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そして私は今日もドラゴンの心臓を齧る  作者: ヨハン@小熊
ep1:そして私は始まりの心臓を齧る
14/50

私は石に齧り付いている人間に出会った

石に齧り付いている人間に出会った。

決して比喩表現ではない。実際に石に齧り付いている。素晴らしいあごの持ち主だと感心するがどこもおかしいところはないな。何やら必死の形相でこちらを見ているがさて、どうするべきか。

私は事態を解決すべく回想することにした。


いつも通りエネミー狩をし、朝のメイフィータイム(メイフィーとの食事時間のことだ)をこなし再びエネミー狩。そしていい果実の実る崖に来たところ両手両足を縛られて石に齧り付いている怪しい男を見つけた。


以上。

……なんて厄介の匂いのする男なんだ…。

とりあえずぱっと見たところの感想を述べるならば、男は一見10代後半ほどのごく普通の一般人に見える。イケメンブサメンとか聞かれたら印象に残らないモブメンて感じだ。正直すれ違っても記憶に残らない実にモブの鏡と言っていいモブメンだ。実に好印象である。石に齧り付いている根性は並大抵のものではないとわかるが、両手足を縛る縄の耐久度を見れば何らかの特殊能力がないかぎり私でも無力化が可能なレベルの戦闘能力と推察できる。すくなくとも耐久力の低い縄を引きちぎれない程度の腕力と崖から落ちて深刻なダメージを受ける耐久度しかないと思われる。さぱっと言ってしまえば一般人だ。ここまでまとめればこの男は石に齧り付いている根性以外は至って平凡な村人Aといったところだろう。基本的に私は困っている人を見かけたら自分ができる範囲で助けてやりたいと思う程度の良心を持ち合わせた人間であると思う。彼が誠にモブであるのならすぐにでも助けてあげると思う。しかしここで考えてほしい。

私がいるこのエリアはどこだ?

前人未到の巨大エネミーの闊歩するダンジョン付近のエリア。一般人と思われる彼が五体満足でいるだけで十分怪しむ要素の多い場所だ。そんな場所でさらに両手足が縛られているときた。フラグの匂いしかないではないか。何か重大な罪を犯して死罪同然で放られたのか?いや、そもその場合送る側の人間も考慮すれば非効率も甚だしい。適当なダンジョンに放り込むだけでもこの戦闘能力では生きられない。ではパルプンテ的な何かで?そも一般人がそんな魔術の実験に立ち会うわけがない。他にも色々考えてみたが最終的にこの男は一見モブであるがこの場所に来るにふさわしい厄介ごとを抱えていると結論に至る。なんでフラグから逃げるために居心地のいい場所を捨ててきた人外魔境の地で新しいフラグを立てねばならないのだ。そんなフラグは火にくべてしまいたい。要するに目に見えてわかる厄介の種を蒔こうとは思わない。

冷たいと思うだろうか?しかし人とはそういうものである。理由はわからないがクラスの女の子がいじめられていた。さて助けに入るものはいるだろうか。小説ならいるかもしれないが残念現実では基本いない。可哀想とは思っても見て見ぬふりをする。そういうものじゃないか。

「……!!」

だからそういう目で見ないでほしい。そんな縋るような目で見ないでほしい。

手を差し伸べてしまいたくなるからやめて欲しい。私は正義の味方やらとは違う、ごく一般人だ。主人公なんかとは違うんだ。ああいう超人達と違って厄介を覚悟して助けるとかできないんだ。

「………!」

どれほどここにいたのか私は知らない。しかし男の力は徐々に抜けていく。

あごの力だけで体を支えているのだ、どれだけこうしているのかはわからないがここまで粘ったのは称賛に価すると思う。でも、こんな目に合うほどの厄介があるのならもう諦めてしまえばいいじゃないか。

「………!!!」

見るからにあごの力が抜けだしている。もうもって数秒ではないだろうか。

踵を返してしまえばいいのに私は男から目が離せなかった。私が男を発見してから数分経っている。男はもうすでに私が男を助ける気がないことに気が付いているはずなのだ。それなのにこの男はいまだに私に縋るような視線を送ってくるのだ。決して絶望なんてない、希望を見るような目で。

底なしの馬鹿なのかもしれない。この馬鹿男はこのまま助けられることなくこんな目で落ちていくのだろうか。私が助けてくれると信じて?

「…、……。」

馬鹿男の目が細められていく。体力が限界なのだろう。ずるりという擬音がでそうな動きで男は体を弛緩させて落下を始めようとする。私はそれを


私は果実を取っていた。日に日に収穫量が増えていく。やはり慣れなんだろう。

どこに何があるか。まだ範囲は狭いけれど家の周囲の果実の区分は把握しているつもりだ。

あたりが赤く染まる。夕暮れ時だ。いつもならそろそろ家に帰る時間だが今日はもう少し採取することにした。なにせ人が一人増えたのだ。今までの量では足りないだろう。別にここのエネミーの行動パターンはわかってきているし少々遅くなったって問題ない。


…簡潔に言えば私は結局あの馬鹿男を助けた。

私自身はこれっぽっちも本当に最後の最後まで助ける気なんかなかったのだけれど、うっかり手が滑って大事な果実が崖側に飛んで行ってしまったから取るついでにうっかり助けてしまっただけだ。うっかりだから仕方ない。なにせ死に至る病だからね。体力の限界だったらしい馬鹿男は気を失っていたからさぱっと家に運んで適当な部屋に放り込んでおいた。外に出ようとしたら警告音が出るようにしたし、水や食料も一応おいておいたのだから勝手に外に出ないと思う。別に勝手に外に出て馬鹿らしく野たれ死んでも私気にしないけど。

気が付いたら周りをエネミーに囲まれて思わず変な声を出してしまうほど驚いた。攻撃の間合いに入っているものはいないから索敵に引っかからなかったのだろう。ちらりと確認すればエネミーの中にはドラゴンも見える。一般人がドラゴンの心臓を食べれるかわからないが狩らないという選択肢は存在しない。サーチアンドデストロイ。

倒しても倒しても沸いてくるから適当に相手をしつつ帰路につく。

人がきているんだし、今日はちょっと頑張って調理してみようかな?など考えながら刀を振り回す。存外自分はあの厄介ごとしかないようなお呼びじゃないお客さんに浮れているのかもしれないなんて考えは頭から消す。私は最終的には助けたとはいえ見捨てようとした人間だ。仲良くなろうとは考えてはいけないだろう。それでも家に帰ろうとする足は軽く、振る刀は鋭さを増す。家はもうすぐそこだ。



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