調子にのりました
風邪が治らず、呪いのせいだと思っていた。
違った。これはアレルギー症状だ。
アレルギーは春だけじゃない!! キリッ!
てなわけで、戦争が始まったバースの大地より
お届け致します。
進めよ進めと、カティアは五月蠅かった。
僕達の戦車は、竜騎兵に取り囲まれて徐々に速度を失い、ついには完全に停止した。味方である雪の軍勢が――、遥か遥か後方にある。第十一書記ゲヘナとすれ違った後、後続が追い付くのを待たずに、敵軍の中を突き進んでしまったのだ。僕達は孤立したようだ。周囲には何万という敵がいる。見知った顔は一つもない。
当然僕は、猛抗議した。
「カティアさん! 今更だけど、きちんとした指示を下さい! いきなり大ピンチですよ! どうするんですか!?」
「わかっとるわ! ちょっと待て!」
単純に突撃だけなら僕達に分があった。嘘みたいだけど、竜騎兵の幾重にもなる突撃を、僕とオハナさんで跳ね返していたのだ。身体中の歯車が休むことなく回転して、触れるものを引き裂いた。カティアが右だと言えば右に進み、左と言えば全力で走り出した。ほとんど前も見えない敵軍の中を、掻き分け薙ぎ倒し、無我夢中で進んだのだ。
その快進撃が止まった原因は、槍が投げられた事だった。僕の顔面のすぐ横を通り抜けて、一本の槍が戦車の荷台に刺さった。さっと血の気が引いた。意識の外から飛んできた死線。刺さった槍を、不思議な気持ちで数秒振り返った。その時には、僕の足はもう、完全に止まっていたと思う。
「喪失武器! 落とせ落とせ! 槍を叩き落すんやぁ――!」
カティアの声で我に返る。
空を見渡せば、四方八方から槍が迫ってきていた。
地竜に跨る着せ替え人形が投げてくるのだ。人形が扱える短い槍だ。僕達に突撃が通じないとみるや、遠距離攻撃に切り替えてきた。
――それは大問題だ。
統率がとれている動きだ。乱雑とした戦場でも、誰かの意思決定が、きちんと伝わっているんだ。ゲヘナが何処かに隠れていて指示を出しているのかも知れない。
このまま臨機応変に戦法を変えられたら、勝てなくなるのでは――?
戦闘の知識は、カティアにおもいっきり依存したいところだけど、敵軍の中で孤立してしまう辺り、優秀な指揮官とは言えないようだ。勝気で、興奮してしまったら何処までも突っ走ってしまう。
僕とオハナさんは、襲い来る槍からカティアを守るために全力を傾けた。身体中の歯車が槍を弾いた。ダメージはない。ガツンガツンと衝撃は伝わるが、喪失武器の装甲を破ることは出来ないようだ。だが、歯車が本気で回りだすと、中にいる僕達の身体にあらゆる方向から力がかかる。身体が雑巾みたいに捻じれていくようだった。
――は、歯車の回転がどんどん速く……、だ、駄目だ、速過ぎる!!
「いっ、イテテテテッ……! これイタァァァ!」
「あああ――!! またこれ!」
それでも僕とオハナさんは、カティアを守る。カティアの命令が、ずっと効力を発揮しているのだ。まったく逆らえない。いびつな機械のシルエットが二つ、槍という大雨の中でフラフラと踊っているようだった。
――もう、む、無理だぁぁぁ!! 身体がちぎれてしまいそうだぁぁ!!
ではオハナさん。一緒にお願いしますね。うん。視線が合わさって今、同調を開始しましたね。同じ意見だという事が確認出来ましたよ。あ、カティアさんも一緒に言いますか? 案外声に出すとスキッとしますよ。僕もこっちに来てから叫ぶ事が多くなったんですが、「声に出す」というアウトプットをきちんと行うことで、気持ちが落ち着きます。えへ……。
――すぅぅ……!!
大きく息を吸い込んでぇ……。せぇのっ!!
「「誰かぁぁ助けてぇぇぇ――!!!」」
「――って、誰も助けに来んわ! 後ろが追いつくまで、自分らでやるしかないやろ!」
カティアは荷台に立てかけてあったツルハシを、勇ましく持ち上げた。敵軍の中に、僕達を突っ込ませた犯人とは思えない台詞だ。
「第十三書記カティアの名で命ずる。喪失武器よ力を示せ。理想を持たぬただの武器となり下がれ! 其は、この世の終わりにて始まりなり。近くて遠い双星の片割れなり。型式三番! 自動照準解放! 準備出来次第でしばいたれ!」
カティアが叫ぶと、一緒に荷台に登っていたオハナさんに異変が――!
「オハナさん! 上半身が浮いてますよ!」
僕は目を疑った。
オハナさんが上下に分断されている。腰の辺りからぱっくりと割れて、上半身が浮いている……。壮大な仕掛けが施された手品のよう。
オハナさんは両手をバタバタさせながら、状況を確認しようとしている。
「きゃ――! カティアがやってるのぉ? やめて、やめて――!」
――ママ。また何か始まったよ……。ここは異世界なんかじゃない。きっと地獄だ。もう、やだよ。僕達は無事に帰れるのかなぁ!




