武器は齧れない
新天地に来てから早1ヶ月(確か)。
精霊の姿は影も形もない。おかげでこのエリアのドラゴンの心臓をコンプしてしまった。仕事しろと言いたい。
現在はスナック感覚でエネミーを凪払ったり、手に入ったスキルで遊んでみたり、馬鹿男で遊んだりと暇を持て余している。馬鹿男を置いて街に一人で行ったこともあったのだが、帰った時に可哀想なぐらい馬鹿男がしょげていたので今後止めることにした。
街は私が最初に着いた街よりかなり規制が緩く…具体的に言うとよくあるファンタジーのゲームの街のように身分証がなくてもある程度融通が効く所だ。最初にこの街に来たかった…。まぁ昔のことを言っても仕方ない。
「フィッシュ!」
最近のブームは釣りだ。
まぁ、釣れるのはエネミーばかりなのだが食料確保ではなくただの暇つぶしだから問題なし。釣れたエネミーを素手で倒してまた釣り糸を垂らす。こうしてぼんやり水面を見るのもいいが、偶によくわからない物を釣り上げるのも楽しい。釣りは暇潰しに最適だ。
…しかし暇だ。
「サヨ、それ飽きないの?」
横でぼんやり本(街に行ったときに買ってきた)を読んでいた馬鹿男が言ってきた。
愚かなり、人生の趣味とはこれこの釣りのことよ。
って昔じっちゃが言ってた。確かに大した面白味はないように見えるが、こうして穏やかな気持ちで水面を眺め、時にエネミーを釣り上げ、変なものを釣り上げる。…暇だ。飽きはしないけど、ああ暇だなーと思う。
「ケテルもやってみますか?」
竿を差し出せば拒否された。むむ。
その時丁度獲物がかかったようで、ぐいぐい引っ張ってくる。しかし私にとっては赤ん坊並みにねじ伏せるのは容易い程度の力。先程までと同じ様に、糸が切れないよう注意しながら引き寄せ…
「フィッシュ!」
釣り上げると…
人間が釣れた。
水の中にいたのだから勿論ずぶ濡れだ。
薄手の服が透けて肌色が見える。私が可憐な乙女だったらきゃと言いながらリリースしたかもしれない。
そしてこれでもかという程のイケメン。
助走をつけて殴りたくなるレベルのイケメンだ。
「………。」
イケメンと目が合う。
イケメンの目の色は赤だ。髪も肌色も白いからもしかしたらアルビノなのかな、と思う。こちらの世界のアルビノの人間は日光が苦手過ぎて魚人にでもなったのだろうか。それならイケメンではなくインスマス面になっておけばいいものを。
「………。」
しかしこいつどうしたものか。
溺れていたという訳ではないようだし、そっとリリースするべきだろうか。こっちを穴が空きそうなぐらい凝視していているし、気味が悪い。
しかしエネミードロップとはいえ、人間を長時間ぶら下げられる糸凄いな。この強度と細さなら凶器になりそうだ。うちのトラップハウスに追加しておこう。
ぶちっ
「「「あ。」」」
糸が切れてイケメンは大きな水飛沫をあげて水の中へ帰って行った。やはりそう長くは持たないか、残念だ。気を取り直して新しい糸を作ろうとした時。
「がぼごぼ、んぐは、ちょ、待て待て待て!」
水面からイケメンが顔を出した。
そして平泳ぎでこっちへやってくる。平泳ぎでも格好良く見えるとは、イケメン恐ろしい子!正直ドン引きだが。馬鹿男も奇怪な動きに眉を顰めている。
「ぜはー…げほ、むせっごほ!…ふひゅぅ。」
私達の前でorzの姿勢で息を整えるイケメンを水のきり蹴り入れたい気持ちを抑えて待つ。しかしちょっと足が滑って蹴ってしまうのはありではないだろうか。この水辺だし。
「…ふぅ。」
残念ながらその機会は失われてしまったらしい。息を落ち着かせたイケメンが立ち直る。ひょろりとした痩身は蹴り一発で吹っ飛んでいきそうだ。小突いたら骨が折れるのではないか?ちゃんと食べているのか?など少々心配になる貧弱さだ。こんなエネミーがいる所に丸腰でいていい人間にはとても見えない。
しかもへらりと笑うその神経もかなりマイペースで楽観的なように見受けられる。なんでこんな所にいるんだ?
「うーん。やっぱり人間形態はきついわー。」
そういったかと思うと、イケメンは光に包まれ…剣の姿になった。
む?いやいやいや待て待て待て、剣?人が剣になった?いや発言から剣が人になっていたというのが正しいのだろうが、いやそういうわけではなくて。
惚れ惚れとする美しい装飾の剣だ。美術館とか世界の名剣とかに展示されていそうな…いや、そんな古びた所はない新品同然の剣だ。ゲームのレア武器みたいな感じの。
『あー、ごほん。人間よ、よくぞ私を水底から釣り上げ…いや、見つけた。私は宝剣シャフラ。その手で振るうことを許そうぞ。』
…なんか言い出した。しかし人間形態なら兎も角、剣の形ならリリースしやすい。
どこぞかの箱庭ゲーならこんな廃品をちゃんと店で引き取ってもらったりするかもしれないが、それはそれ、私は別に村長も農家でもないからそんなことする必要はない。あったところに戻すだけだ。
ひょいっと拾って助走をつけて水面に向かって投げ入れる。力強く投げた甲斐あって水柱を作って剣は水底へ沈んでいった。今度は再び上がってくることはなかった。
私は何事もなかったかのように釣り道具を片付け、帰ろうとケテルに声をかけた。
もう二度とあの場所で釣りはしないでおこう。
というわけで場所を変えたのだが。
『人間よ(以下略)』
あれなんかデジャブ。今度は際どい恰好のお姉さまが連れて馬鹿男が鼻血を出すという大惨事が起きたがどこかで見たようなやり取りだ。今度は弓矢だ。私は今度はそっと前と同じように水底へ戻した。何故そんなレア武器がほいほい沈んでいるのかさっぱりわからないが、せめて使える武器になってから来い。
…とか思っていたのが悪いのだろうか。
『ふーはーはーはーはぁ!』
高笑いをあげるそれ。
禍々しい波動を放ち、周囲の植物は枯れ、天候は一気に悪化する。
まさしく魔王や何かの手にするにふさわしい風格を持った…
空き缶。
「……。」
半目で見た私は悪くない。馬鹿男は空き缶を知らないのか、たかが空き缶なのに顔を真っ青にしている。
伝説っぽい武器だろうが邪悪な空き缶だろうが私のやることは変わらない。
「えいっ。」
空き缶は空き缶らしく潰しておく。なんか蛙が潰れた声みたいな音が聞こえたが気にしない。一回ではへこまなかったので力強く何度も踏みつける。リサイクルに出しても恥ずかしくない形に出来た空き缶を私はスナップをきかせて水底へしゅぅぅぅぅぅーっ!エキサイティン!ダイナミック自然破壊と感心するが何もおかしい所はないな。そしていつも通り釣り道具を片付け始める。
「…サヨ。」
そんな私に馬鹿男は恐る恐る声をかけてきた。片付けながら耳を傾ける。
「…もうそれは止めた方がいいと思うんだ。」
奇遇だな、私もそう考えていたところだ。
「何故あれ程伝説のような武器があったのでしょうか…。」
確かに海の底には財宝が眠るとかよくある話だがここは海ではないし。他に誰か釣り上げる人はいなかったのだろうか?…いても私のように元あった場所に戻すか。なんか関わると面倒くさそうだし。
人間形態を取る武器に邪悪な波動を発する空き缶…もう永遠に水底に沈んでいていいと思う。というか人間形態とれるならそれで沈んでないで自分から使い手探しに行けばいいじゃないか。
「さぁ…。昔ここら辺で戦争があったとか?」
首を傾げながらそう馬鹿男は言った。
案外そんな所かもしれない。まぁ駐車場に最強の武器が落ちてたりするんだしそういうこともあるだろう。




