齧り付きたくなる甘い果実
黒歴史を作った次の日の私は昨日と正反対のどん底だ。
もういっそのこと殺せ。なにが悲しくて地下に住まねばならないんだ。訳ワカメ。
しかもその上に立つトラップハウス…最近気付いたのだが私は興奮すると一つのことに拘り過ぎる所があったようだ。ちゃんと再利用できる所まできちんとしているから我ながら手の施しようのない。正直解体するだけ一苦労なので放っておこう。人が入ることはないだろうから問題ないだろう。入ったらえげつないスプラッタが次に家に入った私の視界に移る…というのでさらに私は生きた人間に会う可能性は減ってしまった。仕方ないね!
そして私はその日の食糧を確保した後、鬱憤を晴らすように家具作りに励んだ…。
なんて言ったって地下の部屋数は52。これだけあると、私の頭に悪魔が囁いたんだ…。
ここ、宿屋みたいにしてみないか?と。
材料は基本エネミードロップなので元手は無料。消費するのはアイテムと時間と気力だけ。
やる気は十分アイテムも充分時間は無限。私はつい昨日犯した罪も忘れて自分の趣味に没頭した…
ああ、なんということでしょう!
トラップハウスの何もない伽藍としたアリの巣のような地下空間は今、
地下に下りればすぐ客を迎えられるカウンター。その左手には泊まらないでも使える100人入っても大丈夫な広い食堂。シャンデリアももちろん手作りだ。奥にはキッチンがあって、水道こそ引いていないものの調理道具一式が設備されている。廊下は自動浄化機能付きのカーペットが敷いてあり、歩くだけで靴の汚れがとれる優れもの。
50ある部屋は客のニーズに合わせられるように全部違う装いをしてある。
中でも目玉は全てドラゴンの素材でできた部屋だ。全ての家具がドラゴンのドロップアイテムで構成された世にも珍しい…もしかしたら二つとない部屋だ。材料のみならず部屋の快適さもほかの部屋とは段違い。まさにVIPルームというべき最高峰の部屋だ。
最後にカウンターの奥にある私室。自分の趣味の為、広い室内に比べて家具の配置が少ないが勿論全てドラゴン製。仕事部屋なども兼ねており、ここで一生過ごすのもきっと悪くない素敵な部屋。
ちなみにすべての部屋に簡素ながらキッチンが設備されており、今後の改装で行く行くはお風呂の実装までもっていくつもりである。おお、ブラボー!ブラボー!あ、自分女だからブラヴァーか。
まあ、それは兎も角だ。
私室のふかふかの布団に飛び込んでゴロゴロ寝転がる。ひとしきり感触を楽しんでからは近くの机に置いておいた今日の収穫…果実を手に取った。
人の入らない、巨大エネミーの蔓延る前人未到の秘境で育った果実。さてはてどんな味がするのだろう。
激しく苦いか?ひょっとして美味しかったりするのか?どきどきしながら齧り付いて…
芳醇な香り。甘い甘い…しかし甘ったるいほどではないしっかりした甘さの果実。
そう、これ。これだよこれ。私が求めていた果実ってこういうのだよ。
あまりのおいしさに涙が出そうになった。念のために持ってきた、前の仮宿の野草は捨ててもいいかもしれない。だってここには美味しい果実がたくさん生っているのだから。
なんて幸運。神は私を見捨てなかった。
ドラゴンが少なくなってもこれならなんとかなるだろう。
気分が明るくなったところで、今後のことを考える。
前住んでいたダンジョンの時のように、弱く自分の知ったパターンしか出さない敵であればすぐにドラゴンの肉を狩るべきだ。しかし今回は状況が違う。
まず、そもそも弱くない。ここでの弱いは、片手間でも殺せるレベルとする。
ソロでドラゴンを狩ることを主眼にするなら、まず通常エネミーを無傷で倒せるようになれと言われている。そしてドラゴンの肉をとることをメインにするならエネミーを片手間でも倒せるようにしろ、というのが私の持論だ。異論は認める。しかしそのレベルでないと安全に効率よくドラゴンを倒せないからだ。私がソロである限り。なので今回もそれを主眼において考える。
残念ながらここの敵は片手間で殺せるようなまのではない。そしてその姿攻撃方法全て見たことがないものだ。ダンジョン近くのエネミーの性質は全て一定だ。見たことがない性質の敵は即ち出会ったことがない敵、攻撃パターンのわからない敵だ。パターンを全て把握して挑む。それがドラゴンの肉を目的にダンジョンに挑むときの私の前提だ。残念なことに今回そのどちらもクリアしていない。
さらに、基本ダンジョン内の敵は道中の敵より強い。よってダンジョン内に入るのもしばらくお預けだろう。最奥ボスに挑むなどもってのほかだ。
なので今後の予定は、まず食糧を集めてエネミーの殲滅によるレベリングおよび敵の性質、パターンの把握。それが規定を超えれば道中のドラゴンの肉をメインに道中エネミー殲滅。
時折ダンジョンで推奨レベルに自分が達しているか調べつついつか最奥に挑む。
といったところだろうか。
方針は決まった。考えながら食べていた今日の食糧は食べきっておなかもいっぱいになったのでもう寝てしまおう。しかし今日は疲れたが充実した一日であった。
なんで私はトラップハウスの地下になんちゃって宿屋なんか作ったのだろう。
つい好奇心で食堂で朝食をとったのだが、だだっ広い中一人で朝食をとるのはすごく心がつらかった。
二度としないと決めた。作ったもののあの食堂は閉鎖だ。
しかし風呂場はいつか作りたい。水を引いて絶対いつか作ろう。しかしそこまでいけば頑張れば地下で引きこもり生活が出来そうだ。楽しみである。
とりあえず、果実をとりにいくか。
昨日果実をとった場所に行けば可愛らしいエネミーが蛇のエネミーに襲われていた。
ちなみにどちらも大きい。かわいらしい方は私の頭一つ分上、蛇は二倍以上だ。しかし雑魚は雑魚なので
とりあえず蛇の方を倒す。襲われている方は様子を見ることにした。
エネミーは蛇を倒したこちらを恐ろし気に見ていたが、こちらが攻撃する意思がないとわかったらしく
歩み寄ってきた。ウサギと羊を混ぜたようなエネミーだ。体をもこもこと覆う毛と、それとまた違う感じとふわふわとした首周りの毛。くるんとした角の近くから長い耳がぴんと伸びている。
その生き物はこちらに近づいてきて、きゅい!と鳴いた。かわいい。
するとぽこんと通知の音がした。
なんだ?と思っていれば目の前に文字が現れる。
『NAEのフィーリー族のメイフィーと絆を結びました!』
NAE、ノンアクティブモンスター。積極的に襲ってこない、中立もしくは友好エネミー。
いつか実装されると聞いていたが、初めて見た!しかも絆、友好度のようなものだろうか?
それまで結べるなんて!
「メイフィー。」
名前を呼べば嬉しそうにきゅいきゅい鳴いた。とても可愛い。持って帰ってもいいだろうか。
しかしメイフィーはきゅい!と鳴くと去って行ってしまった。追いかけようと思ったのだが通知で
メイフィーは満足して帰って行ったと出たので諦める。
追いかけるなんてストーカーじゃあるまいしするわけないじゃないか。……たぶん。
ちょっと理性が危なかったことは否めないがとりあえずあの子を追うのは今得策ではないだろう。
確認したところ、絆は十段階あって、今私たちはその一段階目、まさに新学期初めて知り合ったクラスメイトレベルの友好度なのだ。嫌われてしまっては元も子もない。
ここには長く滞在する予定なのだ、仲良くなれる種があるなら仲良くしておくに越したことはない。
無理に迫れば嫌われてしまう可能性がある。
しかしここは本当に思ったよりもはるかに良い土地である。案外やっていけそうだ。




