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稲守任三郎とダンジョン戦記  作者: 正方形の木箱
第三章 新人教導任務 新養老ダンジョン編

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第79話 養老ダンジョン新人教導任務⑩

「魔法陣の再現はまだ研究中みたいでね。そもそも詠唱無しでどうやって魔法陣を描くかってのと、時間的にも詠唱短縮した魔法の方が早いってのもあってまだまだ時間はかかりそうかな」


周囲を軽く警戒しながらいつもより慎重に歩く。近場にヤンググリフォンがいたとなれば、空を警戒しなければならないのだ。彼女らも先程の経験があったからか、おなじように周囲を警戒しながら歩いているようだ。


「ヤンググリフォン以外は何かいますか?」


「小型ってことはリス?」


「いや、ここら辺にイロリスが好きな木の実はない。いるとしたら川の水生生物と、虫なら蝶、後はヤモリやトカゲに似た爬虫類型だな」


蝶型と言っているのは、種類が多く、名前を付けても違う蝶がいて一生名前を付け続ける事になると予想されたので、生態や成長過程等の調査は継続して行われている。


現在確認されているだけでも、養老1層だけで30種類以上、他の地域のダンジョンや、海外のものと照合させるには、まだ情報が足りない。


道なき道を歩き続けると、空気が少し変わるのを感じた。

湿度が高くなり、周辺の生えている木々も別の種類が現れる。


「さて、そろそろエリアが変わるぞ。木と葉をよく見るとわかるんだが」


おもむろに落ちている葉を二人に見せようとしゃがみ込むと、何かを見つけたのか、素早く動いて何かを捕まえる。


「丁度良い、こいつがさっき話したトカゲの一種、ダンジョン二ホンヤモリモドキだ」


「キュッ!キュゥ!?…キュウ?」


ぱっと見は日本に多く生息しているニホンヤモリそっくりなのだが、個体ごとに模様が違う事や、魔法を使うこともあって、ダンジョンで見つけたニホンヤモリに似た生物ということで、モドキという名がついている。大体こういう場合はトカゲなのだが、この子はヤモリだ。


最初は暴れていたが、観念したのかおとなしくなる。

ここにいる小型の生物は虫を除いて基本的には人懐こく、こぼした食事等を狙って後を付けたり、個体によっては稲守が建てたツリーハウスを寝床にしておこぼれを貰おうとする個体だっている。


「ん?前にみた子だな」


背中の模様にひし形の模様が複数個あり、いつかツリーハウスで出会った事のある個体と同じ模様をしている事に気付く。


「キュウ!」


するりと捕まえていた手から飛び出たヤモリモドキは稲守の腕、肩と駆け上がり、そのまま頭のてっぺんへと登った。


「キュゥ!キュッ!」


「やっぱりお前か。また頭に登りやがって…」


以前ツリーハウスにいたときもそうだが、この個体がなのかはわからないが、やたら稲守の頭に上りたがり、ちょこまかと動き回り居座るのだ。


降ろそうと、ヤモリモドキを捕まえようする稲守を笹山と高須はじっと見つめていた。


「稲守さん、えっと」


「あれじゃない?テイム的な?」


テイム。

モンスターを使役して仲間にしたり、ペットにしたりというアレだ。

稲守自身そういうのに憧れはあるが、できたとしてもこれである。


「テイムかー。出来たらいいが、別に毎回みかけるわけでもないし、多分たまたまだろう。なぁ?」


「キュゥ?」


トカゲモドキは言っている意味がわからないのか、頭を傾けながら鳴き声をあげる。

その後も一向に動こうとしないので、仕方なく頭にのせたまま川へと移動する。


「よく見るとかわいいかも」


「わかるー。うちもテイムとかしてみたいなー」


一般的に爬虫類を好きな人は物好きと分類されるだろう。

しかしよく見ると、可愛いもので、よく見ると愛らしさのある大きな目が二人を虜にしたのだろうか。


「できたらいいな。できるならゴーレムとか力仕事できそうだし壁にもなるな」


便利さがやはり重要だと考える稲守とそうではないのか、少し違うといった顔の2人。


「うちはやっぱりかっこいいのがいい!ウルフとか!」


「私は大きいのがいいなー。それこそほらあの熊!強そうだし、もふもふしてる!」


確かにあの熊ならテイムできれば強い味方になるだろう。

この1層で地上を限定すれば大型はあの熊とヤンググリフォンが良いだろう。


ヤンググリフォンも熊も見かけるとすぐに襲ってくるし、グリフォンはある一定の高度を超えると何もせずとも近づいてこちらを威圧する厄介なモンスターだ。


頭にトカゲモドキを乗せながら数分、ようやく目的である川にたどり着く。

川は熱帯雨林にあるような幅広い川で、ここまで来るときに渡ったような丸太で橋を造ろうにも向こう岸には届かない。


「さ、水を採取し…しまったな人数いるなら釣り竿持ってくればよかったな」


「何か取れるんですか?」


ここ養老ダンジョン1層は、淡水と海水があり、稲守たちがいる川は淡水に該当する。

汽水域ともなれば色々な魚が釣れるのが、淡水のここでは余り種類は釣れない。


「余り種類はいないかなぁ。今の所確認できているのは、サケにコイ、ブラックバスとか、地上で見たような魚ばかりだよ。大きさは違うけどね」


ダンジョンイワシのように、特にサケは養殖ができるのではと期待はされているのだが、ここの水を採取して地上で飼育しようとするも長生きせず、できたのはイワシとコイだけだった。


「コイは一応養殖に成功しているよ。出回ってるのだとカマボコとかナルトによく使われてるかな。後はダンジョン側の宿泊施設の食堂で持っていけば鯉こくとかにしてくれるよ」


鯉こくとは、鯉を輪切りにして味噌で煮込んだ郷土料理のことで、鯉自体は江戸時代から食べられており、栄養価は高く、今でも一部の地域で普通に食堂とかで食べることができる。


「思い出したら食べたくなったな…」


ダンジョンで釣れるコイは日本で釣れるものと違い臭みが無く、刺身でも十分美味しい。


雑談をそこそこに、3人は水をバケツに入れ、身体強化を行使して基地へと戻る。

来た時間の半分以上短い時間で到着した3人は、鯉と釣りの話で夢中になり、稲守の頭にいるトカゲモドキの事をすっかり忘れていた。


縄梯子を登り、基地の中に入った途端、稲守の頭から鳴き声と共にトカゲモドキが飛び出す。


「キュウ!」


飛び出したトカゲモドキは机の上に登り辺りを見渡している。


「こいつの事忘れてたな」


「キュウ?」


トカゲモドキは周囲を確認しつつ、落ち着かないのかどこか隠れる場所を探しているのか、再び稲守の頭へと登る。


「ついてきちゃったしこいつの家でも作ってやるか」


トカゲモドキ、つまりヤモリは温暖で多湿の気候を好む。ついてきた辺りとの気温差は無いため、地上で飼うみたいに温度の調整の必要は無さそうだ。


「稲守さん、この子飼うんですか?」


「餌とかどうしよ」


「んー、こいつ次第かな。連れてきたようなもんだし、休める場所くらいは作らないとね」


床材や、隠れ家、給水場所、エサ入れ程度で問題ないだろう。

稲守は色々収集したものを入れている箱を部屋まで取りに行く。


「ちょっと物取ってくるから水を給水タンクに入れておいてくれないか?」


「はーい」


高須が水を持って給水タンクに注ぎ、笹山はタンクに入れず、外に出ようとしていた。


「じゃあうち、この子の餌とってくる。近くに小さいのとかいるかもだし」


「頼むよ。ついでに少し土を取ってきてほしい。なるべく森に近い場所で頼むよ。あと葉が沢山ついた枝かな」


「まかされましたー」


その間に頭にトカゲモドキを乗せたまま、自室へと入る。


収集箱には腐敗しないかつ、珍しそうなものや、こうして小さな生き物を飼う事になっても問題ないように色々なものが入っている。


「お、この枯れ木なんかどうだ?隠れ家にもなるし」


稲守が問いかけるとトカゲモドキは頭から飛び出し枯れ木に近づいていく。

やはり人の言葉を理解しているようだ。


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