役に立つ馬鹿は齧ってしまっても構わないだろう?
真剣な表情で馬鹿男はこちらを見ている。先ほどの言葉を思い出して考える。
ドラゴンの肉を出した。それでドラゴンハンターと思われた。しかしドラゴンハンターとはなんぞや?おそらく職業かなにかではないだろうか。ドラゴン専門の冒険者の俗称とか。…知ったかぶりするべきだろうか。それとも事情を話すべきか。
「……ケテル。」
人はパニックになると存外予想もつかない行動に出ることがある。今の私のように。
自然と抜刀していた刀を馬鹿男ののど元に突き付けていた。誰が?勿論私が。しかし自分でもどうしてこんな行動に至ったか今一わからない。とりあえず言葉を捻り出して告げる。
「好奇心があるのはいいことです。ですが行き過ぎた好奇心は身を滅ぼしますよ?」
ね?と笑って言えば馬鹿男は頭を面白い程コクコクと高速で上下させた。ふと自分の言葉を顧みたらなんかすごく悪人みたいなことを言っているけれど気にしない。気にしたら負けだと思う。一見ただのバカに見えるが人間一目見てわかる程簡単な奴なんてあまりいない。これからすごして大丈夫そうだったら自分の身の上を語るというのも熟考に価する…かもしれない。今は何も言わない方がいいだろう。
「物分りのよろしい方は好ましいです。」
刀を戻して食事に戻る。しかしやはり調味料の偉大さがわかるような料理である。どこかの童話で自分の父親が肉に調味料が必要なくらい大切だと言った娘がいた気がするが、なるほど名言である。超大事だな、調味料。と現実逃避したが、やはり力で脅すという先ほどの件で少々場の空気が重くて箸が進まない。いや自分の所為であるのだが。…ここは謝ったほうが
「ところでサヨって一体何者なんだ?」
おいそこの馬鹿。
物分かりが全くよろしくないな、この馬鹿。思いっきり先刻こちらを探るような発言やめろよ?(意訳)って言ったよね?というか普通それぐらい察するよね?なんで地雷を自分から踏みに行くの?馬鹿なの死ぬの?もう脳みそに藁詰めた方が賢くなるだろこの馬鹿。
「物分かりが悪い方は明日からご飯抜きですよ?」
「何故!?」
…なんか自分の身の上話してもいい気がしてくるな、この馬鹿男。
とりあえず先ほどの話の流れを5歳児でもわかるようにゆっくり丁寧に説明し(質問も許可した)、わかった?と聞いてさらにテストし、かかること30分。私の説明が悪いのかこいつが馬鹿すぎるのかよくわからないがようやく私があまり正体について探りを入れてほしくないことを知っていただくことに成功した。そういえば日本人はアメリカ人などと比べて話すことが少ないらしい。空気を読むなどの言葉がそれを如実に表している。あちらでは話さなければわからないが、日本では行間などを読んで理解することを求められるといったところか。この異世界も空気を読むといった文化はないのかもしれない。自分の物差しで測って物分かりが悪いなどと決めつけてしまったが、存外こちらではこれが普通なのかもしれない。反省しよう。
「…っていうことがあったのよ、メイフィー。」
もこもことした毛に癒されながらそう呟けば、きゅ?と言いつつこちらを見上げるメイフィー…可愛い。言葉は通じていないようだけれどこちらが疲れていることはわかるらしく、きゅきゅっと鳴きながらこちらに体を擦り付けてきて本当にラブリー。…その体格が私よりはるかに大きいことを除けば。勿論その体格に見合った力を持っていて…気を抜けば倒れそうだ。というかさりげなく現在進行形で私の体がずりずりと動いている。存外初めて会ったあの蛇に襲われていたときも自分がいなくてもなんとかなったんじゃないかな、と思わないでもない。こんな可愛い生き物を見捨てるなんて選択肢は私にはないけれどな!
「ああ、メイフィーは本当に可愛い…。」
ああ、愛すべきもこもこよ…うっとりしながらその体を抱きしめてやれば嬉しそうに鳴いてくれる。もうメイフィーと住みたい。あのゲテモノ料理がついてくることを考えなければ絶対天国だ。あのゲテモノ料理さえなければ。ここ大事、テストにも出るからな。テスト作る気ないけど。
「きゅー。」
メイフィーが切なそうに鳴いた。どうやらメイフィーの帰る時間らしい。仕方なく離せば一鳴きして帰って行ってしまった。ちなみに振り向きもしないで一直線である。ちょっぴり悲しいななんて思っていない。私も二人分の食事を取るために、馬車馬のごとく働かなくてはいけない。適当にあの馬鹿男に武器持たせて戦わせてみようか?…止めよう。あいつ自身が危険という他にあいつがもし私を害することがあったとき余計な力をつけられては厄介だし。でも穀潰しが増えただけというのは私にかかる負担が大きすぎるし…。
もうまんどくせ(ー△ー)
とりあえず今日の糧を得るために私は刀を振り上げ果実を収穫する。それは今までと変わらない、これからも変える気がないルーチンワークである。
「ただいま。」
今日も沢山働いた。首を回せばごきごきごきっと小気味いい音が出た。肩凝りすぎだろう、自分。嗚呼、お風呂に入りたい。暖かいお風呂で疲れを抜きたい。早く水をひけるようになりたい。ダンジョン内のドラゴンを狩ったらもしかしたらそんなスキルを手に入れることが出来るかもしれない…と血迷った考えすら出てくる。いけないな、最近疲れすぎてどうも好戦的というか無鉄砲というかそんな感じな思考になりつつある。
「おかえりー。」
馬鹿がひょこっと顔を出した。…ぬ?今変なところから顔を出さなかったか?具体的に言うと今朝私が家を出るまでなかった扉から。……うん。私が作った記憶がない所から出てきた。どういうことだ?一体こいつはなにをしてくれやがったんだ?しかも結構立派な扉だ。仮にこいつに大工の才能やらスキルがあったとして私はこいつに材料になるものは渡してないし、置いてもいない。どういうことだ?という視線に気づいたのか馬鹿はにかっと笑った。
「ここ、お風呂ないみたいだから精霊に頼んで作ってもらったんだ。どう?」
そういってドヤ顔で扉を大きく開いた先には男湯女湯という文字が印象的な銭湯のような空間…てちょっと待て。なんでこんな和風な拵え?というかしっかり作りこんである。番台まであるんだけど…。とりあえず中に入って女湯の方の扉を開ければ立派な脱衣所があった。きちんと鍵もついている木製のロッカーが並んでおり、なんとマッサージチェアまである。そして奥には恐らくお風呂に繋がっている湯気で曇った半透明の扉。恐る恐る扉を開ければむわっと溢れる湯気の向こうにパッと目に入るどう見ても富士山な壁画に洗い場。シャンプーやリンスなども勿論完備。そして立派な浴槽…。
「…どういうこと?」
思わぬ願望達成に茫然としながら馬鹿男の所まで戻れば馬鹿男はいまだにドヤ顔でそこにいた。その顔はやたらと腹立たしい。しかしお風呂を作ったことについてはキスをしたくなるほどありがたい。要するに
「齧りたくなるほど愛してる。」
「どういうことなの!?」




