プロローグのような夢想
基本的に主人公の1人称パートと三人称多視点のパートで分かれて書き進めることになると思いますが、何分初めてのライトノベル系小説へのチャレンジと言うことで、どうか暖かくご説読して頂けるとありがたく思います。
更新については、作者のリアル都合上かなりのスローペースになるかとは思いますが、それでも気にしない、読んでみたいと言う方がもしいらしたらそれはとても嬉しい事です。
拙い文章になるかもしれませんが、もし気になりましたら優しく感想等何卒よろしくお願いします。
<プロローグのような夢想>
痛切に嘆く。
何であの両親の元に生まれてしまい、何でこんな世界を歩まなければならなかったのかを。
考えた所でどうしようもないんだろう。
別に分かってるよ。それはきっと誰にでもあるちょっとした思春期と反抗期の賜物なのかもしれない。
いつも いつも
見慣れた風景に不満を浮かべ抱えているのに、いざそれが見られなくなる事にも耐えられはしないんだろうし。
だからただ、誰かの声に急き立てられるように、背中を押され流されていくだけの日々を過ごす。
軟弱で脆弱な15歳。
能力のどこを取ったって平均値の辺りをゆらゆらさざ波のように推移しているだけの、少しばかりシスコンが過ぎる、まるで追われるカメレオンみたいにその風景に必死に同化するだけの存在だとわかってる。
こんな無味で無益で無害な、自分自身はそう思ってやまないちっぽけな少年には、未だ神様は求める手を差し伸べてはくれない。
当たり前に分かってる。
だとしても、知らないどこかに新しい楽園を探して、ひっそりと夢見に落ちることくらいしか出来ないから、いつまで経っても僕は弱虫のままで…。
今日も唯一の逃げ場である夢見から目覚めかけの虚ろな浮遊感の中に居たけれど、なぜか酷く脳天に鈍痛が広がっている。
いつもにも増して今回の寝起きは最悪だなぁ、とボンヤリ思う。
下らないこんな空しいだけの愚痴ですらない無意味な思考に浸ってるくらいだし、仕方ないけど。
僕が求める世界なんてない。
世界が求める誰かがそこに居るだけ。
僕は居ない。
どこにも―――――――――――…‥。
どんなに望んでみた所で僕は僕以外の者にはなれず、きっと何も変わらない。
僕という名の穴の開いた空容器が僕でそこには何も入ってはいない。
そしてこのままだと何かを入れたとしても、そうと気付かないうちに零れ落としてしまうんだろう。
当たり前に分かってる…そう思い込んで冷めきった自分が嘲笑するのは自分でしかないのかもしれない。
あぁ‥それにしても体がやけに重く感じる。
なぜか金縛りにあってるみたいに手足も体も痛いしピクリとも動かせない。
動かせたとしてもとても億劫な気分だ。
それでも、どこかから鼻を擽る甘く優しい匂いに気付くと、僕は唯一動かすことが出来た瞼を、ゆっくりと開けることにした。
≪まぁいいか≫
願望も嘆きも憂いもあるはずなのに結局その一言が全てを飲み込んでくれる僕にとっての唯一無二の魔法の言葉。
口癖はそうなるべくして僕に浸透していったんだろう。
そこで得られる安堵感ですら虚構のものなのに。
だから僕が今まで築いてきたものと等価値のものなんてどこにもあるはずがないと思ってる。
僕の為の、僕だけの世界。
≪まぁ、いいか≫
いいんだ。
いい・・・。それよりも今は‥‥。
僕はベッドに横になっている。ここはいつもの自分の部屋。
の、はずだった。
でも、目を開けた先に広がっていた景色はまるで違った。
体に掛けられている布団は花柄模様のピンク。そしていかにも女の子が好きそうなヒラヒラがこれでもかと付いたカーテンが靡いてる。
床には踏めば足が沈みそうな程のフカフカなカーペットが敷いてあり、ファンシーで可愛らしい小物類がそこかしこに並んでいて、全体的に・・・こう、なんて言うか‥・・・僕の部屋じゃないことだけは猿でも分かりそうだった。
〈ここはどこ??〉
僕はようやく動きそうな首を逆方向に振ってみた。
〈はっ?!〉
そこには思わずビックリしてしまった大の大人程もありそうなクマとウサギのハーフみたいなぬいぐるみが今にも『こんにちは♪』と言いそうにして頭をもたげて鎮座していた。
ここがどこかはさっぱりわからない。けど……
ここはどう見誤ったって所謂女の子の部屋だった。
それはそれは絵に描いたような、僕にとっての未知の、そして憧れの世界。
決して勝手に覗いてはいけない世界。
浦島太郎の玉手箱――――‥‥には歳を取る煙が詰まっていたけれど、ここにはさっきから僕の鼻孔を悪魔的に刺激し続ける良い匂いがこれでもかと詰まっていた。
全くもってこんな場所に免疫のない僕は、さっきとは別種の眩暈と頭痛に再度襲われる。
最早これは玉手箱と言うよりはパンドラの箱だった。
それにしても本当に僕はどうしてここに??
大量のクエスチョンマークと戯れながらも女の子の部屋を強く意識した瞬間、僕は激しい居た堪れなさに襲われて跳ね起きた。
あちこちの痛みも忘れて身体機能も全回復。
取り敢えず見付けたカーテンを広げて窓の外の景色を見てみることにする。
が――――――――――――――――――――――‥…
それから僕は茫然とした。
何故ならそこには僕が今まで生きてきて見たことも無い風景が広がっていたから。
いや…いつだったか分からないけど昔どこかで見たことがあるのか‥?
けれど混乱した脳内で暫くずっとその街並みを眺めながら考えてみて、どうにか僕はその正体に思い至った。
これはまるで昔の日本だ。明治時代くらいの長崎とかその辺り?
日本家屋が沢山あり、遠くに海も見えて港らしきものも見える。
なかなか思い出せなかったのは見たものが文献の白黒の写真だったから。
そして西洋と東洋が雑多に入り混じった風景。
でも似ていると言ってもそれ以外の異質さの方がインパクトが大きく瞬時に入る情報量が多過ぎて処理が追い付いてくれない。
とは言え少し山合に目を向ければ大半が純日本風の家で密集した色とりどりの瓦屋根の波が規則正しく遠くまで続いていた。
等間隔に3層ほどの砦のようなものが配置されているけどそれは中世の建物のようだ。
建築的にはゴシック調みたいな感じだろうか。
ただ1つだけ強烈に違和感を感じたのがどの住宅らしき家も頑丈そうな機械的な高い塀に囲まれていた事だろうか。それは5メートルはゆうにありそうだった。
だから明治の風景に似てはいるけど異質なもので、それもここが僕の知っているどの場所にも該当しない事を感じさせてくれる。
15歳の経験薄な人生に知らない事は山積みで、もしかしたらこの地球上のどこかにはこんな場所もある~もしくはあった~のかもしれない、とはほんの少し思わなくもないけど、それにしたって、今僕が何故ここに居るのかの理由付けにはさっぱりならない。
一端この家の周りに視界を戻してみると、ここはそれなりに高い場所に建っているらしかった。
建物も3階建はありそうと言うか今自分が経ってる場所が3階相当の高さのようだ。
それから改めてふと視線を部屋の中に戻した時だった。
奥にあったドアがガチャリと音を立てて勢い良く開いた。
そして…。
入って来た一人の少女が僕を見て驚いた表情で部屋に入りかけた足を止めたんだった。
「あっ…。意識、戻った、ん‥・ですね‥・・。良かっ・・た、です」
少女は驚きから幾分伏し目がちに僕を見ながら心底安堵した表情で口を開く。
「だい‥じょうぶ、ですか・・・??」
「あっ??あぁ?今さっき目が覚めたんだけどここは君の???」
少女はこくりと頷いた。
「使える部屋が無くて、こんな場所で悪いんですけど、他に隠せるところも無かったから…」
「隠せる…??」
「あっ、そのっ‥。えっと……そう、隠す場所‥。出来るならそれも隠した方がいいと思います」
ずっと何故か目線を横に逸らしていた少女は平坦な口調で更に衝撃的事実を言う。
「あの、ちょうど着替え用意したところだったんです。これここに置いておきますね」
そして服をベッドの上に置くと背を向けてドアの背にプイッと消えてしまった。
変だな、と思った僕が自分を見ると、変なのはまるっきり僕の方だったと気付く。
「えぅぁっ?!ア――――――ッッッ!!!!あうおえあぁぁぁあっっ。ごっごごごごごごめんっ???!!!」
何てこと無い。僕は生まれたままの姿だった。
寝起きで呆けていたし、この不可解な事態に少なからず混乱もしていたけど、それにしたってそんな事にも気付かずに突っ立っていた僕は羞恥心が全身を包むより素早く少女が置いた服に飛びついた。
「ホントにごめんっ‥。何だかまだ頭の中がぼーっとしててっ」
ほんとに僕はここで何をしていたんだろう。もしかしてもしかしてもしかして、あの少女と‥。
そこまで考えて頭をブルブルッと振った。
僕はそれから言い訳にもならない弁解をあれこれしながら、また頭の痛みがはっきりと激しく刺すような痛みへと変わっていくのを感じて、まるでそれは僕に何かを訴えかけるように全身を駆け巡っていった。
そんな中、少女が用意してくれた淡い水色の星が散りばめられたパジャマのような服をのそりのそり着替え終えると僕はぐったりとベッドの隅に腰を下ろして俯く。
「着替え…。ありがとう」
僕の声を聞いて少女はまた部屋へと入ってくる。
「でも、本当によかった…。目を覚ますかどうかも運次第だってあなたのパパに聞いてたんです…」
パパ???僕の…???父さんっが?!
その単語を耳にした途端、さっきまで続いていた頭の痛みは突然弾ける様に一気に臨界点を超え、目の前がスパーク。
僕は深い意識の中へと落ちていった。
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「――――きろっ!!!」
誰かの声がする。
「お前を今か―――こ‥‥るがっ、全てがきの―――ている、かは、怪しい」
何なんだよ‥あぁ、この声多分父さんだ。でも凄くうるさいんだけど…、大嫌いな人。
電波の悪いラジオみたいな感じが余計うるさく感じさせる。
「だ――ら、これは賭け‥。すまない、これがげん―――らしい」
なんの話か分からないけど、僕の意識はどんどん遠くなってそれどころじゃない。
そう言えば僕さっきまで何してたんだろう…。
ほんといつも勝手な人。
「……………さよならだ」
そのセリフを最後に父さんの声は途絶えて、やがて僕の思考も深淵の中に飲み込まれていった。
≪まぁいいか≫
そんなの起きれば分かるし‥。
「―――――――――おやすみ、父さん」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
どれくらい経ったのか分からないけど、僕は深い眠りからまた解放される。
隣にはずっと座って様子を見ていてくれたらしいさっきの少女がちょこんと椅子に腰を掛けて、僕が目を覚ましたのに気付くと、また安心したような顔をして、それから訥々と緩やかに僕へと語り掛けだした。
「本当に大丈夫ですか??どこか・・・・まだ痛いところとか無いですか?また倒れたからとても心配しました」
僕は小さく頷いた。
そしてようやくこの質問を少女に投げかけた。
「えーっと…ここは君の家なら…??と言うかドコ??」
「あっ…あの、それは……」
少女は天井を仰いで一つ大きく息を吐く。
「あの、ですね。貴方は異世界の住人になってしまったの。そして多分、もう、帰れない‥ここは一番近くて一番遠い場所なんです」
それから少女は微笑んで言った。
「でも、わたしが居るから…大丈夫、です」
言いたい事は山程あるはずなのにその後に出てきたセリフは「そっか…」だけだった。
どんなに僕が事なかれ主義の不毛な人間だったとしても、もしあの元の世界を心から愛していたとしても流石に………。
≪まぁいいか≫
と、そこで魔法の言葉は出てこなかったのは僅かでもあの人生を捨てたもんじゃないと思っている証なのかもしれない。
なんて分かってるよ。
さっきまで僕を散々悩ませていた頭痛もどうしてかすっかりと消え去ってたけど、その代わりに僕が言ったセリフは‥。
「今日は良く夢を見る日だなぁ…」
と言う、どうしようもなく陳腐な、誰にでも代替えの利く、僕自身の言葉でしか有り得なかった。
最後まで読んで頂けたのならありがとうございました。
この物語はフィクションです。
小説は読まれてこそ生きられるものだと思いますので、今後の反応次第で、作者のモチベも含めてどこまで書き続けられるか、応援してくれる方が1人でも増えてくれるよう祈りつつ、なるべくまずは自分が楽しんで少しでも納得出来る作品が書けるように努めて行きたいと思っています。
今後の展開はこの世界の成り立ちや少年の今の置かれた立場の一端に触れつつ、この世界の先住人達へとクローズアップされていくのではないかと思われます。