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【file1】act.昇進

以前、1話が長すぎて読みにくいといわれたので、今回は少し短めに仕立てております。

file1はこの調子でいくと5話くらいに完結すると思います。

「たく社長、見てくださいこれ。ものすごい数値ですよ。」




佐藤が見せている簡易端末に表示されているバーは、すでにカンストしている。




「なんじゃこりゃ。この機械の故障じゃないの?」




これは、今までどんな人間も出したことのない異常な数値だ。


端末をいじくりまわして、故障の原因がどこにあるか確認する。



「そんなことしたら本当に壊れますよ!」




そう言って端末を社長から乱暴に取り上げる。



まあどちらかというと今の衝撃のほうが、故障に直結しそうだが…。








ここの河本社長は、日本でも指折りの会社『BD』のトップをしているのだが、割とポンコツだ。


人をまとめることはもちろん、頭もいいが、機械音痴すぎるのだ。


これまでに何度も機械を壊していて、被害総額を計算するとキリがない。






佐藤は、その一千万近くする機械を見つめる。


「なんというか、これはまだ憶測なんですが……おそらく、本当に奴は……」






そして興味を隠せないという風な目をして一言呟いた。




「天才。」















ブス耐性。



いわば毒への耐性と同じだ。


それも猛毒。


高濃度でくらえばものの数秒で神経系がやられてしまう。


これはよく殺人で使われる青酸カリなどとは比べ物にならないほど、強力なものだ。






これは絶対に努力で手に入るものではない。


花が水でなきゃ育たないように、動物が酸素を吸うように、DNAに組み込まれた『絶対』は覆すことができないはずだ。




それをいともたやすくひっくり返すなど、とても人間の所業ではない。





「たぶん、そろそろ出勤して来ると思いますよ。」






面白いことになってきたな。



そういって社長はニヤリと笑った。















「おはようございまーす。」



いつもは気だるい朝が今朝はそうでも無い。



それもそのはず昨晩はよく眠れなかった。



瞼を閉じると、白昼の恐ろしい光景が浮かび上がってとても休めそうにないのだ。




あまり眠れない日こそ、次の日は頭がスッキリしている。

気持ち悪いことこの上ない。




今日は、昨日の大惨事もあってか全部隊でのパトロールは中止になった。


そして、昨日の戦闘に関わり心の傷を負ったであろう大抵の隊員は、業務休止命令を会社から出されていた為、エントランスホールは閑散としていた。




普通、業務停止と言うと給料が貰えなくて喚く職員だらけだろうが、なんとこの場合、有給が適用されるという。





やっぱ就職するべきはホワイト企業……なのだが、帰り際佐藤に「明日もいつも通りよろしく」と釘を刺されていいた上原は、どうすればいいかも分からず、結局本部へと足を運んでいた。








「あっ、来たんだ。」



高橋が受付の席で、気だるげに肘をついてニヤニヤとしている。



「もしかして来なくてよかった?それなら帰るわ!」


「ダメだよ。大輝のこと待っててここにいたんだから。」




あまりの休みの欲しさに、出口に素早く近寄った上原に反応した自動ドアは、間髪入れずに放たれた高橋の言葉に無慈悲に閉まっていった。




「……期待させんなよ尚樹……」



他の隊員と違う不利な処遇で同じ給与だなんて冗談じゃないと、肩を落としあからさまに嫌そうな顔をし無言で訴える。



「まあまあ、悪い話じゃないから。」



高橋は椅子からよっこいしょと立ち上がると、そのままスタスタと歩いていった。


どうやら着いてこいということらしい。

その後ろを早足で着いていく。



「じゃあいい話?」



悪いことじゃないことと言われても、イマイチ納得出来ない。


この場合いい話でないと困る。


なにせ、言わせてもらえばこれは上司命令のパワハラだ。


訴えれば勝てる。


「んー、たぶん?」



高橋は人によりけりだなーと、うんうん唸っている。



「たぶんってなんだよ……」



そう言うと高橋が思い出したように言った。



「昨日テストやったでしょ。あれの結果が返されるだけだよ。」



「なに、わざわざそれで呼び出されたの?地獄かよ……。」



テスト結果が休みの日に返されるなんてどんなブラック学校でもそんな事ないぞと、学生時代の事を思い出し驚愕する。



ワクワクするテスト返しなんて小学生までなんだよと、心の中で叫んだ。



どうやら高橋はテスト返しをいいことだと思っているようで、渾身の答えに苦言を呈されたことに少し、しょんぼりとしている。




「ほんと申し訳ないけど…。まあ、喜ぶとは思うからさ、我慢してよ。明日は休みでしょ?」


「わかったよ…」


そこまで言う高橋を無下にはできず、しぶしぶ頷く。












そして、そんな話をしている内に、エントランスホールからほんの数分歩いたところにある部屋に通された。



「なにこれやば…。」


高橋が扉を開けるまではいつもの小綺麗な会議室かと思っていた。


が、開けると実際は、ぐちゃぐちゃなリビングのような見た目で、誰かが住んでいると言われても何ら違和感ない見た目だ。


あまりにも想像と違いすぎて、思わず失礼なことを言ってしまった。





だが、事実こんなとこでテスト返しをする必要があるかと言われれば答えはNOだ。


どういう意図があるのかは分からないが、それ以外にも何かあるのは明白だろう。



ふと、横を見ると何か戸惑った様子の高橋はそわそわとしている。

予定外の事態なのか、無線でぼそぼそ何かを言っている。


「ちょっとだけここで待ってて!」




案の定出て行ってしまった高橋のおかげで、上原は謎の部屋に取り残されてしまった。


最近知らない場所に連れてかれて緊張する場面が多い気がする。

気のせいだろうか。


それにしても、金バッジの職員ともなるとこんなに忙しいのかと、不憫でならない。





暇なので辺りを物色すると、様々な毛色のものが置いてあって、雰囲気的にもごちゃっとしている。



ps4に竹刀、ゲーミングPCと猫……。



でかいテレビには、洗ってあるのかないのかわからないタオルが掛けてある。


ソファは本来5人は座れそうなのにも関わらず、今は衣類が散乱して人がひとり座れるかどうかの隙間しかない。




「きったねー……。」





上原は自分の身体こそ綺麗にはしないが、部屋は綺麗にしないと気が済まない。



少しの時間でも居座るところが派手に汚れていると、作業効率が下がるしイライラするしで、片付けたくなってしまうのだ。



ちょっとどうにかするかと、手始めにソファに大量にある衣類を手に取る……が取れない。



何かに引っかかってるのだろうか。



その何かを探すべく服の山に手を突っ込む。







「ぎゃぁぁぁぁあああ!!!!!!」





瞬間、山の中から金切り声が聞こえた。


「う、うわっなに!」




あまりに突然の事で狼狽えてしまい、咄嗟に腕を引いた。



しかし、何者かに引っ張られて動かない。


手の先からはどす黒い殺意を感じて、身震いする。



この部屋には化け物がいたのか?


掴む力がどんどん増していき、爪が食い込んでいく。



「すいませんでした……殺さないで……。」



上原は、その何かわからないものに対して切に懇願する。


そろそろ腕から血が出そうだ。







「………なんだお前……。武井が寝てるの邪魔するなよ……」






謝罪から、少し間を空けて、そう鬱蒼と呟いた何かがゆっくりと顔を出した。





「………まじかよ…」





予想に反してそこに居たのは化け物でもなんでもなく、DⅢの隊員の1人だった。



化け猫、通称ファントムキャット。


昨日見たままの憧れの人物が目の前にいた。




だが戦闘服姿ではなく、髪は一つも整えられておらず、デザインこそ可愛いがヨレヨレのパジャマを着ている。


今も、眠気眼で時折うたたねをしている。


起こしてごめんなさいという気持ちと裏腹に、憧れとは何かと、少し絶望する。




「あ!いた!」





そこに、いつの間にか帰ってきたらしい高橋がやってきて言う。



「…武井〜…なんで寝てるんだよ……」



酷く呆れた様子の高橋を見るに、ファントムキャット……武井を起こしたのは間違いではなかったのだと悟る。


それにしたってなんでこんな所に埋もれていたのだろうか。



寝るならちゃんと布団で寝ればいいのに。


そもそも業務時間内に寝ること自体、間違ってるのではないのか。




「もー、あの二人もさっさと連れてきてよ!」



あの二人はきっとほかのDⅢのことだろう。


若干キレ気味でDⅢ相手に接する高橋は、やっぱりすごい。



「めんどくさいし!後でにしてよ!」


それに、さすが上官。


部下の説教などものともせず、適当な口調であしらう。




高橋の慌てた様子から大事な用だというのは明白であるのに、拒否するDⅢ隊員の武井は、見た目も相まって、さながら駄々をこねる子供だ。


「…はーわかったよ。1時間後に来るからちゃんと準備しておいてね……」


そして高橋は、説得するのに諦めた父親のようだ…………。



「おーけー、おーけー」



また洗濯物の山に潜り込んで、手だけを出してOKサインをだす。


そしてその腕も吸い込まれていくと、やがて少しの音もしなくなった。


「そういっていつもやらないんだから…」


高橋は魂が抜けたように『武井の寝床山』をみてつぶやいた。


建物内を探し回ったのか、うっすらと汗が見える。


これではあまりにかわいそうすぎる。



「なおき…」




「……………」




「……………」




「あの……尚樹…………」



明らかに落ち込んでいる高橋は、首をもたげてどんよりとしたオーラを隠そうともしない。



呆れているようだが、それより何かを嫌がっているようにも見える。




「ごめん……予定が変わったから次、こっち着いてきて……」



その雰囲気のまま施設内を徘徊するように案内し始める。


壁にもたれながらずるずる歩き、何度もため息をつく。


あまりにその辛そうな様子さすがに心配になる。




「だ、大丈夫?平気?」



覗き込み、様子を伺う。


「大丈夫なわけない……」




「なにかあるの?」


上原がそう聞くと黙って少し歩いた後、ぽつりぽつりと話し始めた。





「…DⅢの仕事が計画通りに行かないと僕が責任を取らなきゃいけないんだ……」







「それで…………」



その場に立ちどまり、恐怖からか顔が真っ青に染まる。涙が今にも零れ落ちそうな形相だ。



「……それで?」



高橋のただならぬ状態に固唾を飲む。







「社長にご馳走を……」









「……は?」


あまりに想定外な単語が飛び出して思わず声が出てしまう。


「社長は優しいんだ、仕事を全うできなかった僕に「君は悪くないよ」ってたくさんご飯を振舞ってくれるんだけど……」








「全部チーズとマヨネーズまみれで……」


手を大きく振りかぶってどれくらいの量かかっているかを示す。

高橋の目からは既に涙がぽろぽろと零れ出していた。



「えぇ……」



助けてと言わんばかりの可哀想な高橋に同情したいと思いつつも、謎すぎるパワハラに困惑してしまう。



「最初はよかったんだけど、どんどん身体が拒否していって……。仕事でミスすると社長室で食べさせてくれるんだけど、断れないし…。ひろき……たすけて。僕このままじゃ死んじゃう。」






「ごめん。無理……。それは仕方ない。」


上司のすることを雑魚社員がどうやって助けるんだと、申し訳ないながら丁重に断る。


「……。」



高橋は少し押し黙った後に、「僕を助けようとしなかったことを後悔させてやる……」と、呪いのように呟いた。


あんなにいつも楽観的な高橋がこんな状態になるなんてと、逆に少し興味がわく。


学生の頃、テストで赤点を取ろうが怒られようが、どんな酷いことがあってもあまり落ち込まなかったあのなおきが、今では助ける手立てを提案しなかった上原を穴が開くほど睨んでいる。








「あっ!そういや、あの人って……本当にDⅢなんだよね……?」



あまりにどす黒い雰囲気の高橋に本当に呪われそうで、とっさに話をすり替える。


「あー…、あれはいつもの事だよ……。」


その言葉に驚愕する。


いつもこんな感じで仕事の約束をすっぽかすのか。社会人としていかがなものか。


「DⅢって仕事はできるんだけど、全員なんかだらしないんだよね」


高橋のいうことに、先ほどの光景を思い出して頷く。


「それ大丈夫なの……?」


「まあ強制して辞められても困るし、あんまり強いこと言えないから……。」


「へぇー……。」


上司を部下が管理しているなんて、会社としてどうなんだと疑問に思う。


それより、高橋が担う責任が大きすぎて可哀想だ。


上原の前で今までよくあんなに気丈に振舞っていたなと感心する。




「ここからは僕じゃないから、行ってらっしゃい……」


暗い話を延々としていたら目的地に着いたようで、高橋にそっと背中を押される。


振り向くととぼとぼと歩く、弱弱しい背中があった。

















「こ、こんにちは……」


中に入るとそこはなのもないただの通路のようで、その先にはもうひとつ扉が見える。


そして、廊下のど真ん中に昨日の少し高圧的な試験監督が立っていた。


なんだか近寄るのに気が引けて、ゆっくりと近づく。




「…これからは、一緒に仕事することになるんだから緊張しないでよ。」




あきれたような表情で、ため息をつかれる。空気が少しぴりついて、更にびくついてしまう。


「佐藤湖衣、よろしく。」


そう言って手を差し出してくる。


少し怖いが、案外普通の人なのかもと安心する。

今のところファーストコンタクトはこの人が一番まともだ。



「よ、よろしくお願いします。」



握手を交わし挨拶をおえると、すかさず佐藤は歩き出した。



「私の仕事は基本、ここから先のラボを管理すること。結構すごい事してるの。」



まあ、世界でも数十しかいない金バッチの職員なのだから、すごいのは当たり前の話だ。



「ちょっと待ってね。」



佐藤は、廊下の最奥にある扉のバルブのようなノブに手をかけ、ゆっくりと回し始めた。


それは、巨大な金庫のように厳重で、そこになにか大変なものがあるということが確かにうかがえる。





そして重々しく低い音を立てて、向こう側が映し出された。



「ようこそ。私の『懲罰ラボ』に」


「ちょ、ちょうばつ」


前言撤回。やっぱりこの職場にまともな人はいないようだ。


「何引いてんの。れきっとした仕事なんだけど」



佐藤がそういうも、目の前の光景が異常すぎて開いた口が塞がらない。




吹き抜けの真ん中には透き通った赤の液体で満たされた、巨大な容器が設置されていてなんとも禍々しい。


それは時折ブクブクと泡立っている。


泡が上がるのが遅いのを見るからに、粘性が高い液体なのだろう。


そのことが、さらに妙な雰囲気を湧き立てる。


天井は異様なほど高く、そのせいかはわからないが、上のほうに行くにつれて深く濁って見えた。




そしてあたり一面には鉄格子が張り巡らされており、その一つ一つにブスが収監されている。


まるで刑務所だ。


それよりもっとひどい気もするが…。




「うえ…。」




ちらりと独房のようなそれに目をやる。


ブスは金属の椅子に全身を拘束されていて、頭からは棒が何本も突き出ている。


いや、この場合突き刺さっているというのが正解か。




この棒が俗に言うエネルギー抽出用の電極棒のようで、棒の先につながる線はどれも地下に潜っている。




並ぶブスはどれも、ときたまびくつくだけで暴れることなく落ち着いていた。




生け捕りにしたブスを、どこかに輸送してエネルギーを採っていることは知っていたが、実際に目にしたのは初めてで、言いようのない気分の悪さに襲われる。



こんな風にして精錬されたエネルギーが各家庭に供給されているのは、とても薄気味悪い。


なんだか、偽装表示の詐欺まがいなことをしているようだ。




「まあ仕事内容は、見てもらうのが早いよね。」



そういうと、佐藤がスーツの懐から短い棒を取り出して、カチりとボタンを押した。


すると、1メートルほどの長さに伸びた。


それは、黒光りしていて、なんだか蛇のようにぐでぐでとしなっている。





「例えば、これを」


と、佐藤がそれをたまたまそばにいたブスに向けて


「こう!」







振りかぶった。




「な、急にどうしたんすか!」





突然のことに慌てふためいて、衝動的に佐藤の手をつかむ。




少し前から思っていたことだが、ここの職員は説明が少なすぎる。


これは本人たちにとっては説明するまでもないことなのかもしれないが、上原は驚きの連続で頭が痛くなってきた。



近くによってみて気づいた。


手に持っている黒い『ソレ』の正体は鞭だ。


おそらく乗馬用のものだろう。




一度の打撃で薄く抉れた肉片が先のほうにこびりついていて、赤黒く染まっている。




こんなことをやっているのに何がおかしいのかわからないという顔で、上原の手をそっとどけ、鞭を手渡してきた。





「まあ、これでブス共の悪感情を煽ってエネルギーの産出を促すってこと。やってみる?」




微笑んでそういう佐藤は、さながら魔女のようだと、身の毛がよだつ。


悪気なく行われている行為だと思うと、さらに恐怖だ。




「いや、いいです…。」



初めて機嫌がいい時を見て期待に応えたい反面、どうしてもそんな気になれず、顔を背け手を押し返す。



「ノリ悪いなぁ。」



少しむくれて、再びブスののほうを向きなおした。



「まあいいや」







そういって佐藤は、先ほどに引き続きブスをはたき続けた。





何十回と打たれるブスの体は皮膚が根こそぎ取られ、血濡れていないところが見つからない。


始終、キューキューと超音波のような声で抵抗する。




顔を上げて口を大きく開け叫ぶその咥内には、舌と歯が存在していなくて、それが真っ黒な大穴に見えて気持ち悪い。





惨事を防ぐために施された処置だろうが、直視することができずに目を背けた。






「ねえ、なんで見れないの。こんなすごいものなかなか見られないよ。」


「なっ!」




それが佐藤の目についたようで、鞭を持ってないほうの手で顎をつかまれブスのほうに突き出すようにして無理やり見せられる。



相変わらず止まらない鞭は、とうとうブスの骨まであらわにさせた。



佐藤は、ただ無表情のままでその瞳の奥には何か『ヤバいモノ』を感じる。



そしてそれに、言いようのない既視感も感じた。



「ここにいるブスは、9割が何かしらで人を襲った愚図どもだから、今更感傷に浸る必要ないよ。殺人者への裁きと一緒。いちいちそんなこと考えてたらこれから仕事できないんだから、今の内に慣れといちゃって。こいつらにも私たちにも、常識は通用しないの。」




話が終わると同時に、最後、大きく振りかぶってブスの顔面を抉る。


ブスは硬直して唸り、一粒涙をこぼしたきり何度叩いてもそれ以上の反応は何もなかった。



払うようにやっと解放してもらった顎は、掴まれた際にどうも変な方向にねじれたようでズキズキと痛む。


「こういうのは死なない程度にやるのがプロね。こいつがまた治ったときにまたこの房に来ましょう。」


こんなことを仕事と割り切ってやる佐藤は、本当にプロだ。



「これも洗わなきゃ。」




大事そうに酷く汚れた鞭をさする。



落ち着いてよく見るとなんだか端のほうはギザギザしているし、表面は粗いやすりみたいにざらざらしている。

こんなのでぶっ叩いたら肉が刮げるわけだ、と納得する。



「…まあ、それで、これから上原に託す仕事は2つ。」



佐藤が、鞭の取っ手に付いているもう一つのボタンを押すと、今度は逆に勢いよく収納されていく。


その際、肉片や血を飛び散らせて、床を汚した。


少しかかってしまい気分が悪くる。


「は、はい。」



先刻まであんなに残酷なことをしていたのにもかかわらず、切り替えが早い人だ。


少しばかり引いてしまう。




それにしたって、こんなラボの仕事をしなければいけないだなんて冗談じゃない。


もし少しでも嫌だと思ったら、遠慮なく辞退しようと心に固く誓う。




「まず一つは、ブスをこれまで通りちゃんと引っとらえてくる事。」



あなたはエリート隊員なんだから結果出さないと、総務の偉い人に伝えて給料下げるからね。



そう、悪魔のように念押しされる。



エリートでもないのにエリート扱いをしそれを利用して馬車馬のように働かせる…。





もしかして僕はこの人にとって、ブスと同じ扱いをするレベルなのだろうか…。


湖衣さんならあり得ると思い、なんだかとてつもなく心配になってきた。



「そして次が重要ね。こっちに来て。」



数々のブスの間を通り抜けて引き連れられる。


ブスの顔を横目で見て回ると、全員多種多様に醜いことがわかる。


顔のパーツ配置が普通と少し違うだけでこんなにも虐げられるなんて。


今自分が置かれている環境に感謝しなければと感じた。










次に連れてこられた部屋もまた、厳重な扉で管理されている。


暗証キーを入力すると開くタイプのようだ。



佐藤が何桁かわからないほど長い暗証番号を入力すると、自動で開いた。





「ここが、前頭葉に変換棒を差し込む手術をする場所。あなたにはその手術をしている間、ここで見張りをしてもらいたいの。」




「見張り、ですか。」


見張りというと、何もせずに突っ立っているイメージだ。


「手術の時は術師は業務に専念しなければならないし、万が一ブスが目を覚ました時に暴れられて、最悪変換器でも奪われたら終わりでしょ。そこを抑圧するのが上原の役目。まあ本当に万が一だけどね。」




「分かりました。」


もう目の前にいて動くかわからないブスの抑圧なんて、いつどんなブスが出てくるかわからないパトロールにより楽な仕事だと、快く了承する。


思ったより楽な仕事を任されたのに少し安堵した。




「うん。頼りにしてる。」



佐藤にそう言われてなんだか急にやる気が出てくる。




上原はものすごくちょろかった…。




「でも……、なんで急に僕がそんな任務、任されるようになったんですか?」



そんな施設の存続にかかわるようなことを、ただの一隊員の上原が任されていいとは思えない。



「近頃のブスはね、ちょっと学んできたの。自分の顔が人間にとって凶器ってこと、隊員がその毒をゴーグルで防いでることも。」


流石元人間よね。ドーピングでとっくのとうに知性なんてトんじゃってると思ってた。



そういって、頭の上で指をくるくるとしぐさをする。


そのコミカルな動きに似合わず、表情はいたって真剣そうだ。




「…手術中に『外されちゃう』事故が過去に何回かあったの。そうなったらもう駄目。死亡者が出るのは確実。そこで上原の能力ね。」



「え、僕の?」




まるで切り札かとでもいうように、ビシッと指をさされる。


それに能力だなんて、自分にそんな高尚なものが備わっているとは到底思えない。



「ブス耐性が異様に高いあなたは、これが適任ね。幸いほかの能力も人より秀でている。」



「耐性が高い…」



耐性だとかよくわからないが、自分にしかできない仕事ならばやろうと、必要とされていることにこたえたいという気持ちが高まる。


そして、なんにせよこんな仕事で出世街道走れるなら、喜んで引き受けるはずだ。





「まあ頑張ってくれるとみんな助かるから。あと…」




そういって、佐藤はスーツのいくつかのポケットの中をしばしまさぐる。




「手出して」




佐藤が深く握ったこぶしを勢いよく前に差し出す。



なんだかそれがパンチに見えて少し後退ってしまう。




「ほら!早く」




「は、はい!」



少し怒鳴られ、慌ててこぶしの下に両手を構えた。



佐藤が手を開くと、それはキラキラと光って落ちた。







「これは……」






「見ての通り。」



急かされて受け取った手の中には、金色の『DⅣ』の見た目をしたバッジが光っていた。







「は?」


思考が停止する。






「は、じゃない。次もやる事あるんだから、それ早くつけて。行くよ。」


「え、え。」





頭が真っ白で、いわれるがまま何を聞き返すこともできず、以前のように首根っこをつかまれ、そのまま来た道を帰っていった。


次回の更新は12月19日です。



誤字脱字言葉のミスや、提案があったら今後のためにも教えてくださると助かります。

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