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稲守任三郎とダンジョン戦記  作者: 正方形の木箱
第三章 新人教導任務 新養老ダンジョン編

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第93話 第三章後編 閑話 過去話④

無理やり地面を殴りつけ、衝撃によって島上との距離を無理やり作り出す。


ドォンと大きな音と共に地面が抉れ、島上もさすがに距離を取るしかないのか、後ろに飛ぶ。


『今だ!空爪…』


ダダダダダダダダ!


いつの間にか手に取っていたアサルトライフルを島上はガガに向けて連射する。

最初に捨てていたアサルトライフルは撃てる状態にしてあった。


ダダダダダと連射音だけが鳴り響く。


弾が切れたのか、連射が止まると同時に、ガガが動き出す。


「は!?」


『空爪王撃!』


ガガは先ほど抉った地面に入り、体勢を低くして被弾を抑えていたのだ。

大きく反り渾身の力で腕を振り抜いた攻撃は、連撃とは比べ物にならない程大きく、金色の魔力の爪が島上に襲いかかる。


「死んだかこれ…」


避けられない。さらに腕を振りかぶっており、避けた所を狙い撃つ気だろう。

せめて生き残ろうと両腕をクロスさせつつ、皆が待つ方へと思いっきり飛ぶ。


迫りくる爪が両腕に触れた瞬間、衝撃によって吹き飛ばされる。

幸い迫りくる勢いは、思い切り後ろに飛んだことによって島上はなんとか減らすことができたのだが、戦場の外に押し込まれ退場となってしまった。


「はぁ、はぁ、はぁ、くそっ!」


被弾してしまったのか、両腕には抉られたような傷があるのだが、痛みなんで構わずに悔しさから地面に叩きつけた。

血が出るのも構わず悔しがる姿はまさしく男だった。


『俺の勝ちだな。俺はこの通りまだ立っている!次は絶対に完膚なきまでに貴様を倒す!男!名前はなんだ!』


「島上!忠正(ただまさ)!次は勝つ!」


『おう!男と男の約束だ!』


そう言い残したガガは光の粒子となって霧散する。



「島上さんって人はどうなったの?」


「あの方は何度かガガ様と再戦の末に勝利したようで、現在は飯岡ダンジョンの最後、4層を突破すべく他のダンジョンとここを行き来していますね」


「へぇー」



満身創痍である島上を皆で担ぎ、トレントエリアまで運びだした後、次は誰かという相談をする。


「次はどちらが行きましょうか」


言い出したのはチエリだ。


「ただ、ワーウルフの皆様も相当消耗している筈ですので、死合いをすることができるかどうか…」


「おおおお、俺は辞退します!俺は死にたくない!いやだああああああ!」


同じ班にいた男性が武器を放りだし、トレントエリアから2層へと走り去ってしまった。


「あの方武器も持たずに…。ナイトゴーレムももう…まぁいいでしょう。あのような方に構っている暇は私には無いのです」


どうせ誰もいないなら知れっと進んでしまおうと思ったチエリは振り返りもせずに歩き出すと、後ろから大きな声が聞こえてきた。


「おーい、待ってくれー!」


後ろから追いかけてきたのは稲守任三郎だった。


「行くならついていくよ」


「よろしいのですか?」


「あぁ、その為にって、あれ?もう一人いなかったかい?」


「さぁ?」


先ほど逃げた男性と彼は遭遇しなかったのかと、チエリは思ったが、面倒くささが勝ち知らないフリをする。


「んー、まぁいいか。ここで迷子にはならないだろうしトイレにでも行ってるんだろう」


「そうですか。では行きましょうか」


チエリは歩き出し、稲守も後から続く。

草原エリアを抜けて、ワーウルフとの戦闘エリアにたどり着くと、何度も聞いたような声が聞こえてくる。


『稲守任三郎!本当に申し訳ない!父が再び戦いたいと言うのだ!相手してもらえないだろうか!』


声を聞く限りはロロのようだが、どうやら相手は違うらしい。


「あぁ…ガウルさんか…」


「ガウル殿?というのは?」


「ワーウルフのトップって聞いた。正直ガガとかルルとは比較にならないどころかダンジョンで言うと何階層かもわからない程格上だよ」


暫し考え、チエリは見学する旨を伝え、稲守に戦ってもらう事にした。


「済まないね。いいぞ!ただ次の相手はもういるのか!?」


『問題無い!次は我が出れる!』


『そろそろいいかロロよ』


そう言うと一体のワーウルフが戦場に入って来る。

ガガやロロ、ルルとは二回り以上も身体が大きく、体毛は灰色と灰褐色が混ざり合っている。


『任三郎!来い!』



「ガウル?初めて聞いた」


「後でお聞きしたところ、ワーウルフの王。ワーウルフキングという名称で、ワーウルフの数倍強く、ダンジョン階層換算だと25階層相当だとか」


「稲守さん勝ったんだよね?」


「それはもう…。抱いて欲しいと言ってしまったくらいにはかっこよかったですよ」


「抱い!?」


驚く笹山を見向きもせず、恍惚とした表情を浮かべながらチエリは稲守とガウルの闘いを話し始める。



「じゃあ行ってくる」


「お気をつけて」


チエリは稲守を見送り、急いでスカートの中からカメラを1台取り出す。


(念の為に持ってきておいて正解でした。これなら彼の闘いを記録できます)


このカメラは小型ではあるがハイスピードカメラとしての機能を備えており、コインサイズの大容量ディスクを搭載、書き込み速度は遅いが大容量ではある。


『いくぞ!任三郎!』


「すまないが主役は後ろにいる彼女なんだ」


稲守とガウルが同時に駆け出すが、その姿はチエリの動体視力では見えない。


(カメラの性能が頼りです。頼みましたよ)


衝突音と土煙しかチエリには見えないが、あちらにいるワーウルフ達は見えているようで、歓声が聞こえてくる。


『おじちゃんそこだー!』


『親父!顎だ顎!』


『人間すげー!』


といった声が聞こえてくる。


突如として二人の動きが遅くなったのか両者が見える。

ワーウルフは魔法かスキルなのかを使うらしく、右腕を大きく振りかぶりながら叫んだ。


『双連煌爪撃!』


先ほどまで他のワーウルフが放っていたものと、色も大きさも速さも違う規模の攻撃が、地面を抉りながら稲守へと向かう。

もし自分があの攻撃をされたらと考えるが、全力で逃げればなんとか被弾は無いが、攻撃を行う余裕はない。

そんな凄まじい攻撃も稲守には当たらない。

範囲が広いとはいえ、5本の爪に魔力を乗せて攻撃している関係上、指と指の合間にわずかに隙間ができるため、そこを通ればいいと言わんばかりに合間を縫って避ける。


(掠っても死ぬであろうあの攻撃の間を?なんという精神力なのでしょうか)


使ったからわかるのだが、身体強化魔法は肉体強度も上がるが、人外なのは速さと腕力だけで、耐久度はそこまであがらず、当たったら死ぬのは変わらない。


戦場を見つめ闘いの行方を見守っていると、ガウルのスタミナ切れなのか、攻撃が止み、それと同時に、戦場で爆発が起きる。


ドドンと大きな音と共に後方に飛びのくガウルが見える。

稲守に攻撃されたのか、両腕で守った状態で攻撃にはすぐに移れないだろう。


『グゥ!』


くぐもった声が響く中、稲守は懐からナイフを取り出し、何かをしようとしていた。



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