陸した百名だが未だに見つかっていないそうだ。

潜伏先がまだ見つかっていないそうだ。

その為、山狩りを行う」



「今回は警察とも共同で作戦を行うとの事だ」


筑摩曹長はため息をつく。


「もし、相手に協力者がいて家に匿っていた場合は

どうするつもりだ?」


「その場合はどうしようもありません。

我々に与えられた任務は山狩りをする事です」


「仮に山に潜伏したとしても

兵隊の格好をしているとは限らんぞ

一般人を装うかもしれない」


「その場合は拘束します」


「以前警察との共同訓練でやったと思いますが

相手を銃で威嚇し結束バンドを使い拘束します」


「実弾の使用許可は?」


「相手から撃たれた場合かこちらが危険と

判断される場合です」


「その危険は誰が判断するんだ!!!」


「私です。ですから万が一目標を捕捉した場合

私が責任を取ります」


それは紀伊3尉の決意の言葉だった。


温度の上がりかけていた

筑摩曹長の温度が下がる。



「昼食後、1300から出発して1330には現地に到着。

その後、捜索を開始します」


「それは、いつまででしょうか?」


私が紀伊3尉に質問をする。

紀伊3尉は苦い顔をした。


「見つかるまでです。

終了時刻は示されていません」


何とも理不尽な命令だ。

いるかどうかも分からない敵兵を

見つかるまで探せと言う。


まあ、こんな事は今に始まった事ではない。


「長門ぉ、当たり前の事を聞くんじゃねぇよ」


筑摩曹長がチクリと言った。


「それより、紀伊3尉、隊員から携帯取り上げろよ。

ウクライナじゃ、SNSとかで携帯の使用で、

作戦情報や位置情報がバレたって聞くぜ。」



「それは私の一存では無理です。

反発も大きくて」



「本当に想像力のねぇ、組織だこと。

うちの小隊だけでも携帯は回収しておけ。

隊員の命に関わる事だ。

それはお前の一存でも出来るだろう?」



「分かりました。」



こうしてミーティングは解散する事になった。


8月16日1330 第1小隊担当山中



小隊は山狩りを始める。


示されたエリアは山であり

山道すらない。



横に数メートル間隔で隊列を

組んで1時間ほど真っ直ぐに進み

10分休憩を繰り返す。



装備は万一の為に、防弾チョッキを着用し

銃と弾薬、鉄帽を装着した完全防備で

行われていた。



防弾チョッキは普段とは違い

鉄板が入っておりとても重い。


それプラスで弾薬と銃の重さと

山の高低差の激しい悪路だ。



加えて今は8月で

猛烈な暑さである。



多くの隊員が口には出さないが

内心では悲鳴を上げていた。



8月16日1830 第1小隊担当山中


夏は日が長いとはいえ

日中、我々を苦しめ続けた太陽は

その姿を潜めた。


暑さは多少はマシになっている。


それでも滝の様に汗が流れ

それがもう6時間は続いていた。



「よう、長門3曹!元気かぁ!」


休憩中に

隣にいた筑摩曹長が私に話しかけてくる。


「ったく、普通科ってのは貧乏くじだよなぁ

キッツい肉体労働はいっつも俺たちだ」


ははははと私は苦笑いする。


筑摩曹長はポケットから

何か小袋を取り出す。



「ほれ、飴ちゃんだ、食っとけ

塩分とらねぇとばてるぞ!」


私は渡された飴を口に含む。

塩分が足りていなかったせいか

とてもおいしく感じた。


こういう所があるから

筑摩曹長は嫌いになれなかった。


ちゃんと隊員1人1人を気にかけ

情があった。



「向こうの事務方は全滅だ。

当然だ行軍もろくに歩ききれんかなぁ」



筑摩曹長は少し考えると

急に私に問いかけてきた。


「なあ、長門、お前なんで

自衛官になった?」



「なんですか?急に?」


「いや、このところこの組織に

疑問を抱く事も多くてな

陸士には聞かせられんし、

小隊長にもな、


お前くらいにならいいだろう」



「はあ、まあ」


「安定してたからですかね?

あとは国防の意識があったんだと

思います。」


「あとは人から感謝されたいとか

だから普通科に入ったんでしょうね」



「人から感謝……ね。

それ、満たされてるか?」


「いや、全然。

けど、自分の大事な人達が苦しむ姿

見たくないじゃないですか?」



「そうか…そうだな」


「そういう筑摩曹長はどうして

自衛官になったんですか?」


「俺か?そうだな・・・」


「親父の影響かな」


「お父さんも自衛官だったんですか」


「いいや、料亭をやっていた」


「俺が生まれたのは北九州の

筑豊というところでな

まあ、荒れた土地だ。」



「ヤクザが闊歩するような土地だ。

そこら辺で密造銃や手榴弾であふれ

ヤクザ同士の抗争が絶えない」



「俺はそのヤクザに友達と

死角に隠れてBB弾を撃って

からかって遊んでいる。


そんなガキだった」


「はあ…・・・」


自衛隊には元不良は珍しくない。

この手の話は腐るほどあった。


「高校の頃、ヤクザの事務所に

拉致された友人を助けに殴り込み

に行った」


「結果、友人を助けたが

ヤクザが家に報復に来てな」


「親父は趣味で猪を撃ってたんだが

その猟銃でヤクザを撃ち殺して

刑務所に入った。」


「マトモに生きろと最後に言い残して

親父は刑務所で首をくくって死んだ。」



「俺のせいだ」



「まともに生きろったって

俺は頭もよくねぇんだ

プライドも高い。」



「あるのは丈夫な体だけ。

無い頭で必死に考えて

自分が世の中で役に立つことを

考えた結果自衛隊に入った」



思わず絶句してしまう。

壮絶な人生すぎる。



「こんな事になっちまったんだ

多分俺達はこれから試される事になる」



「何をです?」


「自衛隊って組織の意義って奴をだ」


「・・・はあ」


ホイッスルが鳴る。

休憩終了の合図だ。



「じゃあ、そろそろ俺はいくぜ」


筑摩曹長がその場を離れようとした。

その時、



ーーーーーパン



一発の銃声が鳴り響いた。




次の瞬間、筑摩曹長が

支えを失った肉塊の様にその場に倒れる。



「----えっ?」



その頭から血があふれ出し、

間違いなく死んでいた。




もう、その情に厚く暑苦しい、

今では絶滅危惧種となってしまった

愛情を見せる事はないだろう。



私は今もこの時の事がフラッシュバックする。


忘れる事を脳が許さないのだ。



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