*ギルド開設
とある城内都市の街中のとある一角。
最近まで違法賭博場があり、街の景観を崩しかねないボロボロの建物があったそこには今は立派な館が建っている。落ち着いた色合いに、シンプルだが細かいところまで作り込まれた外見。これが一日の間に出来たなんて実際に見ていた近隣住人すら信じられない出来である。館の扉の所には看板があり、そこには凝った意匠とともに、『ギルドDHO本部』と書いてあった。
「皆様のご協力により、今日よりギルド『ドラゴンハーツファンタジー』の正式活動を開始することが出来ました。」
建物内で、50人ほどの人間の前でその男は穏やかな顔で言った。
吾妻誠司。DHOプレイ中、リアースドラゴンの心臓使用によって異世界に転生した一人で、ゲームの中で個性的な集団として有名なギルドのギルドマスターをしていた廃人レベルのプレイヤーである。外見はゲームのデフォルトキャラクターそのままという普通のイケメンである。ギルドマスターをしていただけあってリーダーとしての能力はこの場の中で一番で、それによってこの集団のリーダーとして抜擢された。
「このギルドは、異世界人としてこの世界でやっていけるように協力するギルドです。元の世界に帰るための捜査などは任意であり、強制するものではありません。退会、再入会も基本的に自由です。」
そう言いながら吾妻はその場の人間を見渡す。
傾国と称されるような美形から二度見三度見してしまいそうになる奇天烈な見た目の者まで色々いる。そしてその考えも様々である。それらをまとめてつけた落とし所がこの世界で生きる間の助け合いというところである。帰りたいと思う人間も、この世界に住もうと思う人間もこれには賛同している。
「こちらにきたと思われる人物は未だ行方が分からないものが多い。安否が心配されますので何か情報があれば提供してください。勿論ぴよこさんのように道具屋になってたりするかもしれませんが。」
「おいこら、なんでうちを例にあげとんねん!」
どっと笑いが起きるが、そう笑える事態ではないことはわかっている。奴隷制度の残っている所もある、もしかしたら…死んでいる人もいるかもしれない。実際そういう目にあいかけた人も中にいるのだ。
「やはり一番可能性が高いのは闘技場のあるラドライズですわね。普通より強い私達を一番有効活用できる場所ですもの…。」
「色街の可能性もあるぜ。それだけの外見なんだよ、俺達の外装はよぉ。」
実際に被害にあった実体験などが語られはじめ、ざわざわと場が騒がしくなる。それをなんとか収めて吾妻は続ける。
「この世界にはドラゴンハンターというスキルがある。このドラゴンはあのレアエネミーのドラゴンのことなのだが、本来ドラゴンは普通に攻撃してもダメージを与えられないらしい。」
勿論ステータスが低いということもあるだろうが、と付け足して一旦区切ってから続ける。
「ドラゴンハンターにはドラゴンを察知する能力があり、ドラゴンを倒せる実力がある。後者は兎も角前者は俺達は持っていない。それがバレたら厄介なことになる可能性がある。これは覚えておいてほしい。」
スキルがないのに倒せる人間なんてバレたら何らしか目を付けられる可能性がある。既に色々目を付けられる要因が多いのにこれ以上増やしたくない。
「ていうかぴよこが道具屋やってるとか本当驚きなのな~。戦闘以外興味なさそーなイメージだもん。」
「それ言うたらナルハの料理店のが意外やろ。あの着ぐるみのまま厨房に立っとるなんて…シュールやろ。」
「厨房立つときは脱いでますよ?」
「「「着ぐるみ脱いだの!?」」」
「驚かれた!?」
まったりと各自話す中、吾妻の顔は暗い。この場にいるのは57人。しかしこちらに来ていると思われる人間は 100を超えるらしい。時間がかかったとはいえ集まることに成功した自分達は助け合うことが出来るがいまだに会っていない人間はどうなっているかわからない。リアースドラゴンの心臓がこちらに来るキーならばそうそう簡単にやられる連中ではないと思うが…。
「あーちゃん、えらい暗い顔しとんなぁ?そんな顔しとると幸福さんが逃げてまうよ?」
からかうように言いながらこっちへ寄ってきたぴよこは心配の二字がありありと浮かぶ目で自分を見ている。幸いにも他の連中は未だに馬鹿騒ぎをやっていてぴよこと吾妻に気をかけているような人物はいないようだ。
「…うっさいわ、ぼけ。」
あまり知られていないが、吾妻とぴよこはリア友である。普段標準語で話す彼が生粋の関西人であることは親しい人間しか知らない。
「…自分ほんまに帰るつもりないん?」
吾妻はぴよこから視線を反らしながら聞く。
ぴよこは帰るつもりがないと公言している人間の一人である。帰らない理由は人それぞれだが、彼女は帰る家も待っている家族も…帰るだけの理由がある。それでも尚彼女は帰らないと断言している。
「…帰れへんよ。うちは…うちは帰る訳にはいかへん。」
ぴよこはそう言って遠い目をする。
「返さなあかん借りがあるんや。それ返すまでは帰れへん。」
決意は固いらしい。
何故ぴよこが道具屋をやるに至ったかは昔馴染みの吾妻すら聞いていない。それが帰らない理由の借りと関係していることぐらいは察せるが、ぴよこは笑って誤魔化すばかりで教えてくれない。それが吾妻にとって歯痒い。
「…ま、何考えとんのか予想付くけど、そう心配せんとも大丈夫やって。自分は大将なんやから余裕泰然としてどっしり構えとき!」
そう笑って軽く肩を叩くぴよこはリアルの彼女同様気弱になる吾妻の背を押してくれた。DHOでは違うギルドのリーダーとなったが、吾妻が一癖二癖あるギルドメンバーをまとめられた最大の支えが彼女であるのは確かなことだった。だからこそ彼女の借りも手助けしてやりたい…しかし彼女は助けは愚か内容すら教えてくれないのだ。問い詰めたい気持ちを別のことを考えることで押さえる
「ポテトサラダは…大丈夫やろうか。」
自分のギルドメンバーで弟のように可愛がっていたポテトサラダ。しっかりしているように見えて、どこか抜けていて天然で打たれ弱い。放っておけない弟分。実は姉であったらしいサヨを追ってこちらに来たと聞いているが…
「無事やと、ええな…。」
ぴよこは実際にポテトサラダと会ったことはほとんどないが、吾妻からよく話を聞いているし、その溺愛ぶりも知っている。神妙そうな顔をしている。
「ま、合流出来た時の為にうちらの基盤しっかりしとかなあかんやろ。そーと決まれば気張って行かんとな!」
にっこりと笑うぴよこに吾妻も笑い返す。




