第21話 俺の頭の中のどうしようもないなんたらかんたら
短いペースの投稿です。主人公が悩みます。
「………………」
見知らぬ、天井。白いベッドに白い部屋。どうやらあの授業でぶっ倒れた俺は、ここへ緊急搬送されたらしい。
「あ、起きました?」
おや、誰だろう。なんか聞いたことのある声だ。
「無事でよかったです、アイン」
「んだよ、ユアか……」
いかんせん頭をぶつけて倒れたから、後頭部が変にズキズキする。
「聞きましたよ、授業に飛び入り参加して挙句昏倒したって。一体何をやってるんですか?」
「お恥ずかしい限りで……」
それにしても、何でその事をお前が知ってるんだよ。
「会長さんが話してくれました。その会長さんは体育の先生から聞いたらしいんですが……」とユアが話しているところへ、別の人物が割り込んできた。
「まさか、あんたがあそこまでアホだったとはね」
「かえ……飛田さん……」
何となく名前で呼ぶのを憚られたので、言い直す。まぁ、アホと言われても仕方がないな。
「初日から勝手に授業に入って、しかも校庭を叩き割ったなんて信じられないわ。おかげであんた、完全に色モノ扱いよ」
「前例は……ないみたいだな」
「安心なさい。あってもなくても、あんたの評価が変わる訳ではないから」
ですよねー。いかんな、少々熱くなりすぎた。
「クラスメイトの皆さんや担任の先生も来ていますよ。一度に入れないくらい」
「クラス総出で笑いに来てるのか……」
「自業自得ね」
とりあえず意識は戻ったし、ある程度の疲労は取れた。いつまでもここに居続ける訳にはいかないし、保健室の利用シートに退出の署名を済ませておくか。ふと時計を見やる。
「げっ、もう放課後じゃねーか」
よく見りゃベッドの横にカバンと上着も乗っかっている。誰かが持ってきてくれたのか。
「つくづく申し訳ねぇ」
上着を羽織りカバンをもって部屋の外に出る。
『お疲れ様ー!』
な、なんだ。皆律儀に待ちやがって。
「ったく、心配かけさせんなよ」
「でも、無事に戻ってきてよかったです」
「ねぇ、どうだった!?戦ってみてどうだった!?」
やたらぎゅうぎゅうと迫ってくる学びの友たちに、俺は若干顔を引きつらせながら答える。
「あ、あぁ。何とか回復したぜ。っても、実質俺の負けだしな……ん?お前らどうした?」
北野田兄妹とリーゼロッテを含め、何故か急に俺に対して刺々しい視線が……。あれだ、まさに先ほどヴァンが浴びていたようなアレ。いや、正しく訂正すれば浴びせているのは男子が殆どか。その理由は……。
「何アホ面してんのよ……じゃなかった。皆、一体どうしたのかしら?」
「あ、アインのお友達の方々ですね。ありがとうございます」
あー……。何となくワケが掴めた。
「何かスマン」
『この裏切り者ぉぉぉぉぉお!!』
こら、病み上がりに対して頭を小突くなっ!首を絞めるな腕を引っ張るんじゃねぇ!
「いやぁ~会長だけじゃなかったとは、隅に置けないね!」
「流石にこれは擁護しきれねぇぜ……」
「え、えっと……」
『野郎ども、新入りをシメろー!!』
うん、明日からの俺の学生生活、絶対ややこしくなるな……。
「うう、酷い目に遭った……」
あの後何とか事情を話し、一応は納得してもらった。というか、俺の後ろに立つ女二人が寧ろ説得を長引かせていた感がある。基本キョトンとしていたかと思ったら、最悪のタイミングで急に顔を赤らめたりしてそのたびに襲い掛かってくる野郎を鎮めるという世界一不毛なルーチンワークを何度繰り返したか。その癖誤解を解くのに実際ほとんど役に立たなかったならまだしも、火に油を注ぐ結果となってしまうこともしばしばあった。最終的には唯一冷静に話を聞いてくれていた担任の女性教諭が、いち早く事態の収拾に手伝ってくれた。ありがとう、確か……イリス……何だったっけ?
(イリス・シモンズです……)
何処からともなくそんな声が聞こえた気がした。そうだったな、ありがとうイリス先生。
ともあれ、楓やクラスメイト達と別れた俺は、ユアと二人で帰り道の馬車に乗っていた。
「あまり無理しないで下さいね。アインが倒れたって聞いて、凄く心配したんですから」
それにしても、彼女の制服は妙に刺激的である。本人曰く暑いからと言って脱いだマントの下は、ちょうどこっちのブレザー制服から上着を除いたようなデザインだった。だから、ボディラインが余すところなくくっきりと浮かび上がり、特に胸元は少々窮屈そうにシャツの生地が張っている。おまけに馬車の振動でそれが不規則に揺れ動き、正直言って目のやり場に困る。
「……ちょっと、聞いてるんですか!?」
「あぁ、聞いてる聞いてる」ぬおっ、近い!至近距離での破壊力は流石だぜ、なんて情けない言葉を飲み込み、表向きの返事を投げる。このままでは自分の気もどうにかなりそうなので、話題を逸らす。
「それにしても、あいつは凄かったなぁ」
「あいつ?」
「確かヴァン・フォーリアって奴だ。ユア、もしかして知ってるか?」
俺は彼女に話を振ってみる。ただ、コースが違うからそこまで大した情報は得られないかもしれない。
「ヴァン・フォーリア……待ってください、あのヴァン君と戦ったんですか!?」
「何か知ってるのか」
「知ってるも何も、物凄い有名人ですよ!今年の入試で一位合格、過去の経歴も超一流の天才騎士です」
へー、そんなに有名だったとはな。なんかちょっと、ヴァンに嫉妬してしまうな。クラスメイトの気持ちがほんの少しだけ分かった気がする。
「過去の経歴って、どんなんだ?」
「ええと、有名なところでは……帝国中級魔術検定1級、特異魔術行使検定2級、魔導剣術1級、第35期少年騎士団名誉団員……」
つらつらと並べられても、やはり理解が出来なかった。取り敢えず、少なくともこの世界ではそろばん検定3級よりは重視されそうだな。
「偉く熱心だな。何か関係があるのか」
「あ、まぁ、そうですね……」
む、妙に歯切れが悪い。
「どうしてあいつの事をそこまで知っているんだ?」
「そ、それは……」
決してユアを追い詰めるつもりは無い。ただ、興味があっただけだ。だから、大抵の事では驚かない自信があった。
「……初恋の人だったんです」
「………………」
それでも、彼女の返答は俺の予想よりも更に深く、鋭く俺の意識を貫いた。
学校が始まってからは、平日の店のバイトは亜理素にやってもらう事になった。その代わり、俺は早く帰ってきた時と土日・休日を担当する事になっている。
「お帰りなさい、二人とも」
本日もお見舞いに行っていたマイさんだが、ユア以上に不安なのにもかかわらず俺達を笑顔で迎えてくれた。
「ただいま、お母さん。私も料理手伝おうか?」
「大丈夫よ、アリスちゃんが全部終わらせちゃったから」
ダイニングの奥のキッチンを除くと、エプロン姿の亜理素がこちらに会釈してきた。こいつが住み込みとして俺以上に有能なのは確かであった。今日のように料理もこなせて、掃除や店番もそつなくこなす。流石に力仕事は不得手だが、それを差し引いても立派なもんだ。
「そうか……ありがとうね、アリスちゃん」
「別に、気にしてないよ」
うーむ、微妙にかみ合ってないな。まだ馴染むには時間がかかるか。
「ところで、アイン君は先にご飯食べる?」
「いえ、少しだけ気になる事があるので……ちょっと一人にしてください」
俺は自分でも理解できない、謎の感情を抱いていた。ただ、これを他人に話すのはあまり気が進まなかった。
「そう?それじゃあ、もう少し待っておくわ」
マイさんのご好意に感謝しつつ、自分の部屋に上がる。どさっと荷物を置いて、ベッドに横たわる。
「……はぁ。何やってんだろう」
まるでガキみたいだ。ちょっと気になる女の子に初恋の人がいる事も、そいつが自分とは比べ物にならない程優秀な事も、おまけに自分自身がそいつとの実力差を身をもって思い知らされた事も、決して特別な事じゃない。そんな些細な事で悩んで、一人でクサクサするなんて幼稚にもほどがある。
(なのに、なんでこうモヤモヤするんだろうか)
明日、ヴァンにも聞いてみようか。丁度疑問は尽きないんだ、危ない橋はいくらでも渡ってやる。
(でも、もしあいつが……)
まさかとも思うし、自分がこんな感情を抱く権利はないのかもしれない。それでも……。
「俺は、嫌なのか?」
結論を出せないまま、疲労からか俺は眠りに落ちてしまった。
「アイン……ごめんなさい。私は本当に好きな人と一緒になりたいの」
「待ってくれ、ユア!そいつは……」
「すまないね、アイノ君。彼女は貰っていくよ」
「ヴァン……お前は……!」
「さようなら……アイン。今まで楽しかった……」
「……うわあああああああっ!!」
嫌な夢を見た。寝汗が全身に纏わりついて、非常に気持ち悪い。せめて顔だけでも洗おうと思って目をこすると、その手に水滴がついていた。
「……くそっ!何だよ、一体何だって言うんだよ……」
何故だ、何故涙を流していたのだ。どうせ俺が元の世界へ帰るまでの関係でしかないんじゃなかったのか、彼女とは。それなのに、どうしてここまで入れ込む必要があるというのだ。出会ってからまだ一ヶ月も経っていないというのに、何故?
「………………」全身が気怠く、重い。腕時計を見る。現在3時20分。
「寝よう……」
しかし、この後朝に至るまで、俺は一睡もできなかった。
早朝。鳥の鳴き声が心地よく耳に届き、ほんの少しだけ爽やかさを感じさせる。昨日の曇り空から一転、本日は晴天なり、日当たり良好。
「ふぁああああ……」一つ大きなあくびをかまして、服を……しまった、あのまま寝落ちしたせいで凄く汗臭い!どうしようかと悩んでいたら、何時の間にか床に大小二つの紙袋が置かれているのに気が付く。
大きい方の中身を確認すると、それは注文していた制服だった。何たる幸運か、これで今日は何とかなりそうである。
制服一式を着てみる。やはり、おろしたてというのは気持ちがいいものだ。これで俺のモヤモヤも晴れてくれれば最高だったのだが……。いかんいかん、まだ不確定の事項に気を取られてはならない。
「よし、下に降りるか」もう一つの紙袋に入っていた教科書一式から本日必要なものだけをカバンに入れ、朝食を食べに行く。
「お、おはようございます」と、そんな俺の後ろからパジャマ姿のユアが挨拶してきた。首だけ振り返って「おはよ」とだけ返しておく。何をやってるんだろうか、別に彼女は関係ないだろう。そう言い聞かせても、何故かそっけない返答が口から出てしまった。
「早く着替えろよ」駄目だ、最低だ。ユアは俺を気遣ってくれているのに、昨日の帰りの馬車からずっと俺はつまらない感情に支配されている。
あの時の彼女の告白は、ある意味で俺にこの世界に転生して以来の大大大ダメージをたたき出した。しかも状態異常:沈黙と混乱のオマケつきだ。しかもゲームと違って、この状態異常は一睡しても回復してくれない。
「あ……は、はい……」そして、必然的バッドコミュニケーション。折角の弁明のチャンスを、俺はふいにしてしまった。あぁ、悪循環。
「……じゃあ、先にご飯食べてくから」冷めた印象を与えてしまいそうな言葉を残して、俺は階段を下った。こうなったら、腹に思う存分料理を収めたい。やけ食いが体に悪いという話など知った事かというくらいに。
「おはよう。よく眠れたかい?」昨日に引き続き、キッチンに立つ亜理素から皮肉を投げかけられる。
「おかげさまで、最悪の目覚めだったよ」
「だろうね。一度、君の部屋を覗いたよ」
「どんな醜い寝姿だった?」
俺が自嘲気味に笑うと、亜理素はその表情に真剣味を含ませつつ語った。
「はっきりと言おう。今の君は、呪われている」
ハァ?呪いだと?
「そうだ。しかも、相当な効力を持つものだ」
「……お前の話を信じたとして、誰がそんな真似を?」
「恨みを買う理由なんて、本人の知らぬところで生み出されている場合もあるだろうけどね。恐らく、今回の場合はそうではないだろう」
「……どうでもいいが、なんでそんな事が分かるんだよ。お前の魔法は電気を操作する事だったはずだろ?」
「ある魔道具を使えば、誰でも簡単に呪いを識別する事が出来るさ。ただ、解呪にはやはり専門家の知識が必要だね」
「斡旋してくれ……る訳ないか。仕方ない、学校終わりに教会にでも行ってみるよ」
昔っから、呪いを解くのは聖職者って決まっているからな。問題はどれだけお布施すりゃいいのかって話だが……。
「それが良いだろうね。ただ、もう一つやっておくべきことがある」
「何だよ、それは」
「犯人を見つけ出す事だ」
今度は犯人と言い出したか。ますます陰謀論っぽくなってきたな。
「これほどの呪いは、少なくとも一度は接点を持ったことのある人物によって行われたと考えるべきだろう。昨日までに出会った人々の中で、特に怪しいと思った人物は居ないかい?」
怪しい、ねぇ。既に殺害したツェギンは除いて、考えられるのは数人程。何度か痛い目に遭わせているチンピラコンビ、ジャイアント・オークを倒した後に語り掛けて来た謎の男、俺を含む多数の人間をこの世界に召喚するなど、あからさまに謎の多い学園長。そして……。
「……あいつか」
「どうやら、心当たりがあるみたいだね」
いや、まだ早計だろう。いくら何でも、出会ってすぐに呪いをかけるような奴だろうか。確かに何を考えているのか分からないし、単純に可能かどうかで言えば決して不可能ではないだろう。だが、仮にも同年代の初めて知った人間を相手に、呪いをかけられるほど非情だったのか……。
「……一度、調べる必要がありそうだな」
「ボクも手伝うよ。これで少しは借りが返せそうだしね」
亜理素の姿が、ほんの少しだけ頼もしく見えた。
テーブルに並べられたのは、昨日の夕飯の残りである。この世界に着て驚いたことの一つは、冷蔵庫が実用化されている事だった。それも、電気式である。曰く、最近のインフラ整備で出来たらしい。正直、電気供給が行き届いているなら家庭レベルの水道システムも整備されてしかるべきだとは思うが、まぁ色々あるんだろう。それはともかく、中から冷えたおかずを取り出して温める。普通は火属性の魔法石を使うらしいのだが、俺は面倒くさいので手で皿に触れて直接温める事にしている。当然、熱エネルギーの操作で両手を高熱化しているのだが、それを見ていた亜理素からは「人間電子レンジ」などという不名誉な渾名を付けられた。どうでもいいが、どっちかっていうとオーブントースターだぞ、これ。
「何を長々とモノローグで語っているんだ?」
当の亜理素に突っ込まれ、バツが悪そうに目を逸らす。一心不乱に飯を掻き込み、「御馳走様」と言ってカバンを引っ掴む。と、彼女に弁当箱を手渡された。
「あり合わせを詰めたものだけど……腹が減っては戦が出来ぬというだろ?」
「戦って……ま、ありがとな」
弁当をカバンにしまい、頭をポンポンと撫でてやる。すると、亜理素は不服そうに頬を膨らませた。
「ボクは子どもじゃないんだ。そんな真似はやめてくれ」
「じゃあ大人扱いしろってのか?ピーマンも食えん癖に」
「むぅ」相変わらず、こいつが時折見せる子どもっぽさは微笑ましいものがある。そう、このスレたように見える少女は、実はピーマンが苦手という大して致命的でもない弱点をお持ちである。
「第一ピーマンの分の栄養は、他の食材で補っている。何の問題はない」
「ンなこと言って好き嫌いを克服しようとしないから胸が大きくならねぇんだぞ」
ゴスッ。
脇腹に ボディブローが 突き刺さる 痛さ耐えきれず うずくまる俺(作:藍野阿陰)
「何をしやがる……」
「五月蠅い!このムッツリスケベ!おっぱい星人!!」
「ひ、酷い言い種だな……」おお、ズキズキと来てる。こいつ、呪い状態の俺に何たる仕打ちを……!
そのまま不機嫌になられても困るので、頑張ってフォローしてみる。
「まぁ何だ、俺はその……お前みたいのも嫌いじゃないぜ?」
どうだ?この一言で少しでも機嫌が直ってくれれば……!
「……っ!?」
あ、あれ?何故か顔がみるみる真っ赤に……もしや、失敗か!?と思った次の瞬間。
「出てけーっ!!」
亜理素の絶叫が響き渡り、俺はそそくさと退散する羽目になった。ううむ、齢16の若造たる俺には女子の心が今一つ分からぬようだった……。
逃げるように家を出て、学園行きの馬車を待つ。10分後にやってきたそれに乗り込み、流れゆく街を眺めつつ考え込む。
(まずやるべきことは、解呪だな)
確か学園内にも小さな教会があったはずだ。始業までの間にそこに赴き、呪いをどうにかしてもらう事にしようか。その後は空き時間を利用してヴァンを呼び出し、問い質す。
(本当に、あいつがやったのか……?)
しかし、未だにその点が気がかりだった。どこか納得がいかない。もしかして、別の人間が俺にそう思い込ませるよう仕向けているんじゃないのか?あるいは、実はヴァンは誰かに脅されていて、仕方なく俺に呪いをかけたのでは……?
「悩んでいても仕方ないな」
どうせ大した理由じゃないんだろう。例えばあいつじゃない他の誰かが、新入りへの「かわいがり」としてお遊びで行ったとか、もしくは俺自身がどこかで呪いのアイテムを拾ってしまったとか、そんなんだ。きっとそうに違いない。
そう、この時の俺はそう思っていたんだ。
しかし、そんな楽観的予想が最悪の形で外れてしまう事を知る者は誰一人としていなかった……。
今回から後書きも使う事にしました。ただし偶に忘れます。
次回は調査と進展にパートの大半を割きます。




