33 結界
「そうデスよ。どんな『黄泉返り』の進入も許さないデスよ」
「どんな黄泉返りも!?」
「そうデス。骸骨も面山賊もみんなデス。この黄泉返りが溢れるご時世、テントに必須の機能デス」
そんなものが……。
だからここらには、こんなにもテント暮らしの人がいるのか……。
でも、結界だなんて……にわかに信じがたい。
本当なのか?
「キミ達も、マレビトさんデスね。ご存じないようデスから実演するデス」
テント売りがオレとナタリにそう言って、後ろ腰に縛ってある布袋から金鎚を取り出す。そして展示してあるテントにそれをぶん投げた。
グィン。
テントに当たる直前、何かに弾かれるように金鎚は跳ね返り──地面に落ちる。
テントは無傷だった。
「これが『結界』の力デス」
なるほど……これがあるからみんなテント暮らし出来てるわけか……。
すごいな……まるで魔法のようだ。
「す、すごいですね……」
ムーコが驚いて言った。
「ん? ムーコは知っててオレ達を連れてきたんじゃないの?」
「いえ、知らなかったです。ただ……こんなにも多くの方がテント暮らしをしていらっしゃるので、大丈夫なのだと……。それよりも沢山あるテントが目の前でどんどん売れていくので、まずは早くお二人にも来て頂いた方が良いと思いまして……」
ああ、なるほど……。だからあんなに急いでたのか。
「あのっ。私も試してみていいですか?」
ムーコが興奮した様子でテント売りに聞いた。
「もちろんデス。その薙刀でお試ししてくれて構わないデスよ」
「わかりました」
ムーコがテントの前で薙刀を構える。
おいおい……それでもしテントが破れたら、『商品が壊れた。買い取れ』ってなるんじゃないだろうな……。
「大丈夫デス。もしこれでテントが壊れるようでしたら、100万ポウあげるデスよ」
オレの不安を読み取ってかテント売りがそう言った。
100万ポウ!? よし、ムーコぶっこわせ!
って……単純にそれだけ結界というものに自信があるということか。
ムーコが二度ほど薙刀を振るったが、先ほどと同じく、寸前で何かに弾かれテントは無傷だった。
「やっぱりすごいです。これが結界ですか……傷一つつけられません」
ムーコが感動して言った。
「ありがとうございますデス。ですが、実はこれ、厳密に言えばただの結界ではないのデス」
「え? ただの結界では……ない?」
「そうデス。本来『結界』とは、黄泉返りなどの邪悪なモノだけを遮断する機能だけなのです。ですから一般的な『結界付きテント』では、先ほどの私の金鎚はともかく、薙刀ちゃんの攻撃では破れてしまいます」
そうなんだ……。
「じゃあ、どうして私はテントに攻撃できなかったんですか? はっ……も、もしかして私、邪悪……」
ムーコがテント売りに聞いて、勝手に青ざめる。
「いえ、それはこのテントがテントの中でも最上位クラスのもので、『対人結界機能』もあるからデスよ」
「対人結界……機能?」
「はい。その名の通り、人に対しての結界機能もあるテントです。具体的に言えば、『持ち主登録した人以外は、結界が作用してテントに触れることが出来なくなる』のデス。つまり、他人に勝手にテントに入られて金品を盗まれたり、テント自体を持ち運ばれる心配もないのデス」
え……。
マジで!?
だとしたらめちゃくちゃいいんじゃないか!? このテント!!
骸骨だけでなく悪人からも守ってくれるテント。彼女の言うことが本当なら是非欲しい。
「試してみていいですか?」
またムーコが言った。
「どうぞデス」
テント売りが許可を出すと、ムーコはテントの杭を引き抜こうとしたり、テント自体を押したりしたが、微塵もテントは動かなかった。
「ダメです。杭もテントもびくともしません」
オレやナタリもテントに触れようとしたが見えない何か……結界によって阻まれた。
「……不思議だ」
「一応、『宝具』デスからね」
「ほうぐ?」
「ハイ。『宝』に道具の『具』と書いて宝具。こういった不思議な力を持つ道具のことを、ここではそう呼ぶデスよ」
不思議な力を持つ道具……。
この世界にはそんなものがあるのか……。




