12話 日常は戻らない
8月17日1225 施設内
自衛隊の味方の
第2波、第3波が続々と
到着し始めていた。
そこかしこで
銃撃の音が
聞こえる。
敵の増援が
来る気配もない。
奥へ。
奥へ。
奥へ。
我々は進んでいく。
信じられ
ないような
熱気だった。
制圧は恐らく
間近だろう。
通路の奥の
一部屋に着いた時だった。
ドアの向こうから
何やら言い争いを
しているような
声が聞こえた。
中国語だ。
なにを言い争って
いるのかもわからない。
「中に人がいる。
多分中国人だ」
「3,2,1で開けるぞ」
3、2、1
私は慎重に
ドアを開ける。
「動くな!!」
入った部屋には
二人の中国人が
いた。
突如入ってきた
我々に彼らは抵抗を
見せたが
直前まで言い争いを
していた為か激しい抵抗を
しなかった。
私は彼らの頭に向けて
引き金を引こうとした。
しかし、先ほどの部屋の
家族の写真が私の震える
指を止めた。
「お前達の仲間の1人を拘束した。
お前達は日本語を理解しているだろう?」
「諦めて投降しろ」
私は命の尊厳を
踏みにじりたくなかった。
捕虜に出来るなら
捕虜にするべきだ。
私達は別に人殺しを
したいわけではないのだ。
そう思った。
部屋に入っていた
仲間も同意して
彼らを
結束バンドで
拘束した。
両手は後ろ、親指もまとめて結束
腰回りを含め武器の類が
ないか確認する。
陸士を二人ほど見張りにつけ
私達は部屋内を見回る。
その部屋は
これまでの部屋とは
明らかに違っていた。
不気味に光る複数のモニター
簡易の通信端末、
壁には内外の地図に押しピン。
「管制室か…
ここは重要な場所だな」
紀伊3尉が呟いた。
「おい、動くな!!」
捕虜の1人が
銃口を突きつけられている
にも拘わらず
それを振りほどき
モニターに向かい
赤いマッシュルーム型のボタンを
顎で押した。
私は命の尊厳を
踏みにじりたくなかった。
だがそれは
甘えだった。
即座に殺すべき
だったのだ。
わかり合える
人間ではなく
敵だったのだから。
ボタンを押した途端
施設内の各箇所が
爆発を始めた。
それは
この施設の証拠を
隠滅する為だった。
容赦のない熱と爆風が
我々を巻き込んだ。
8月17日???? ???
7月だっただろうか
初夏の日差しが
強い中
私達の小隊は
休みの日に
河原でバーベキューを
していた。
結婚している者は
家族も連れてきており
陸士は私の子供と
遊んでくれていた
体育会系は皆
面倒見がいい。
私はそれを微笑ましく
見ていた。
肉と野菜の焼けた
食欲を誘う匂いが
していた。
私は肉を焼きながら
妻の方を見る。
何の気なしに
妻は微笑み、
「なに?」
と問い返した。
「いや、なにも」
と私は下を向きながら
微笑んでいた。
平和で平穏で
微笑ましい日常
私は多分その時
幸せを噛み締めて
いたのだと思う。
突然何もかもが
黒く染まってなくなって
いく。
さっきまで笑いながら
過去の自慢話をし
肉を頬張っていた
筑摩曹長も
子供と遊んで
くれていた陸士も
ああ、そうだった
彼らはもう
死んだのだった…
こんな日常は……
もう戻ってこないのだ。
何もかもが黒に
沈んでいく世界で
私は意識が上に昇っていくのを
感じていた。
8月17日 1330 施設周辺
「……聞こえますか!!」
「しっかりして下さい!!
長門3曹!!!」
紀伊3尉が
ボロボロの格好で
私に呼び掛けていた。
どうやら私は
木の側に寝かされている
ようだった。
腕に圧迫止血の
跡があった。
爆発が起こった後の
記憶がない。
今も仄かに
煙の臭いがしていた。
「…あの後
どうなりましたか?」
紀伊3尉は少し
考えた後に答えた。
「爆発の後
地下室が崩れた為
突入班のほとんどが
生き埋めになりました」
「どれ程、犠牲者が
出ているかも今の所は
わかりません」
「ただいま
旅団長の指揮の元
救助活動が
続いています」
「管制室が頑丈に
できていたおかげで
我々は助かりました」
「部屋の外で
警戒していたものは
助かりませんでした…」
「小隊からは
陸士5名が死亡
しました」
紀伊3尉の声は
絞り出すようだった。
その声を聞くだけで
心労が伝わってくる。
周りからは
慌ただしく
他の自衛隊員達が
動いていた。
私は爆破された
施設跡を見る。
それが彼らの
墓標となって
しまっていた。
「あああぁああああああ
ああああああああああぁああ
あぁあああぁああああ!!!」
それを理解すると
同時に私は叫び声を上げた。
あげる。
私は震えていた。
もし、私があの時
敵として殺していれば
そう思うと言葉を紡ぐ事が
出来ずただ叫ぶ事しか
出来なかった。
現場に
黒塗りの高級車が
来ていた。
その事が更なる最悪な事態へと
移行する事になるとは
その時、私は
気付いていなかった。
読んでいただいてありがとうございます!
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