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第七十九話 勇者パーティー、初めての航海

「フィー、夜風は体を冷やしやすいから――、ほら」


 ルークがオフィーリアの背中に抱き着いた。


 オフィーリアの隣で夜空を見上げていたレオンは、冷ややかな視線ルークに投げかけた。


「お前、このくっそ暑いのに体を冷やすもなにもないだろ。うっとうしいな、リアから離れろよ。島に送り返すぞ。」


 レオンは、ルークの腕の中でもぞもぞとしているオフィーリアの手を取った。


 オフィーリアたちは帝国へ向かうためクレアが用意した小型船に乗っていた。


 レオンとルークがオフィーリアの手を引っ張っているのをみながら、ロイドが不満を口にする。


「ルーク、せっかく綺麗な夜空をゆっくり眺めていたのに、僕たちの邪魔をしないでくれる?」


「そうよ。今日はせっかくの綺麗な満月なのよ。海も穏やかだし――」


 オフィーリアは、ルークを引き離しながら頬を膨らませた。びりっと指先から火花を弾かせる。


「いたっ。フィー、ひどいよ。」


「言ったでしょ? びりびり魔法使うって、それに、何よこれくらい。すっごい手加減したわよ。大げさね。」


 ふいと顔をそむけたオフィーリアはその視線の先にノエルを捉えた。彼は、船を操縦しているリチャードとの話を終え、イーサンとともにオフィーリアたちの方へと歩いてきた。


「ノエル!」


 オフィーリアは再度伸ばされたルークの手をひらりとかわしながらノエルに駆け寄った。ノエルは、やわらかな笑みを浮かべて目の前まできたオフィーリアの頭を撫でた。


 ノエルの隣に居るイーサンが意味ありげにルークに視線を送った。イーサンは、ニヤニヤとしながら、

「今日はルークの感知魔法は一回もかけられなかったみたいだな。」


 イーサンの言葉に、ルークは不満な様子でオフィーリアたちの方へと駆け寄って来た。オフィーリアの指先から閃光が走る。


 必死で閃光を避けているルークを横目に見たオフィーリアは、それから満面の笑みで、

「イーサンがルークの魔法を何度も解除してくれたお陰よ。ルークも、やっと諦めたみたい。

白魔法使いと黒魔法使い。お互いにお互いの魔法まで無効にできるなんて、私、全然知らなかった。――初代の記録では、黒魔法使いの能力(ちから)で奪ったものを白魔法使いが取り返すことができるっていうことしか書かれてなかったわ。

初代賢者様が授けてくれた魔法までお互い無効にできるなんて――やっぱり、あの記録係ポンコツだったのね。」


 オフィーリアの言葉に、ロイドが反応した。彼は、思案顔で顎に手を添えながら、

「――でも、もしかしたらこの魔法で魔法を取り消すっていう能力は、当時はなかったのかもしれないよ。

だって、島のみんなが鉄を聖鋼に変えるっていうのも、テッドや孤児院の子どもたちが回復薬の効果を増幅させるのだって、当時はなかったものだし――」


 彼らの会話を聞いていたレオンが、白い歯を見せながらニヤリと笑って、天を指さした。


「ルークがあまりにもフィーを束縛しまくるから初代黒魔法使いが怒ってイーサンに特別に能力を授けたのかもな――」



 ******



「――リアたち、明日の朝早くに帝国(こっち)の港に着くそうだ。あいつらがギルド(ここ)に到着するのは――、昼前ってとこだな。」


 キースは、ソファに座りながら言った。彼は、自身の肩を揉みながら背もたれにぐったりと身体を預けた。


 彼の向かい側には、マダムクロッシェがいる。彼女も疲れた表情をしながらソファにもたれ掛かっている。


「ルークまでくるとは思ってなかったけど、でも、ちょうど良かったわ。まさか、あのスラムにあんなにたくさん、フォーリーの被験者がいたなんて――、灯台下暗しもいいところだわ。」


 悔しそうに顔を歪めたマダムクロッシェは、大きなため息を吐きながら天井を見上げた。


「仕方ないさ。あそこは、好戦的で排他的な奴らが集まった地区だったから、俺らギルドでも深くへは入らせてもらえなかったからな。」


 眉尻を下げながら言うキースに、マダムクロッシェも頷いて見せながら、

「でも、本当に良かったわ。あの地区のリーダーが代替わりして。新しい彼、ライリーのお陰で、ようやく私たちもあそこに入ることができたし――」


「そうだな。あとは、あいつらが到着したらライリーにスラムを案内してもらって、ノエルとルークで被験者の治療と、あとはイーサンとロイド、レオン、リアで、スラムの治安維持――、そんなところか?」


「そうね。ルークがまたぎゃあぎゃあ言わなきゃいいけど――。あの子、リアと別行動できるかしら。」


 眉尻を下げながら微笑んだマダムクロッシェは、窓の外を見上げた。


 キースは彼女の視線の先にある満月を眺めながら、

「ダメだろうな。あのヤンデレ、絶対フィーから離れないってごねるぞ。」


 二人は、ため息を吐きながらも肩の力を抜いた。


 明日が楽しみねと微笑むマダムクロッシェに、キースも微笑みながら頷いた。

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