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郭公?

 朝。

 あたしの目覚ましは、タピオカとその子どもたちの餌くれ攻撃だ。

 なぜか、毎朝ほぼきっかり5時半に起こしやがる。

 出勤的には6時過ぎに起きても充分なので、迷惑でもありーー正直嬉しくもある。

 普段どちらかというとそっけないタピオカが、一番デレるひとときだから。


 まず、ひんやり柔らかい肉球でほっぺをつつく。

 それで起きないと、あたしの顔や頭に自分の後頭部を擦り付けてミャアミャア鳴く。

 それでも起きずにいると、ざらざらした舌で顔を舐めてくる。

 これが、わりと本気で痛い。

 顔の皮膚を削ぎとられそうな気分になる。

 そして、最終手段だと言わんばかりに鼻をかじられる。

 

 だいたい、舐められたあたりで起きるのだが。


 これが子猫たちが活動的になってきてからは全員で総攻撃なので、至福のひとときである。

 おかーたんに続けとばかりに、2匹の子猫は見よう見まねであたしの顔に群がる。

 子猫の舌はまだタピオカほど痛くないので、なんならしばらくペロペロしていてもらいたいくらいだ。


 そしてーー今朝からは新戦力が加わった。


「ーー? え、痛っ?」

 一番最初の肉球攻撃のはずなのに、唇に痛みが走った。

 覚醒と同時に知覚する血の味。

 ペロリと唇を舌で探ると、何やら尖ったものがいくつか触る。

 

 あたしは目を開けた。

「わぁ!」

 物凄く至近距離に、フクの目があった。

 あたしの下唇に前足を置き、あたしの目を覗き込んでいる。

 猫と違って爪が引っ込められないのだろう、その前足の爪が唇に突き刺さり、浅く傷をつけていた。

 

 ちなみに周囲では、タピオカがおでこをペチペチ肉球パンチしていたり、子にゃんズが耳やら頬やらをペロペロしているわけで、なんかもう小人の国で捕らえられたガリバーの気分だ。

 とりあえず猫たちをそっと手で払いのけ、フクを両手で掴んだ。

 さらさらした、少し冷たい皮膚の感触。心臓がトクトクいっているのが伝わってくる。

「アンタは顔に乗るのは止めなさい。さもなくば毎日爪切りしちゃうぞ?」

 グッと睨み付ける。

 上下関係はっきりさせるのは大切だ。


 ーーたとえ、今タピオカからの扱いも「餌をくれる召し使い」の疑いがあるとしても。


「... つーか、実際そろそろ全員爪切りしなきゃかなぁ。」

 ひとりごちながら、きょとんと首を傾げるフクを傍らに下ろし、あたしはタピオカの餌を用意するのだった。





 夜。

 夕食や入浴を済ませて自室に戻ると、タピオカたちはベッドで寝ていた。

 帰宅してすぐ餌をあげておいたので、きっとお腹いっぱいで気持ちよく寝ていることだろう。

 ちなみに、タピオカは家の中全て活動範囲だが、子猫たちはまだあたしの自室しか知らない。

 他のお部屋デビューはいつがいいかな?

 階段を自分で上れそうになったらかな?

 などと思いながらすやすや眠る子どもたちを見ていると。


 むくり、と起き上がったのはフクだった。

 そして。

 おもむろに、小さな翼で挟むように、隣で寝ていたアズキを押し始めた。

 グイグイ、グイグイと、タピオカから引き離すように背中で押していきーーなんと、そのままベッド下へ突き落とす。


 こてん。


 とはいえ、子にゃんズは遊んでいて自滅で落ちることもあるので、ベッド下にはクッションが並べてある。

 落とされたアズキは寝ぼけ眼でキョロキョロと辺りを見回すと、慌てず騒がず一番高さのあるクッションによじ登り、身を臥せお尻を振って狙いを定めると、ぴょんと飛び上がった。

 マットレスの下の方に爪が引っ掛かり、そこからがしがしと上まで登っていく。

 ... うん、もう少しで階段も行けそうだね?


 そうして何事もなかったかのように、アズキはタピオカの元へ戻っていった。

 それをずっと見ていたフクも、何事もなかったかのようにタピオカの元へ戻る。

 それをずっと見ていたあたしはーー


 え? カッコウ? やっぱり托卵??

 

 一抹の不安を覚えた。




 翌日。

 猫達が寝付くと、あたしはつい気になって、スマホいじる横目で様子を見ていた。

 

 しばらくすると、やはりフクはむくりと起き上がり、背中でぐいぐいとアズキを押し始める。

 

 ただーー

 アズキは、くるんっと器用に身体をねじり、フクの背中から逃れた。

 フクは振り向いてアズキを眺めて小首を傾げ、再チャレンジを図る。


 ーーくるん。

「... ... 」

 のそのそ。

 ーーくるん。

「... ... 」

 のそのそ。

 ーーくるん。からの、ぺし。


 目を閉じたままのアズキが邪険に前足を振り抜き、ちょうど振り向いたフクの横面をはたく。


 不意打ちに目を潤ませるフクを置いて、寝ぼけたままのアズキは母の温もりを求めて寝床へ戻っていった。




 更にその翌日。

 無謀にもフクはダイズを標的に選んだ。

 ーー無謀だった。

 ダイズは、子にゃんズの中で一番体格がいいのである。

 

 フクかいくら背中で押しても、鼻先で押しても、ダイズはほとんど動かせなかった。


 以上。どんまい。


 まぁ... アレだよね。

 カッコウはさ、托卵されたヒナは確か、本当のヒナたちより早く孵化して、卵のうちに巣から落とすとかだよね。

 卵生じゃない生物相手に、しかも1ヶ月も遅れて出てきておいて... 作戦ミス否めないね。



 後日もしばらくこっそり観察したりもしたが、フクが諦めたようなのであたしも心置きなく安眠できるようになった。

 朝は早いけどね。



 

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