32 足りない
ムーコを追いかけて、かなりの距離を走った。
もう何十本もの通りを駆け抜けてきただろうか。既に20分は走っている。
なのにムーコはまだ走る。つーか早えなアイツ。
辺りは、居酒屋や妖しげな店などが多く立ち並んでいる。
こっちの方は、町の中心からかなり外れた地域だ。
明らかに治安が悪く危険な感じがしたので、オレは『借家&仕事探し』でも近づかなかった場所である。実際、どうみても堅気じゃなさそうな人たちが多い。その中をオレ達はどんどん駆け抜けていく。
「ナタリっ、だいじょうぶかっ?」
少し後方を走る彼女に尋ねると、息を切らしながら『大丈夫』と手で合図する。反対の手はわき腹を押さえてる。
うん、飯を食ったばかりでこの全力疾走はきついよな……。
しかも、オレは傘とビャクさんから受け取った刀を腰につけてるし、ナタリも同じく短刀を持ってるのだ。ただ走るより重たくてしんどい。
「あそこです!」
ようやく先を走るムーコが叫んだ。
彼女が指し示す先に見えるのは、沢山のテント。
テント、テント、テント。
大小、さまざまなテントが張られていた。
そうか……テントか。
ムーコはいざとなったら野宿と言っていたが、テントがありの野営ならオレもありだ。
けど……テントなんかじゃ、骸骨に襲われるんじゃないのか?
これだけのテントが張られてるってことは、何か大丈夫なわけがあるのだろうか?
ムーコのとこまで来てみると、本当に見渡す限りのテントの数だ。
その数、100や200じゃきかない。おそらく500以上はある。
こんな場所があったとは……。
まるでテントの集落。テント街だ。
「あ、いました! あちらです!」
またムーコが走った。
まだ走るのか……。
ナタリとともに追いかけていくと、そこには『テント売り』がいた。
残り……1つだろうか? 値札っぽいものが張ってあるテントが一つだけ設置されている。ムーコはこれを買おうと言うわけか。
「ああ……間に合わなかった……」
ムーコが、がくっと肩を落とす。
間に合わなかった?
「テント……買おうと、したのか?」
オレは息を切らせながらムーコに聞く。
「はい……。私たちでも買えそうな安いテントが、一つだけあったんです」
残念そうに答えるムーコ。
するとテント売りが寄ってきた。ネコ耳カチューシャをつけた、スタイルの良い少し年上のおねーさんだ。
「先ほど見てた方デスね。ごめんなさいデス。あれは売れちゃったデスよ」
「いえ、仕方ありません。早い者順ですから」
テント売りに答えるムーコ。
ムーコの言うように、テントの横には『早い物順』と書かれた看板が置かれている。
「あれはだめなの?」
オレは、残り一つとなっているテントを見てムーコに聞いた。
「あれは値段がとても届きません」
「値段が?」
テントに寄って値札を見せてもらうと、300,000包と小さく書いてあった。
30万ポウ……。とても足りない。
現在の所持金は、三人合わせておよそ2万8000ポウなのだ。
「たくさん走らせてしまったのに、すみません……」
ムーコがしょんぼりと言った。
「いや、それはいいんだけど……」
テント暮らしで骸骨は大丈夫なのか?
それが気になる。オレはその事をムーコに聞くと、テント売りが『結界付きだから大丈夫なんデスよ』と代わりに答えた。
「……結界付き?」




