悪徳令嬢に転生してしまいました
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目を覚ますと、そこは見覚えのない中世ヨーロッパ風の屋敷の寝室の中だった____。
立ち上がって傍にあった鏡台を覗き込めば、どこかで見覚えのある顔が不思議そうにこちらを覗き込んでいるのが見える。
淡い桃色の長い髪に、ルビーみたいに紅い瞳。陶器みたいな白い肌。
どこで見たことがあるのかといえば、それは私が昔ハマっていた乙女ゲームの悪役令嬢”マリアンヌ・ド・ヴァロア公爵令嬢”にそっくりだと思った。
_まさか、それがほかでもない自分の顔だと認識するまでに少し時間がかかった。
「ええっ…。ええーっ!!」
私はその場で尻もちをついて驚く。そしたら鏡の中のマリアンヌも見た目に似合わない間抜けな顔をして尻もちをつく。
「マリアンヌお嬢様、どうされました。
悪い夢で見られたのでしょうか?」
すかさず、使用人が戸口から駆けつけてきた。
「ああ、いえ。な、なんでもないです。
ちょっと転んでしまって。」
「そうでしたか・・・。」
メイドはこわごわと私を抱え起こした。まるで、私の気に少しでも触れたら怒られるとでも言いたげに。
「あ、ありがとうございます…。」
私がぎこちなくお礼を言うと、メイドは仰天して目を見開いていた。
* * *
私が本当に、あの乙女ゲームの悪徳令嬢”マリアンヌ”になっていると確信したのは更にもう少しあとになってからだ。
まあ、周りの人が私のことを、”マリアンヌ”と呼ぶから薄々感じていたのだけれど…
それがはっきりと確信に変わったのは、自分が”マリアンヌ”と同じ異能の持ち主だと気がついたときだった。
「マリアンヌ様、今月も何卒、あなた様の尊いご利益にあやかりたく_。」
ぶくぶく太った成金の親玉みたいな親父が私の前に跪いて、金品のたくさん入った箱を差し出してきた。
乙女ゲームで見たことがある。
確かゲームでは、マリアンヌは様々な魔法薬を調合する能力があった。
それが本当に自分でもできるのかと、一抹の不安を抱えながら、傍にあった空の小瓶に向かって何やら念じると、ゲームのムービーシーンであったように、小瓶のなかに怪しげな色の薬品が勝手に貯まっていった。
出来上がった小瓶を男に渡すと、男はニタニタと微笑んでいた。
「ありがとうございます。
これを使えば、ライバル社の社長は病に伏し、会社の業績も落ちてしまうでしょう」
男は金品の入った箱を置いて、意気揚々と部屋を後にした。
(ああ、なんだか心が痛むわね。)
見様見真似でやってみたものの、私が適当に念じて生成したあの薬が、本当にあの男の期待する効能を得ているのかは正直わからなかった。
もしかしたら、あいつは何の効力もない色水を手にして喜んで出ていったのかもしれない。
ゲームではあんな感じで、マリアンヌの調合した薬品達によって主人公周辺の各登場人物が苦しめられていくことになる。
私が転生した乙女ゲーム。その主人公である”リリィ”は、平凡な庶民の女の子だったが、ある日魔法の才能を見込まれて、魔法学校に推薦入学する。
そして、数々の登場人物と交流しながら成長していくのだが、そんなリリィと攻略キャラクター達の恋路を妨害するのが、私の転生したマリアンヌの役割だった。
私が転生したマリアンヌ。彼女は、幼い頃から思いを寄せていた王太子“ヒースクリフ”と、リリィが親密になることに嫉妬して、リリィに様々な妨害工作を繰り出してくるのだ。
オリジナルストーリーでは、最終的に主人公のリリィがマリアンヌを破って、ヒースクリフ王子と結ばれる。みたいな展開がエンディングだったはず。
悪徳令嬢ということもあり、マリアンヌはゲーム内ではかなり悪質な性格であった。リリィは、マリアンヌの数々の魔法薬による妨害により翻弄されていく。
その妨害工作があまりにも攻撃的なため、最終的なマリアンヌの顛末として、彼女が生存できるエンディングは一個か二個ぐらいしかなかった気がする。
この世界が、ゲームのシナリオどおりに動くのなら……私はかなりうまく立ち回らないと生存できない。
(はあ、せっかくなら悪徳令嬢ではなくて、主人公のほうに転生したい人生だったな__)
と、私はこともなげに呟く。
_では、自分がこれからどう立ち回れば、死亡エンドを回避できるかと言うと。
まずは、主人公やその他周辺の登場キャラクターたちに極力かかわらないことが重要だ。
ちなみに、この乙女ゲームの攻略キャラクターは、ヒースクリフ王子以外にも何人かいる。そのどの登場人物に対しても、マリアンヌは何らかの因縁をつけて主人公を妨害しようとするのだ。ヒースクリフ以外の攻略キャラクターに対しても同様に注意しなければならない。
ここに関しては、正直私はゲームの内容を覚えていたので、うまくやれると思う。
私はそもそも主人公から恋人を取り上げようなんてこれっぽっちも思っていないし。
あとはもう一つ、後半で主人公のリリィに立ちはだかる攻略要素が他にもある。
それが、物語の中盤から登場する悪役公爵の”ロクサーヌ”だった__。
彼はストーリーの後半から登場する、この乙女ゲームのラスボスとも言えるキャラクターである。
彼はゲーム内では常に仮面を被った姿で描かれていて素顔は謎に包まれていた。
性格は、非情に凶暴で好戦的。ヒース王太子に深い恨みを抱いていて、マリアンヌが退場した後、後半から主人公達を翻弄する。
彼は元々王家の血を引くものだったが、王太子ヒースとの間に後継者争いか何かの確執があった。そしてヒースへの憎悪が募って、リリィとの恋路にも立ちはだかっていく。
ラスボスと言われる通り、彼は強大な魔力を秘めている。失敗すればバッドエンド必須の要注意人物だった。
まあ、このロクサーヌが登場する頃には、マリアンヌは既にリリィに敗れて退場しているだろう。だから、私がロクサーヌと関わることはほとんど無いと思っていた。




