5話 ロボットウルフ
最初の殉職者は筑摩曹長だった。
あの強健を絵に描いたような生命力溢れる上官は
あっけなく死んでしまった。
目の前には命を否定するように
どす黒い血液が大地に染み込んでいく。
ーーー我々が死ぬ事が無い。
平和で平穏な毎日を送り、どこか
信仰にも似た偶像が
急速にその光を失い
崩れ去った。
人は銃で撃たれれば死ぬのだ、
そんな至極簡単な事が目の前で起こるまで
理解できていなかった。
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8月16日1840 第1小隊担当山中
私は今起こった事が信じられなかった。
後ずさりをするとその瞬間に
今まで私がいた地点に弾丸が通り過ぎる。
我に返った私は全員に怒号を上げる。
「銃撃だ!!!前方に敵影ぃいいい!!
総員遮蔽物に身を隠せぇえええええっつ!!」
悲しむのは後でよかった。
私は即座に自生する大木に身をゆだねる。
「筑摩曹長が死亡!!!
小隊チョォォオオオオオッツツツツ!!!
実弾の使用許可をください!!!!」
紀伊3尉の決断は迅速だった。
「許可する!!!責任は私が取る!!
思いっきりやれ!!!!撃て!!!」
「了解!!!!」
小隊の射撃が始まる。
敵は銃弾に対して
回避行動をとり
その姿を現した。
見えなかった敵の正体が
判明する。
敵の正体は人ですらなかった。
白銀の素体にところどころに
むき出し配線が目立つ狼形の機械。
中国軍の最新兵器。
「ロボットウルフだっ!!!」
私は叫んだ。
「撃て!!!配線がショートすれば
動けなくなるはずだ!!」
「ロボットウルフだけではなく
ドローンも併用しているはずだ!!
そちらも見つけ次第撃て!!!」
紀伊3尉が叫ぶ。
我々は普通科でいわゆる歩兵だ。
電子戦に対する武器も知識も持ち合わせては
いない。
それでもロボットウルフに向けて
銃弾を撃ち込む。
小銃をとても重く感じた事は
これが初めてだった。
複数の銃弾が着弾し
火花が散ると
やがて、ロボットウルフは
動かなくなった。
「撃ち方やめぇぇぇ!!!」
紀伊3尉の号令で
全員は射撃を中止する。
そこにはロボットウルフの
残骸が横たわっていた。
8月16日1855 第1小隊担当山中
小隊は一様に静まり返っている。
幸いにも筑摩曹長以外に殉職者は
出なかった。
「チッ、こんなちっぽけなロボットの風情が」
同期の霞2曹がロボットウルフの残骸を
けり飛ばす。
彼は私の同期で身体能力は優秀。
元野球部のエースで要領がよく
同期の希望の星のような存在だった。
普段、何事も余裕でこなす
鼻持ちならない男だが
今は心情的にそんな余裕はない
ようだった。
「小隊、ケガをしたものはいるか?
隠さず申告してくれ」
紀伊3尉が現状の確認をとっていた。
「それにしても、ロボットウルフがいるとはな
遠隔操作でも遠くからは動かせないはずだが」
「威力偵察の捨て石ってところじゃないですかね?」
霞2曹がうんざりしたように答える。
彼にとって敵の意図などどうでもいいのだろう。
「それより、さっさと全周警戒をさせましょう。
次が来たらどうするつもりですか?」
「そうだな、分かった」
そうだろうか?
先ほどからなにかひっかかる違和感。
何に?
「なあ、なんでロボットウルフは
先に攻撃してきたんだ?」
「そりゃ、お前・・・・・・威力偵察だから
敵を見つけたから攻撃したんだろ?」
「一体しかいないのに?
明らかに多勢に無勢だろ」
ドローンは結局見つけられなかったが
使用しているのであればこちらの動向と
どこまでの戦力がいるか把握していた可能性がある。
「長門、お前、何が言いたいの?」
「近くに人がいたんじゃないのか?」
「それも少数で。
勝ち目がないから
ロボットウルフで我々の注意を引き付けた
可能性はないか?」
衝撃が走る。
「なるほど、確かにその可能性はありますね
長門3曹……」
紀伊3尉がうなずく。
「小隊、全周警戒、敵兵がいるかもしれない
辛いかもしれないがあとで泣け。
木を盾にしながら慎重に前進する」
「中隊長、連隊長には無線で連絡しておく」
皆の緊張が走る中で
前方の茂みからガサゴソと音がしたのは
その時だった。
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