茸の串焼きと茸スープ
法国へ出発する当日。幸いなことに天気はいい。旅日和だ。
魔道具は4ヶ月先の分まで納品した。知り合いへの挨拶も昨日で済んだ。食料諸々も改造馬車に積み込んだっと。
準備は完了。忘れ物はなし。家の戸締りも抜かりなし。
「じゃあ、出発しようか」
「うむ」
「わふ」
改造馬車に乗り込む。ハンドルを握るのはロゼッタだ。魔力を供給された動力部が低く唸りを上げる。
「安全運転でお願いします」
「うむ。気を付けよう」
都市の石畳の上を、低速で馬車が進む。飛竜の革を加工した特別性のタイヤは中々に静かだ。
人通りの少ない家の近くから大通りへと出ると、かなり注目されることになった。道行く人が立ち止まって凝視してくる。
「目立ってるねえ」
「それはそうだろう。馬に牽かれずに走る馬車は、私もこれ以外には見たことが無い」
まあ、作るのに金掛かり過ぎるからな。開発と維持費を考えれば、馬に牽いてもらった方が賢明だ。
普通の人では魔力も足りないだろうし。
注目を集めながら通りを走り、都市の外へと出た。
都市を出ると、そこには鮮やかな黄色が一面に広がっていた。たっぷりと実った麦たちだ。視界いっぱいに見える黄金が、風に揺れているのは圧巻の光景だ。
農家の人達が、収穫を迎えた麦を刈り取っているのが小さく見える。
氷龍による冷害の影響はなさそうだ。この光景は、確かにオレが守れたものでもあるのだろう。少なくともこの都市では、空腹に絶望する人は出ないはずだ。
オレだけの力ではないけれど、その事実が少し誇らしい。
「ははっ」
「む?どうかしたのか?」
「いや、なんでも。ただ、綺麗な景色だなあって」
「うむ。そうだな。私も綺麗な景色だと思う。風にそよぐ麦は美しいものだ」
道の両側に広がる麦畑を眺めながら、ゆっくりと馬車を走らせた。
無人の道を、改造馬車が颯爽と走る。ずっと真っすぐな道だ。すれ違う馬車がないのであれば、速度を抑える必要もない。
「このペースで魔力は大丈夫?」
「うむ。このくらいなら問題はない」
改造馬車の速度を上げたロゼッタは、少し楽しそうな表情をしている。問題ないならいいけど。オレも一応ロゼッタの魔力を気にしておこう。
改造馬車の速度は馬に牽いてもらうより速い。このまま行けば、予定より早く法国の聖都へ着けそうだ。到着が早くて困ることはない。時間が余ったら、お米を探しに出掛けよう。
「ロゼッタ、お茶飲む?」
「もらおう」
水筒に入れたお茶をロゼッタに手渡す。もう少ししたら、運転交代しようかな。
夕方。街道から少し外れ、夕陽で赤く照らされた草原に馬車を泊める。近くに小さな森が見える場所だ。今日はここまでだな。
通常の野営と違い、天幕を張る必要もないので楽だ。2人だけなら馬車の中で余裕で寝ることができる。
さて、野営と食事の準備をしよう。
「ロゼッタは薪拾いと、焚火の準備よろしく。余裕があったら水も出しておいて」
「うむ。任された」
「タローは留守番な。異常があったら吠えてくれ」
「わふ」
「よし。じゃあ、よろしく」
オレも森に入る。少し食材の調達だ。っと、その前に虫除けの魔道具起動しないとな。
馬車に設置された魔道具を起動する。虫だけを弾く弱い防壁が展開された。
「これでよし」
野営で一番嫌なのは虫だ。毒持ちもたまにいるしな。あと、料理に飛び込んできたら、種を絶滅させたくなる。許されねえぞ。
「タロー。留守番任せたぞ」
「わふ!」
タローに声を掛けて森へ向かう。季節は秋だ。それで森に入るとなれば、最大の狙いは茸だろう。
薄闇の森の中。見つけた茸を籠に放り込んでいく。茸は種類が多く、毒茸との見分けは慣れていても難しいものだが、幸いオレには毒見の魔道具がある。判別は容易だ。
毒の判定が出た茸は無視し、安全なものだけを採取していく。名前も知らない茸が多い。毒が無いのは分かっているが、美味しいだろうか。美味しいといいな。
「まあ、こんなもんかな」
1食分には十分だろう。あまり採り過ぎるのもよくない。野営地に戻るとしよう。
「茸、キノコ~っと。ああ~。炊き込みご飯とかいいな」
秋だしな。
「茸と秋鮭とか?」
いいな。美味そう。茸と鮭の旨味が染みたご飯とか、超美味しいだろうな。おこげが出来れば最高。秋の味をじっくり噛み締めたい。
炊き込みご飯単体でいくらでも食べれるな。おかずいらないね。
「法国行ったら稲生えてたりしないかな~」
あるといいなあ~。
野営地に戻ると、ロゼッタが鍋に水を出していた。隣では焚火が赤々と燃えている。そして、その火に照らされて、首の折れた野鳥が横たわっていた。
狩ってきたのかな?
「ただいまー」
「おかえり。薪集めのついでに、野鳥を狩ってきた。夕食に使ってくれ」
そうらしい。
「了解。別の鍋にも水出してくれる?」
「うむ。分かった」
野鳥の処理にもお湯が必要だ。ロゼッタの魔力は……申告通り大丈夫そうだ。水も火もロゼッタに適性はないが、野営に使うくらいなら問題なく出せる。
お湯沸かす間に、オレは茸をざっと洗おう。鍋から水をもらい、ざぶざぶと表面の汚れや土を落としていく。
茸を洗い終わる頃にお湯も沸いた。野鳥の処理をしようか。
茹でて羽をむしり、野鳥をバラしていく。最近解体をしていなかったせいか、背中がざわざわする。この野鳥より、今のオレの方が鳥肌かもしれない。
「……」
いつの間にか、横にタローが来ていた。野鳥を見つめて尻尾を振っている。つぶらな目に食欲が浮かんでいるのが見える。
「……内臓食べる?」
「わふ!」
即答。タローは内臓好きだしな。野鳥から引き抜いた内臓を渡してやる。うん。いい食べっぷりだ。狼だな。
さあ、野鳥の処理は終わった。料理に取り掛かろう。
まずはスープだな。暗くなってきたし、手早く済ませよう。沸かした鍋に、細切りにした玉ねぎと腸詰、小さいサイズの茸を全て投入。以上。
豪快に煮込んでいく。あとは味を見つつ、塩で加減しよう。
大型の茸と野鳥の肉には串を打ち、焚火で焼いていく。肉の皮部分から染み出た油が弾ける音がいい。ジューッという音が食欲をそそる。
火が通り、水分が抜けしわしわになってきた茸に、軽く醤油を振りかける。こぼれた醤油が焚火に落ち、焦げた醤油の匂いが爆発した。腹減ったな。
「ロゼッタ。買ってきたパン出しといてー」
「分かった」
野鳥の肉には塩と香草を振りかける。これでよし。あとはスープの味付けだけだな。
茸と肉の串を皿に移し、スープに塩を足して完成。夕食にしよう。
折り畳み式のテーブルの上に料理が並ぶ。焚火だけでは暗いので、ロゼッタが魔術で光を出してくれた。柔らかな白い光が周囲を照らしている。
テーブルの上にはパンに漬物、茸と野鳥の串焼き、茸スープが並べられている。美味しそうだ。
「「いただきます」」
「わふ」
まずは、茸の串焼きから食べてみる。まだ湯気が立って熱そうだ。火傷に注意して齧り付く。
「あふっ!」
熱っ!噛んだ瞬間に茸のエキスが口の中に広がった。普通に熱い。ほふほふと冷ましながら食べていく。
美味い。肉厚な茸は歯応えが良く。噛むたびに茸の旨味と少し焦げた醤油の風味が広がってくる。鼻を抜ける醤油の香りが楽しい。ああ、美味しいなあ。
次はスープに手を伸ばす。様々な種類の茸が入った豪快なスープだ。入れた腸詰の油が、表面で煌めいている。
器ごと持ち上げて、そのままスープを一口。
「うおお~!」
キノコ~!すげえ。旨味の暴力。溶けだした出汁がこれでもかと旨味成分を主張してくる。美味い。栄養が体に染みていきそうな感覚がする。
具材も口にする。煮込まれた茸たちは、それぞれ異なる食感で飽きさせない。
「うん。いいねえ。秋って感じ」
「うむ!美味しいな。茸尽くしとは贅沢だ」
「わふ」
野鳥の串焼きも美味しい。焼き加減が良かった。皮がパリッとしていい感じだ。口内に溢れる油がたまらない。
旅先でも美味しい食事を摂れるのはいいことだ。明日の移動も頑張ろう。
夕食は満足だったが、1つだけ不満がある。醤油で味付けした茸の串焼きは、やっぱりパンには合わなかった。お米があれば完璧だっただろう。
オレは早くお米を見つけることを改めて決意した。




