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第22話 図ったのは誰か?悪は誰か?

今回は友情発生、事件発生です。

 昼休み。クラスメイトに捕まるより先に、俺はF組のドアから身近な生徒一人を呼んでみた。

「すまん、そこの人。ちょっと頼みを聞いてくれ」

 たまたま近くにいたのは、黒髪をおさげにした女子生徒だった。彼女が呼ばれたと分かった途端、同クラス内の女子はにわかに騒めきたった。

(あー、そうだった。悪い意味で有名だったね、俺)

 教会で解呪してもらった後、教室に入ると同級生たちから自分の事が話題になっていると聞かされた。曰く、

『地面を割るとんでもない男が転校してきた』

『ここ最近の騒動も、そいつが原因らしい』

『でもちょっとイケメンでかっこいいかも』

と、最後はどうでもいいとして散々な言われようである。正直、これ以上目立ちたくはなかったのだが……。まぁ人の噂も七十五日というし、いずれ風化するだろう。流石に俺の命が危ない与太話は全力で誤解を解かなければならないけど。ま、それはともかく。

「すまないね、アンタ。簡単な頼みを聞いてくれるか?」

「な、何でしょうか……」不安そうな目で、女生徒が尋ねる。

「ヴァン……ヴァン・フォーエンハイムを呼んでくれないか。もしこの場に居ないなら、何処に行ってるのか予想だけでもいいから教えてくれ」

「あ、えと、その……ヴァン君は今いません。それに、何処に行ったのかもさっぱり……」

「そうか。すまんかった」お辞儀をする。ここに居ないとなれば、自分で探すべきか?今日の午後の授業はクラス別の実験を行うとの話だったので、出来る事なら昼休み中に話をしたかったのだが……。

「おや?君は……」

 背後から、聞きおぼえのある声。どうやら目的の人物が戻ってきたらしい。

「ヴァン。ちょっとお前に話がある。ここじゃなんだし、場所を移すぞ」

「それは、皆に聞かれたくない話みたいだね」

「そう思ってもらっても構わない。と言う事で、しばしこいつを借りてくぜ」他の生徒たちに言って、俺は彼を連れて移動した。その際に、一部女子から理由不明の歓声が挙がったが、一体あれは何だったんだろう?



「……ここならいいだろ」

 俺達の教室が存在する北館には、四ヶ所の階段がある。そのうち3つは屋上へ上がる階段だが、残りの一つは四階の先に行けないという構造であった。といっても、実際はロープでふさがれているだけだったので現に俺達二人は簡単に侵入できたのだが。

「やれやれ。こんな場所で、何を話すつもりだい?」ヴァンは少々困ったような表情で、俺に聞いてきた。

「大丈夫だ。聞きたいことは三つだけだから」

「それなら問題なさそうだね」

「当たり前だ。んじゃまず一つ目。昨日、俺がぶっ倒れてから下校するまでのお前の行動を簡潔に話してくれ」

「そうだなぁ、僕はまず君を保健室まで連れていくために、救急担架を持ってきた。それに乗せて運んだのは君のクラスメイトだけどね。その後は授業中の休み時間を利用して、一度見舞いに来たんだ。覚えてないかい?」

 ないな。ぐっすり眠ってたぜ。

「後は普通に授業後は着替えて、ホームルーム後は課外活動に参加したよ。下校は18時20分ぐらいかな」

「それを証明できる人物は?」

「居ないね。生憎、友人は殆ど居ないんだ」少なくとも外面は真面目で、しかも経歴も圧倒的な彼に本当に友人が居ないってことはないだろう。とにかく、呪詛をかけられたと考えられるのは見舞い時か。

「次に二つ目。ユア・リヴィエラ・エルシアを知ってるか?」

「ユア?あぁ、あの子か。何故君が彼女の事を?」

 な、なんかちょっと馴れ馴れしいぞ。

「俺の事はどうでもいい。……彼女とお前はどんな関係だった?」

「別に浮ついた話は無いさ。同年代の友人として、ごく一時期だけ近しい関係であっただけだよ」

 口ではそう言っているが、本心はどうなんだろうか。

「何故決闘の時にお前は現れなかった?いや、何故お前がツェギンと戦わなかった?」

 知り合いだったのなら、俺より先にヤツに目を付けられてもおかしくなかったはずだ。それこそぽっと出のアンノウンたる俺よりも相応しかったんじゃないのか?

「……それは答えられない」ヴァンの顔から、笑みが消える。

「なんでだよ」

「残念だけど、今の僕には彼女に会う資格はないんだ」

「資格って……」

 何があったのかは……語ってくれないか。

「もしかしたら、君にもいずれ話せるかもしれない。ただ、それは今すぐには不可能だ」

「……だったら、何でここに通い続けてるんだ。どっかでバッタリ会っちまうかもしれないだろ」

 そう、不可解だ。もし彼がユアに会いたくないのなら、どこか別の場所にでも越していればいい。ヴァン程の技量なら、どこでだってやっていけるはずだろうに。

 あくまで彼自身の答えを待つ。少しの逡巡を経て、目の前の少年は言葉を紡いだ。

「見守る……かな」

「見守る?」

「そう。何も逃げ続けるだけが正解じゃない。彼女がこうやって過ごしている、それが少しでも長く続くなら……僕はそれで十分なのかもしれない」

「本当にそれでいいのか?」

「……え?」

 なんだか自分でも何を言いたいのかうまくまとまってない気がする。それでも、たまにはおせっかいを焼きたくなる時があるのだ。こいつに一体どんな過去があったのかは知らないけど、それでもすぐ近くにいるのに言葉を交わせないんじゃ

「俺も、まだまだ若いけどな。この若さは今だけだぜ?大人しくしているんじゃ人生の半分は損してるだろ」

 まぁ、俺は逆にいろいろやらかして損してしまったクチだが。

「だからさ、資格だとかなんだとかうじうじ考えんじゃねーよ。やるからにはエンジン全力全開だ」

 何もとことんまで羽目を外せって訳じゃない、重要なのは勝負する心だ。

「面白い事を言うんだね、君は。出会ってすぐの人間に対して」

「一刻も早く治したい欠点だがな」

 そして、世話焼きは数少ない俺の長所でもある。

「……分かったよ、アイノ君。少しだけ勇気が出たような気がする。ありがとう」

「アインでいいぜ、これからよろしくって意味も込めて」

「……あぁ!分かったよ、アイン君」

 なんだか妙な友情が生まれた所で、腕時計を見るともう昼休みも終わりそうだった。

「それじゃあ、またいずれ……」階段を下りてくヴァンに、俺は声をかける

「待て、最後の質問だ。……昨日の組手、楽しかったか?」

 彼は、振り向かず答えた。

「あぁ、久しぶりに」



(ああああああああああああ!!)

 午前中の実験は、初歩的な回復用ポーションの生成法という何だか面白そうな代物だった。というのに、俺は絶賛後悔中である。おかげでほら、試験管を持つ手が凄く震えてる!

「やっぱり昨日の疲れが残ってるんじゃないか?」

「お昼ご飯食べてないですもんね……」

「いや、分かるよ!私には分かる!あれは悩み多き年頃特有の症状だね!」

 同じ班の孝・文乃・リーゼロッテから好き放題言われるも、そんなのは知った事か。

 俺の最大の失敗、それは。

(何故ライバルを増やしたぁああああ!?)

 世話焼きが悪い方向に向かっちゃったよ!折角ヴァンが一歩引いてくれてるのに何で焚き付けちゃうの、バカなの死ぬの!?

(……待てよ?こんなに悩むって事は、俺はもしかして、ユアの事を……)

 ま、まさかぁ。使用人の分際で屋敷のお嬢様に手を出したら、どうなるか分かったもんじゃないさ。シフさんもマイさんも、それとなく釘を刺しているのは目に見えていた。うん、そう。俺は普通、俺は正常。うんうん。

「……アイノ君?湯気出てるよー?」顔を覗き込んできたリーゼロッテに驚き、体が揺れる。同時に、右手で保持していた試験官を落っことしそうになった。

「あ、危ない危ない」一瞬で冷静さを取り戻し、改めて試験管内の液体を三角フラスコに注ぐ。ちなみにこの液体は数種類の薬草をすりつぶし、純水で延ばしたものだ。これを弱火で一定時間熱すれば、簡単な回復用ポーションの出来上がりである。

 ただ、やってる事は理科実験と殆ど変わらない。だから、授業前に教科書の関連するページをぺらぺらと読んでいれば楽に理解できる類の物だ。問題は、割れ物や火の扱いに細心の注意を払いつつ、求めていたものと同じ効果を持つものを作り出すことである。

「よし、後は熱するだけだな」

 こうして、午後の授業は無事に終わる事が出来た。

 なお、俺達の班が作ったポーションは何故か他の班のそれよりも僅かに効果が高かったとの事。担当教師によると加熱時間を長くとった事で成分濃度が高まったからという話だが、誰がそんなことしたんだろうね?



 放課後の掃除を終え、昼から夕方へと差し掛かる頃。俺は孝達三人によって課外活動の見学に連れていかれた。

 この学園の課外活動-現実世界で言うところのクラブみたいなものだ-は、膨大な種類が存在している。各種球技や体操、水泳などの体育会系部活動と、芸術・知識教養などを磨く文化系部活動と言った分かり易いものもあるが、中には一目見ただけじゃ訳の分からないようなクラブもあった。

「いくらなんでも『魔導真理研究部』とか『幻魔礼賛会』とか新参には理解しがたい領域は勘弁してくれよ……」

「いやぁ、念のためにね?」

 けたけた笑うリーゼロッテの横で、俺はため息をついた。ちなみに前者では読めない文字の羅列で構成された小冊子を押し付けられ(後で聞いた話によると、そこの部長が考案した暗号らしい)、後者では小一時間もの珍問答に終始した。一番の疑問は両部活ともそれなりに部員が居た事なのだが、どうやら分かる奴には分かるらしい。

「というか、皆の部活を教えてくれよ。参考にするから」

 なるべく顔見知りが居た方がやりやすいし。

「私?私は見てのとおり、新聞部!」えっへんと胸を張るリーゼロッテ。見てのとおりって、別に彼女はそこまで新聞部っぽい要素はないように思えるが……。

「俺は古典玩具研究会だ」んで、孝は妙な名前の部活をやってんだな。

「偉くゆるそうな部活だな」

「かもな。でも、頭を使うものもあるぜ。それに俺自身の魔法もそれらに関連するものだからな、普段から触れておくに越したことはねぇ」見た目に合わず堅実なヤツである。それにしても、古典玩具と彼の魔法との関連性とは何なんだろうか。

「あ、わ、私は……家庭科部、です……」文乃はまだ俺に慣れていないようだが、それでも教えてくれた。成程、家庭科部か。小動物のようで可愛らしい彼女には似合っているかもしれない。

 しかし、どれもあまりそそられんな……。やっぱり、体を動かす方が性に合ってるのかもしれん。校舎内を歩いていると、一枚の張り紙を見つけた。

「何々……『君も生徒会に入らないか?現在庶務募集中』か」

 何でわざわざ集める必要があるんだろう。俺が前居た学校じゃ、まとめて選挙で決めていたぞ。

「あー、それはね……うちの会長さんがね」リーゼロッテが話してきた。こいつ、何でも知ってんだな。

「かえ……生徒会長がどうしたんだ?」また楓と言いかけてしまったので、慌てて訂正する。いや、こいつら含めたクラスの連中には粗方の事情を話してある(無論、ヤバそうな所は隠してだが。それでもこの三人は知ってるけど)が、名前で呼ぶと冷やかされそうだからな……特にリーゼロッテに。

「元から庶務に関しては立候補制だったんだけど、何でも会長さんが『根性が足りない!』って元居た庶務の子一人を追い出しちゃったのよ……」

「うわ、それ結構な問題じゃねぇか?」

「まぁ、追い出された子も割と不純な動機でやってたみたいなんだけどね。内申に有利だし、それに……」

「それに?」

「ほら、会長さんを筆頭に綺麗な子がいっぱいいるでしょ?だから、お近づきになりたくて引き受けたんだって。でも、庶務に限らず生徒会って物凄いハードだからつい会長さんの前で弱音を吐いちゃったんだよね。そして……」

 それが楓にとって癪に障ったって事か。確かに今目の前にあるチラシには見目麗しい少女たちがずらりと並んでいる(一応、端の方に男子生徒もいるみたいだが)。それだけ見れば、ある意味で役得かもしれないが……。あいつの事だ、変な生真面目さが悪い方向に出たんだろう。まぁ、勝手にしろって話だな。



 その後も何個か部活見学を続けたが、今一つ面白いと思えるものはなかった。おまけにこれまでの騒動のせいで、どうやら一部生徒には俺が危険人物であると認識されているようだ。あながち間違ってもいないのが困る(他人事)。

「今日はありがとな、三人とも」

「いいっていいって。でも大丈夫?自分で探すって……」

「皆自分の部活休んで俺に付き合ってくれたんだろ?だったら、長々と続ける訳にもいかねぇだろ。じゃあな」

 そう言って、俺は三人と別れた。

 さて、時刻は午後5時30分。いつもならユアと一緒に帰るんだが、朝にあまりにも酷い対応をしてしまった関係で顔を合わせ辛い。ここはもう少し校内を探索するか。

「?あの影は……」

 部室棟から東館に渡る廊下を、見覚えのある人物が通って行った。そうだ、昨日の体育教師……名前はそう、エディ・バルガンだ。

「暇だしつけてみるか」

彼の後ろを気付かれないように歩く。所々にある柱や木の陰に身を隠し、汗をぬぐう。数分後、彼は小さな倉庫の前で立ち止まった。

「一体何を……?」東館の隣にある菜園、その更に奥の人気のない場所。教師エディはカギを取り出し、倉庫の扉を開けた。そのまま内部へ進んでいく男。そして、扉が閉められた。

 どうしても気になり、倉庫の窓まで低姿勢で接近する。片目だけ見える格好で、内部を覗き見る。

 そこには。

 裸にされた女子生徒数人を前に、悦に入るエディの姿があった。

「な……!」なんて酷い真似を!今すぐにでも止めてやりたかったが、俺自身が見ただけで他の有力な証拠もないまま訴えるのは危険だ。生徒と教師という立場を利用され、揉み消される。いや、それだけじゃない。俺に関わった人たちも、あの男に目を付けられるかもしれない。

 かと言って、いきなり殴り倒したら更に不味い。下手すりゃ退学処分だ。ならば……。

(殺して、口封じをするか?)

 って、それだけは絶対に駄目だ。前の一件で不殺の誓いを破ってしまったものの、簡単にそんな選択肢はとりたくない。ましてや決闘という形をとっていない以上、もし殺したのが俺だとバレたら退学はおろかこの世界でもまごうことなき犯罪者になってしまう。

「……今は、『耐える』しかないのか」

 屈辱である。自分に力があっても、それを振るえる正当性を欠いていれば意味が無いのだ。せめて、被害者の悲しみを刻み付けて……。

(待てよ?何故、彼女たちは……)

 彼女たちはどうしてこの倉庫に集められたのだろう。こんな人気のない場所、いくら教師の命令だとしても多少の警戒心をもつはずだ。それが何故……。

「もう少し、内部の状況が分かれば……そうか!」

 俺は左の人差し指に填めたリングを見て閃く。これは、先の決闘で得た魔道具。周囲の人間に幻覚を見せる事が出来る優れものだ。これを使い、自身を周りの木々に溶け込ませれば……!

 カモフラージュを施して、改めて内部を確認する。広さとしては6畳ほど、高さは最大2.3メートルって所か。扉は奥に1ヶ所のみ、窓もここ以外にないみたいだ。木製の棚が二つ、段ボール箱などが載せられている。そして、囚われの女生徒たちだが……。

「……目がおかしい!」

 本来あるべき光彩を失い、揃って虚ろな瞳をしていた。もしや、何らかの魔法によって操られているのか?いや、それよりも……。

「あ、あの瞳は……!!」

 そう、それは俺にとって絶対に許されないものだった。姉ちゃんが殺された時も、実希が汚された時も、俺は彼女らの瞳があのように濁ってしまっていたことを知っていた。それは、無力さの証明。それは、野蛮な力の発露。思い出したくもない、しかし決して忘れたくもない悲劇が自分の胸をよぎる。

(……大丈夫だ。怒りはただ、今は胸の奥にしまっておく)

 考えろ、考えるんだ。暴力的解決以外で彼女達を救い出す方法を。もし一人じゃ厳しいなら、仲間を頼れ。必要以上に孤独であろうとするな。

 俺への試練が、再び襲い掛かった。

さぁ、阿陰は教師の悪辣な罠にどう立ち向かうのか?そして、ヴァンの真の目的とは?


次回、『静かなるスクールウォーズ』。お楽しみに!

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