エルフに異世界人は関係ないらしいようです。
「話をしようか。」
ことん。
お腹も満たされた頃――
マチルダが紅茶を持ってくると、席に着いた。
どうやらトットールだけでなく、マチルダも話に参加するようだ。
「はなち……?」
トットールの言葉に首を傾げる。
「あぁ。まりかが寝てたから、話が進まなかっただろ?」
トットールはチラリと白夜を見る。
「白夜と話はできたが……まだ何かあるようだしな。」
何か……?
そう言えば……
(なんか大事なことを忘れているような……)
私は少し視線を上にずらすと、三日前のことを必死に思い出す。
――スキル『我が家』から出る前。
『毎日の返済額はサイコロで出た目の数で決めさせていただきます。もし、返済できない時は……』
(……返済できない時は……)
『その分加算されます。』
無機質な桜の声が頭の中に木霊した。
(やばい……あれから三日って経ってるって……)
(毎日加算されるって言ってたよね)
(どうしよう……でもサイコロの目は振ってないからローンが増えてるのは金貨十二枚分?)
(でも、あのシステム……そんな優しいかな……)
(いや、優しさは持ち合わせてない気がする……)
一人で脳内会議を繰り返していると、マチルダが優しく肩を叩いた。
「トット。まりかはまだ起きたばかりなのよ?もう少し落ち着いてからにしなさい。」
「……まちりゅだ……」
エルフの男性だからか、女装をしていても全く違和感がない。寧ろ、ボロボロの私の大人の姿より数倍女性らしい。
マチルダに泣きつくと、マチルダは心地いいリズムで私の頭を撫でた。
(む……硬い胸板は仕方ない)
忙しなく動いていた脳内が少しづつ落ち着きを取り戻す。
「まりか。いい?私はまりかの味方よ?もちろん……トットールもね。だから安心してちょうだい。」
それはよくわかっている。
見ず知らずの子供を、森からわざわざ運んでくれたのだ。
そして、起きない私を見捨てることなく介抱してくれた。
それだけで、信頼に値することはよくわかっている。
(でも……)
一つだけ引っかかることがあった。
緊張からか、喉の奥がひりつく。
(もしそうだって言われたら……どうしよう)
白夜を見ても、介入する気はないと言う姿勢は変わらずだ。
私はマチルダの持ってきてくれた紅茶を一口飲むと、ほんの少しだけ間を置いた。
三人の間に、紅茶の香りが立ち上る。
それから、ゆっくり口を開いた。
「わたちが……いしぇかいじんだかりゃ?」
「「……」」
三人の間に沈黙が走る。
(この時間……怖いわね……)
私は手をぎゅっと強く握った。
マイナスな言葉ばかりが、頭の中をぐるぐると駆け回る。
(早く何か言ってよ……)
そう思って目をつぶると――
「ぷっ……」
「くっ……」
隣から、堪えきれないような笑い声が漏れた。
「ふふふふ」
「くっ…ははははは」
段々と大きくなる笑い声に、思わず目をパチパチと動かすと、トットールとマチルダを交互に見た。
(えっ……どういうこと!?)
マチルダは目に溜まった涙を拭いながら、「あ~おかしい~」と笑い、トットールはお腹を抱えて笑っている。
そして、ひとしきり笑い終えると、マチルダが口を開いた。
「ごめんなさいね。あなたがそんなこと気にしてると思ってもいなかったのよ。」
「トットから聞いてるでしょ?私たちエルフは長命種なの。それもあってなかなか子供ができないわ。だから、子供が大好きなのよ。」
強く握っていた手の上に手を重ねると、一つ一つ指を開いた。
「あぁ、こんなに爪を食い込ませて……でもそれだけ不安だったのね。」
「まちりゅだ……」
トットールは私を落ち着かせるようにポンポンと頭を叩く。
「それに、俺たちに異世界人はあまり関係がない。」
……関係がない!?
「どゆこと?」
「まぁ、俺たちは自分で対処ができるということだ。それに聖女や勇者を信じてはいない。」
信じてない……?
「そうねぇ~……聖女や勇者は名前ばかりで魔王を倒してくれるわけじゃないしぃ~」
(ま、魔王!?)
次から次に出てくる新しい情報に頭がついて行かない。
しかし、二人はそんなこと気にしてもいないのか、そのまま話を続ける。
「そうだな。あいつらはフランシア国から出てこないからな……」
フランシア国って……
異世界召喚された国のことだろうか。
二人の話を少しでも理解しようと頑張ってると、見かねた白夜が声を出した。
「おい、お前たち。まりかが困っている。もう少し分かりやすく伝えてやれ。」
「あらぁ~びゃくちゃんも話に混ざりたいのねぇ~」
「びゃくちゃんと言うなと言ってるだろうが!我の名は白夜だぞ!!」
二人のやり取りを見る限り、マチルダも白夜と話をしたことがあるらしい。
(いつの間に仲良くなったのよ……)
「それよりも、まりかを見ろ!死んだ魚のような目をしているぞ!」
白夜の言葉に、二人がこちらを向いた。
(ま、眩しい…イケメン~……)
イケメン好きも言うわけではないが……ここまで整った顔の人をあまり見たことの無い私にとっては目に毒だ。
「す、すまない。まりか」
「あらあら、ごめんなさいねぇ~……」
それから、二人は私にもわかるようにこの世界について教えてくれた。
「この世界はね、色々な種族が住んでいるの。その中でも一番弱いのがフランシア国。人種族が住む国よ。他の国については割愛するわね。」
どうやら、フランシア国というのが大きく関係しているようだ。
「この世界はね、数百年に一度魔災というのが発生するの。」
「原因は未だに解明されていない……が、魔災が起きると魔物が活性化し、魔王が誕生すると言われている。」
「まおー?」
とは、あのゲームでよく見たものだろうか…
「そうだ。フランシア国は種族差別が激しくてな。そのせいで他国からは浮いている。そして、異世界人を召喚することで、結界を強めることができるらしいんだ。」
(へぇ~……それで異世界召喚ねぇ~……いい迷惑だわ)
しかも、らしいって……
本当かどうか分からないということだろう。
(あの二人にそんな力があるようには見えないけどね……)
私は一緒に召喚された浮気男と浮気女を思い浮かべた。
「だから、私たちにとって異世界人はどうでもいいのよ。まりかは巻き込まれただけの子ども。それ以外でもそれ以下でもないわ。」
「……」
「安心してちょうだい。私たちは絶対あなたを裏切らないから。」
「ほんとに……?」
「あぁ…なんなら契約しても構わない。」
契約……が何かわからないけど、そんなにいいことではないことは何となくわかる。
(それだけの覚悟で一緒にいてくれているということよね。)
胸の奥に、じんわりと何かが広がる。
「わか…った……」
私は、小さく息を吐いた。
(この二人のことは信じよう……)
私はそれから、子供になってしまったこと以外のスキルについて、二人に話した。
話し終えた頃には日が沈み始めていた。




