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第九十二話 作戦のない作戦の決行前日

「明日の作戦は、特にないね。突っ込むのみ。」


 クレアが腰に手を当てながら言った。彼女の視線の先には、大きな蔵がある。


 赤茶色のレンガでできたその巨大な蔵には、大きく頑丈な鉄扉があった。その開け放たれた扉の奥には、さまざまさ武具、防具が並べられている。


 蔵の中では何人もの男女がそれらを手に真剣な表情で話し合っていた。


 クレアの周りには、オフィーリアたち先祖返り五人とマダムクロッシェ、キースがいた。


 オフィーリアが尋ねた。


「突っ込む?」


 クレアは頷きながら、

「島のみんなで一斉に突入するのさ。城の中がどうなってるなんてわからないからね。作戦なんて無意味だよ。臨機応変に、とにかく数で攻める。めちゃくちゃに暴れまくる。

たんまりと聖剣も作ったし、防具にだって聖鋼が練り込まれてるんだ。

何匹魔物が出たって、平気さ。ちょっとやそっとじゃ死なないよ。

それに、リアムが島の貴族らを城から遠ざけたからね。残っているのは、ダニエルとネルソン家だけだ。」


「ダニエル――、じゃあ、シーブ家も?」


 レオンの言葉にクレアは首を横に振った。


「シーブ家は、今回の詐欺事件でダニエルを見限ったよ。勝手に当主の許可も得ないでクルーザーを動かしてそれで島の貴族を誘拐したんだ。当主だって、自分たちの命が惜しいのさ。息子を切り捨てた。」


 当然だよとクレアは腕を組んだ。でもねと話を続ける。


「ネルソン家はダメだったね。あそこの次期当主はエリザベスの姉だっけ? あの子は、気が弱くってね。なんだかんだ、エリザベスが実権を握っちまったらしくて、当主も今は体調を崩して――あそこは、もうだめだね」


 クレアはそう言ってから、仕方のないことさとため息を吐いた。


「とにかく――、あそこにはもう敵しかしない。――ただ突き進んで倒すのみ。」


 クレアが仰ぎ見た先には、フェイデン城が見えた。彼女はその白い城を眺めながら、

「まずは、あたしらと島の爺さん方で派手に城の前で暴れて、敵の気を引くから、あんたたちはその隙に抜け道を通って城に入りな。

あらかたの抜け道は蜘蛛が埋めちまったけど――、実はね、一つだけ残ってたんだよ。抜け道が」


 クレアは遠くを見つめたまま目を細めた。

「ワーデンがね。よく使っていた抜け道でね。あたしんちの裏に通じているのさ。ワーデンのやつ、城からその抜け道使ってこっちに下りてきては、あたしんちに来てね、それでよく熱く語ってたんだよ。

この国に以前の活気を取り戻したいって、島の平民を含めたみんなが平等に幸せになれる国を作りたいって――」


 あの子も助け出してやりたいとクレアは、拳を握りしめた。


 オフィーリアの手を握っていたルークの手に力が入る。彼を見上げたオフィーリアは、ルークがぎりと奥歯を噛みしめるのを見た。


 同じくルークを見ていたマダムクロッシェが口を開いた。


「大丈夫よ。そこの抜け道がばれていないってことは、ワーデンがそこを守っているって証拠だし――、それに、ずっと残っているの。とっても弱いけど、小さくなってしまっているけど、彼の想い。ちゃんと消えずに残っているわ」


 マダムクロッシェは、ルークの背中を撫でながら、

「彼らの救出は、私たちに任せて」


 キースに視線を送った。キースは、マダムクロッシェの言葉に真剣な表情で頷き返し、

「俺らギルドが城に囚われている人たちを助ける。増援も来るからな。安心しろ」


「増援ですか?」


 ロイドが尋ねた。


「ああ、そうだ。お前達もよく知っている連中だ。そろそろ、到着している頃だ」とキースは、ニヤリと笑った。


「ルーちゃん」


 ルークは、その声にびくりと肩を震わせた。おそるおそる振り向くと彼の視線先では、にんまりと笑顔を見せる大柄な女性がいた。


 彼女の隣には赤い髪の男性が白い歯を見せながらオフィーリアに笑顔を見せている。


「げ」


 ルークが、女性の顔を見て顔を歪めた。彼とは反対にオフィーリアはその顔を輝かせた。


「ライリー、スラムの――来てくれたの!? みんなーー、嬉しいありがとうーー!!」


 オフィーリアはルークの手を取ったまま駆け出した。ライリーに抱き着くオフィーリア、彼女の隣で苦虫を噛み潰したような顔をしたルークが、一歩二歩と後ずさった。


 彼の反応を見た大柄な女性は、はっはっと大きな口を開いて笑いながら、

「なんだいルーク、後ずさって。安心しな、とって食いやしないんだから。ハグもなしだ――あんたがリアを束縛しない限りね」



「――ああ。この人が」


 例のと、クレアがにやにやしながら言った。クレアの横でキースが同じくニヤリと口角を上げながら、

「ルークのお目付け役だ。紹介するよ」と彼らの方へと歩みを進める。


 彼らの頭上に穏やかな秋の陽射しが降り注ぐ。


 キラキラと光る彼らを眺めながらマダムクロッシェは、

「最高ね」と、呟いた。

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