page12 守るために、潰す
夜。クロナはフィアを連れ、町外れの廃屋にやってきていた。
目撃情報のあったポイントの周辺。いざという時の退路や防衛戦を想定した、いつものクロナらしくない選択だった。
「大丈夫か、フィア。怖くないか?」
「うん。お姉ちゃんと一緒なら平気だよ」
こうして防衛対象を気遣うのも、やはりクロナらしくない。
いや、いつものクロナらしくない、奥底に眠っていた「本性」を露わにさせる程度には、クロナにとってフィアは大切な存在となっているのである。
「やつらは物量戦こそ得意だが、一度に大きな破壊力を出すのは苦手なはずだ。危なくなった時には、この中に逃げ込めばなんとかやり過ごせるはず……」
廃屋とはいえ、それほど風化しているわけではない。小型の群れを凌ぐには十分な拠点となる。
もちろんクロナには、「危なくなった時」なんて訪れさせずに敵を殲滅する自信がある。ただ、それは単騎戦に限った話であり、防衛戦、それも子供を守りながらともなると勝手が違ってくる。
何を隠そう、クロナは戦闘になると敵の殲滅しか考えないため、防衛任務は今までほとんど一切回されることがなかったのである。
ただ、今回の任務と今までの任務との唯一にして最大の違いとして、クロナ自身が「防衛対象を防衛する気でいる」というものがある。クロナが誰かを守ろうとすることなど、ギルド発足以来初めてのことである。
「よし……。フィア、そろそろ敵が来る頃だ。私がいいと言うまでは、この建物の中に隠れていてくれ」
「お姉ちゃんは?」
「私はもちろん、ここで敵の群れを殲滅する」
「え……」
途端、フィアの表情が陰る。
「やだ、お姉ちゃんも一緒にいてよ」
「大丈夫だ。というか、私が外に出て戦わなかったら誰がドレッドを……」
「や、やだ、怖いよ! 暗いのにひとりぼっちなんていや!」
「いや、そんな事言われてもな……」
ふと、そういえばティアも暗い所が苦手だったなと思い出す。
見た目や性格だけでなく、こんなところまでそっくりであることにクロナは内心苦笑するも、すぐに気を引き締めた。
「フィア、約束しただろう? 私の言うことは絶対に聞けと……」
「守ってくれないの?」
「え?」
フィアはじんわりと涙を浮かべた瞳で、じーっとクロナを見つめていた。
「お姉ちゃん、わたしのこと、守ってくれないの?」
「い、いや、もちろん何があっても守る。だからこそ……」
「お姉ちゃんなら、『側にいるわたし』を守ってくれるよね?」
その言葉が、クロナの心に火をつけた。
「……ああ。もちろんだ」
銃剣、Disfearを引き抜く。
「私の目の届くところにいてくれ。建物の中などにいられてはいざという時反応できないからな」
「お姉ちゃん!」
ぱあっと顔を輝かせるフィア。
どうも彼女といると、クロナはいつもの自分を見失ってしまうようであった。
「……と、どうやら来たようだな」
「敵?」
「ああ。……さすがにべったりくっついていられては動きづらい。少し離れていてくれ」
「うん! 頑張ってね、お姉ちゃん!」
「ありがとう、フィア」
速攻で殲滅する。守るために防衛に徹するのではなく、傷つけないために速攻で潰す。クロナはそう決めた。
静かな空間に、バサバサという羽音が響き始める。その数は数えるのも億劫になるほど。数十、数百の群れで行動するのが蝙蝠型の特徴だ。
「さあ、来い。一匹たりとも逃しはしない」