34 宝具
「ちなみにこれも『宝具』デスよ」
そう言って、テント売りが腰に縛り付けていた袋を取り外した。
先ほど金槌を取り出した小さな布袋だ。
死体回収していた寺院のおじさんが持っていたものと、同じやつに見える。
それをテント売りがナタリに手渡した。
ナタリとムーコが、それを不思議そうに眺める。
二人は見覚えがないようだ。まぁ、死体回収の現場なんて積極的に見ないしな……。
「よろしければその袋の中に、黒髪ボインちゃんが持ってる薙刀を入れて見てくださいデス」
「えっ、袋に?」
「薙刀を──ですか?」
「はい。お試しくださいデス」
仕方なく、言われたとおりナタリは布袋を広げ、そこにムーコが薙刀の柄の部分を入れていく。すると──
「えっ……あれ?」
「入っていってるのに…………すごいですっ!」
そう。薙刀がどんどん入っていってるのに、布袋の大きさはもちろん──形も全く変わらないのだ。
確かにすごい……。
まるで手品か魔法のようだ……。
結局、薙刀はほとんど入ってしまった。明らかに普通じゃない現象……これは……。
「一応、名前を『ホテイ袋』といいますデス。入る容量の性能差はあるけれど、いっぱい荷物が入れられて、尚かつ重さも軽くなるという『宝具』なんデスよ」
マジか……すごいな。
「他には……あ、皆さんの持ってる刀や薙刀も『宝具』デスよ」
「えっ……これも?」
オレは腰の退魔刀を見る。
「はい。退魔刀という宝具デス。ご存じかも知れませんが、『黄泉返り』は無限の復元能力を持っていて、一般的な刃物で斬っても割とすぐ復元しちゃうデス。けれど退魔刀で与えた損傷だと、それを大幅に遅らせる事が出来るのデスよ」
そうなんだ……。
そう言えば、ビャクさんが『黄泉返りに良く効く』って言ってたっけ……。そういうことだったのか。
ていうか、無類の復元能力……。
黄泉返りには、そんなものがあるんだ。
神社の時って、すぐムーコが骸骨の頭を踏んづけてトドメをさしたからな……。
「ま、そんなわけで、どうデス? まさしく『完全防犯テント』とも言えるべき一品。特にお客さんのようにお若い女の子がいる場合は、最高におすすめデスよ?」
……確かに。テント売りの言うとおりだ。これがあれば安全に生きていける。
骸骨だけでなく治安の良くなさそうなこの国で、オレ達にとっては必須とも言えるテントだろう。
「テント売りさん。『対人結界』で触れられないのは解ったけど、一時的にでも『持ち主登録』というのをして、持ち主として結界が適用されないのを試すことは出来ないの? なかを見たりもしたいんだけど……」
これまで黙ってたナタリが尋ねた。
なるほど……。確かに結界のすごさはムーコの実践もあって理解したが、『持ち主側』として結界が作用しない機能は試していない。
ナタリはこういうの気づいて、ガンガン聞いてくれるから助かるな……。
テント売りの反応を見ると、そこで初めて困った顔になった。
……どういう事だ?
「実は『持ち主登録』は、3度までしか使えない機能なので試すことが出来ないのデス」
そう……なのか。
「ですが、今は売り主の私が『持ち主登録』していますので、テントを開けてなかをお見せすることは出来るデス」
そう言ってテント売りがテントの戸を開き、なかを見せてくれた。
おお……。
かなり広い。六畳ほどはあるだろうか。
天井も高く、日本の登山用に作られてるテントと違って頑丈そうな骨組みだ。どちらかと言うと、遊牧民族の移動型住居のそれに近く、その分、そこそこ重そうではある。
「すてきな内装ね」
「かわいいです」
ナタリとムーコがそれぞれ感想を言う。
「ありがとうございますデス。一応、女性向けを意識した商品なので、一般のものよりもお洒落な作りデス」
そうなんだ……。
「一応、こちらにこのテントをつくった『宝具師さま』のお名前が入っているのデスが……」
テント売りが、入り口の内側に目立たないように縫いつけてあるカードを見せてきた。
宝具……師?
カードには【宝具保証書】とあり、その下に【宝具師:ナーシャ】と手書きでサインが書かれている。
「これが『このテントは宝具師、ナーシャ様が責任を持って作りました』という、証明書となるデス。万が一、テントに不具合があっても、『宝具保証書』がついている商品は、『宝具管理組合』というところにお持ちいただければキチンと対応して下さいます」
なるほど……そうなのか。
「ちなみに、この『宝具保証書』を他人が偽造することはまずありません。もし宝具師さまの名を悪用すれば、この国には居られなくなる程のものデスから」
いられなくなるって……。
「宝具師さんって、そんなにすごいんですか?」
「はいっ。すごいも何も、宝具師さまというのは、この国を結界で守っておられる方々デス。黄泉返りがこの世界に溢れだして半年、多くの村や国が落とされてきましたが、宝具師さまが結界宝具を創り出してから、侵略が防げるようになってきたのデスよ。宝具師さま達なしに、人類の存続はありえませんデス」
えっ……。
「この国にも、結界がついているんですか?」
「もちろんデス。入り口にある『結界城』を見ませんでしたか? あれがこのジドの国を守っている『宝具』デス」
ああ、入り口にあった城門……あれがそうなのか……。
「通常、黄泉返りは陽の当たらない深い森や山にいますが、日が暮れると人里に降りてきますデス。ですが、宝具師さまの結界宝具のおかげで真夜中……この国では夜の11頃までは奴らの進入を防いでいるんデス。なので宝具師さまの名を汚す者は、この国で生きることなど許されないのデスよ」
なるほど……。そうだったのか……。
「でも、なんで夜の11時なの?」
ナタリが聞いた。
「真夜中は、結界の効力が弱まるからデス。テントなどの小規模な結界宝具は24時間効果を発揮しますが、大規模な結界宝具となるとどうしてもそうなってしまうそうデス」
なるほど……。だから『夜の11時過ぎ』なのか。死体を片づけていた人も確か11時と言っていたしな……。おそらくテント売りの言っていることは本当だろう。オレとナタリは顔を見合わせて小さく頷く。
「まぁ、別の世界から来られたマレビトさん達には、『宝具師保証書』だけでは安心できないかもしれないデスね。ですから、購入すると言うなら個人登録して試して貰ってから、代金を払ってもらっても構わないデスよ」
なるほど……。そこまで言うのなら『持ち主登録』というのも問題ないだろうな……。
だとしたら……欲しい。
けど30万ポウ。とても足りない……。
「他の安めのテントはもうないの?」
ナタリが聞いた。




