王家の秘密なんて知らない。
マルゥ叔母は言った。
「海岸近くの街に私の従姉妹が住んでいるの。彼女には子供が出来なくて。そこの養女となって…名前を変えるのはどうかしら?」
父は目を閉じて兄は目を見開いた。
「…やはりウチの籍から抜けるのですか!?」
ゴーディ兄の顔は強張る。
「お兄様。」
「…あのリンデ王は厄介だ。ウチの血筋に執着しているんだ。
五代前と七代前に王家と婚姻を結んだ我が家にな。」
父は下を向いた。カップを握る手に力が入っている。
「大人の話みたいですから、」
サラサさんが立ち上がる。
「ジン。私たちはあちらに行っていましょう?」
「サラサ姉様。」
「知らなくていい事は、知らない方がいいのですわ。」
彼女は花のように微笑んで、
「ではゴーディ様。また。しばらくこちらにいらっしゃるのでしょ。」
「ああ。」
兄に微笑んで部屋から出ていった。
「やれやれ。実の兄の俺よりもゴーディに懐いているな。」
「デビット。」
叔母が眉尻を下げる。
「あの子もな、うるさい兄より綺麗な従兄弟がいいのさ。」
フリッツ叔父も薄く笑う。
「賢い子ですね。この先の話の方向を見越している。」
父がため息をついた。
…本当に。込み入った事情は知らないに限る。
「さっきの話だがね。アルヴァ。」
叔父が切り出す。
「キミの素性を隠すのに二つの段階を踏もうと思っている。」
「…はい。」
「まず、マルゥの従姉妹の養女となり、」
そこで父を見る叔父。
「しばらくして病没か水の事故で行方不明になったとして存在を消す。
つまり亡くなったことにする。
また名前を変えて別の家の養女か…実子を名乗るのもいいな。」
「そんな!」
「落ち着きなさい、ゴーディ。」
唇を噛み締める。私の予想の通りか。
かなりの闇が隠されているのね。
「そうしないと、あの国はいつかアルヴァを取り込もうとする。
きっとね。
今は息子可愛さだろうが…やはり女神信仰がね。」
声を顰める叔父。
「あの王が私の母が夢枕に立ったとか何とか…真っ赤な嘘をついてまで以前おまえを息子の妃にしようとした。」
父も渋面を作って声を更に落とす。
「え、嘘?何故ですか?」
「…ゴーディ、聞いたことはないか??」
父や叔父が周りを見回す。
「誰もいないな?」
「ああ。」
「三代前にリンデ王家の血筋は途絶えたという話だ。」
「えっ?!」
絶句する兄。
ああ、やはり。
「現王のお爺様に当たる方だが、その方は王家の血を引いていない…という話だ。」
「…そんな、馬鹿な。麗しのアルベルト様…ですよね?」
兄の顔色は真っ青だ。
「ああ。そうた。ま、噂に過ぎないがね。」
叔父が頷く。
「だが、私の母、今の王の叔母だな。以前王家に勤めていた侍女から聞いたそうだ。」
つまりこう言うことだ。
今のリンデ王のお祖父様の父上はひとりっ子の上に(ひいお祖父様と言うことになるのか)なかなか子供がお出来にならなかった。
追い詰められた王家。
養子という話もでたが、やはり実子が欲しかったと言うことで、何人も側妃が迎えられた。
そのうちのお一人は美貌の男爵令嬢で…見初められて無理やり召し上がられた。
…まもなく彼女は懐妊した。そしてお産まれになったのがアルベルト様だ。
「彼女には恋人がいたらしい。毎日泣き暮らす彼女にその侍女が同情して一度だけ逢瀬を手引きしたと言う。」
…そうか。男性側の不妊だったわけね。
「産まれたお子様…アルベルト様は今のレオナルド様のような美丈夫でな。
おまえが言った通り、『麗しのアルベルト様』と呼ばれたのさ。
…女神の面影が無いこともなかった。そしてその美貌はレオナルド様に受け継がれている。
側妃かその恋人には遠く王家の血筋が流れていたのかもしれん。
それで内々で収まった話なのだが、問題は。」
「王家に姫が産まれなくなったと言うことですね。」
ゴーディ兄の言葉にみんなが頷く。
「血筋を偽ったことで女神の怒りに触れたとされている。」
父が忌々しそうに続ける。
「それでウチの血筋を入れたかったのさ。ウチは間違いなく王家の血を引いている。それにシルヴァンの見かけもあってな。」
「私とラディル様が添えばそれで血筋は元どおりだと?」
馬鹿にした話だ。
「今、レオナルド様のお妃様は御懐妊されておられる。リンデ王は今度こそ姫が産まれるのではないか、と望みをかけているんだ。」
"王家には私の化身の娘が生まれるでしょう…"
女神が残した言葉だ。それが呪いの様に王家に纏わりついている。
「もしレオナルド様のお子様が王子様だったら。
やはりアルヴァ、おまえをラディルの妃にする、と王はいいかねないんだ。」
「だからね、姿を隠しましょう?」
叔父と叔母の言葉に頷く私だった。




