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第九十話 帝国から来たもの

「不審な船って、ダニエルの――。ダニエルの船が戻って来たの?」


 オフィーリアは、クレアに尋ねた。クレアは真剣な表情で頷いた。


 オフィーリアたちはクレアの話を聞くために食堂に集まっていた――。


 クレアを囲むようにして、マダムクロッシェ、キース、リチャード、そして、オフィーリアたち四人とイーサンがいた。


 イーサンは、やつれた様子で暗い表情をしている。オフィーリアは、彼の隣に座った。オフィーリアの隣には、ルークが陣取っている。


 オフィーリアたちが救出した貴族らが最初に乗っていたクルーザーが、昨夜、港に着いたとクレアが言った。


「夜ですか。では、事前の申請はなかったのですね。」


 キースがクレアに尋ねた。クレアは厳しい表情をしながら答えた。


「そうだよ。港へ入る申請は、事前になかった。あったとしてもあんな遅い時間の入港、危険だ。許可する訳にはいかないよ。

でも――、貴族のことだからね。年に数回はそんなことがあるっちゃあるのさ。

低位貴族なら、ギルドの権限で何とかしてもらえるけど、高位貴族がそういう事をしても、あたしらは文句を言えないからね。

できるのは、遠くから何も悪いことが起きないように、奴らに気づかれないように、静かに見守るくらいさ。」


「それで、何かを見つけたんですね。」


 キースが確信を持って尋ねた。キースの言葉にクレアは、頷く。


「港に入った人間は、数人。みんな、黒いフードをかぶっていたから女か男かの区別すら難しかったみたいだよ。

それよりも、監視のやつらが気にしていたのは、彼らが(ここ)に運び入れたものだ」


「運び入れた――」


 誰かかが呟くように言った。


「彼らは、大きな長方形の箱を運んでいたそうだ。人が一人は余裕で入れるほどに大きかったそうだよ。

その箱、綺麗に装飾されていたらしくてね。月明かりの下でも分かるほどにくっきりと豪奢な模様が浮き上がっていたそうだ。

監視のやつらもその装飾があまりにも高価そうだったから、気になったらしくてね。ついそれを目で追っていたようなんだ。で、その箱の行方を眺めていたら、その蓋がね。

ひとりでに開いたそうなんだ。正確には、ずれて隙間が開いた程度だったらしいんだけど、その隙間から煙のようなものがあふれ出てきたんだって。」


 言っているクレアのこめかみからは汗が流れ落ちた。


「その煙みたいなもの。レオンが、ギルドに倒れ込んできた時に、レオンの体に纏わりついていたのと一緒だったって、その監視していた奴、震えていたよ。

そいつ蜘蛛に噛まれたやつでさ。その蜘蛛に噛まれた時と同じ感覚がしたって、ただ、煙を見ただけなのに、蜘蛛刺された時の絶望感が何倍にもなって襲ってきたような感覚だったって、やつ、顔を真っ青にして怯えていたよ。」


 クレアが言い終わると、レオンが口を開いた。


「瘴気か」


 オフィーリアがネックレスを握りしめた。イーサンが意を決したように話し出した。


「恐らく、魔王がその箱――、棺に入っていたんだと思います。」


 イーサンの言葉に、マダムクロッシェも同意した。


「帝国でずっと監視を続けていた魔王の気配を昨日初めて、この島で感じたわ。その気配、帝国で私が感じていたものよりもずっと濃いものだった。そして、それ、昨夜遅くに、島の王宮、フェイデン城に入った。」


「棺って、魔王、死んでいるの?」


 オフィーリアがおそるおそる尋ねた。イーサンは、ネックレスを握りしめている彼女に、

「魔王は、この世界に長くいすぎたんだ。初代との決着をつけられなくて、帝国に逃げただろ? 魔界にも帰ることができずに、それでずっと帝国の王宮の地下に潜んでいたんだけど、そもそも魔王にとってこの世界は、破壊するだけのものであって、住むところではないからね。

彼にとっては、この世界は毒のようなものなんだ。ここにいるほど、彼の身体はこの世界に蝕まれていく。

彼がこの世界に来て数百年。今の彼は、衰弱しきって、寝たきりの状態だよ。」


「じゃあ、もし、城に乗り込んで、魔王を見つけたら、私達でも、彼を――」


 オフィーリアがイーサンを見上げた。イーサンは、彼女の言葉に慎重に言葉を紡いだ。


「今の彼なら――、もしかしたら。彼が利用しようとしていた貴族たちも孤児院の子どもたちも、もう魔王の自由にはならない。あとは、帝国から来た奴の手下の人間と、フォーリー、奴らが今使役している少しの魔物だけ。だから、もしかしたら――」


 彼の言葉を聞いたオフィーリアは、目に涙を浮かべながら、マダムクロッシェに視線を向けた。


「だったら、もし、魔王を私、私が倒したら、ノエル、ノエルも取り戻せるよね?」


 縋るようにマダムクロッシェに言ったオフィーリアに、マダムクロッシェは、表情を引き締めながら、ゆっくりと頷いた。


 オフィーリアが、はあと震えながら息を吐いて頬を緩ませた。


 その時、彼女の背後の扉が開いた。


 オフィーリアが振り向いた先には厳しい表情をしたリアムがいた。


 リアムは、無言でオフィーリアたちの目の前まで来ると、顔を歪めながら口を開いた。


「城から島の高位貴族に報せが届いた。この国は帝国の支配下になる。そして、新たにこの国を治めるものとして、帝国の王族の名前が挙がった。

その名前に我々は覚えがないが、シンシアによると、それは、魔王の末裔が代々受け継いでいる家名だと言うことだ。

そして、その者の絵姿も届いたのだが、それが――」


 リアムが差し出した絵姿には、見覚えのある人物の姿があった。


「ノエル――」


 オフィーリアは、ネックレスを握りしめた。

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